「君の忘れ方」
を観てきました。
ストーリーは、
森下昴は付き合って3年となる恋人の柏原美紀を、結婚間近に突然の事故で失ってしまう。昴は茫然自失の日々を過ごし、そんな息子を見かねた母・洋子は実家のある飛騨に昴を呼び戻す。昴はグリーフケアの会「つきあかりの会」に参加し、寂しくなった時、亡き人の幽霊を召喚する方法があることを聞かされる。
というお話です。
森下昴は付き合って3年が経つ恋人・美紀との結婚を間近に控えていたが、ある日、彼女は交通事故で亡くなってしまう 。言葉にならない苦悩と悲しみで茫然自失の日々を過ごす中、母・洋子に促され、久々に故郷の岐阜へと帰省する。
洋子も昴が7歳の頃に夫が急死し、悲嘆に暮れる日々を送っていたが、久しぶりに会った彼女は英気を取り戻していた。そんな母の姿を見た昂は、きっかけさえあれば人は立ち直れるのではないかと考え始め、「グリーフケア」という概念と出合う。
昴はグリーフケアの会「つきあかりの会」に参加するが、うまく悲しみと向き合うことができない。そんな昴は「つきあかりの会」の異端児・池内武彦から、寂しくなった時、亡き人の幽霊を召喚する方法があることを聞かされる。
疑いながらも池内のいう事を信じ始める昴は、現実との折り合いがつかなくなっていくが、ある不思議な体験を通して、昴は美紀の死と向き合っていくようになる。後は、映画を観てくださいね。
この映画、じわじわと感動する映画でした。突然に結婚間近の婚約者が亡くなり、茫然自失となった主人公の昴が少しづつ心を癒して前に進んでいくというお話でした。でもねこの映画でも描いているんだけど、そんなに簡単に忘れて前に進めるなんてことはないんですよ。みんな忘れられないんです。
今までの映画だと元気に前に進むみたいな話が多かったと思うけど、この映画はちょっと違いました。人間はそう簡単には忘れられません。忘れる生き物ではあるけど、何かあるごとに頭に浮かんできてしまい、スッキリなんてする訳がないんです。どこまでも引き摺ってしまう。引きずりながらも前に進むってことが描かれていたんです。
昴は突然に婚約者の美紀を亡くし、美紀のご両親に”娘のことは忘れて新しい幸せをつかんで。”と言われ、美紀のいない日常を過ごし始めるのですが、どこかふわふわしてぼんやりしているんです。現実感が無いんです。そんな昴の気持ちを察して、母親が実家に帰ってくるようにと促します。ちょうどリモートワークも進んでいるので実家でも仕事は出来るのでした。
昴の父親も突然にひき逃げ事故で亡くなり、今も犯人は捕まっていません。なので昴の母親も、昴と同じような感覚に陥った人なんです。そんな母親の元に帰り、一緒に暮らし始める昴。そしてグリーフケアという考え方を知り、その地域でグリーフケアの会に参加してみることにします。
このグリーフケアの会に参加し始めるところからがこの映画の本筋かな。その喪失感をどう補っていくのか、この映画はそれを描くためだったように思います。この会に参加してみると、色々な方がいらしていて、その中に妻を亡くした池内さんという方がいるんです。その人はちょっと変わっていて、いつも隣に妻がいると信じているんです。
池内さんはいつも妻が隣にいて、話しかけいるんです。奇妙に見えますが、それがこの人なりの心の守り方というか、彼の頭の中では本当に妻が見えているのかもしれません。そうすることで自分の社会とのつながりを絶たずに済んでいるんじゃないかなと思いました。人間って弱いから何かにすがっていないと生きられないのだと思います。それが池内さんにとっては妻であり、彼女がいてくれることで壊れずに生きていけるんじゃないかな。
そんな池内さんの姿を見た昴は、最初は奇妙に感じているんだけど、もしかしたら自分にも美紀が見えるようになるかもしれないと思い始めて池内さんにどうやったら見えるようになるのかと聞くんです。面白いでしょ。そして昴の前にも美紀が現れ始めるんです。
いつまでも未練を残して、という人がいるかもしれないけど未練があるに決まってるじゃないですか。突然に消えちゃったんだから。だから私は未練があって、隣に愛する人が見えていても全然いいんじゃないかなと思うんです。それで自分が納得できていて、安心して生きていけるならそんないいことないじゃないですか。しあわせな心でいることが一番です。無理に忘れる事なんて無いんです。
そしてもし色々な人と出会って誰か好きな人が出来たら、その事を相談してもいいですよね。素敵な人に出会ったけど、好きになっても大丈夫かなと問いかけて、いいよって行ってくれたら本当に前に進めるし、隣に見えなくなってもいいですよね。時々は帰ってきてくれるかもしれないけど、いいと思うんです。
そうそう、実は昴の母親も全く父親の事を忘れられなくて、犯人が捕まっていないという事も心に残っていて、何十年も経つのに今もこだわっているんです。仕方ないですよ。忘れられないもん。母親も、昴が帰ってきたことで自分の問題と向き合うことが出来ていきます。
このグリーフケアっていう考え方をこの映画で初めて知りました。とても良い考え方だと思います。無理に忘れることは無いし、ずっと思っていてもいいって言ってくれることが、心を楽にしてくれるんじゃないかな。人それぞれ、ゆっくりと進んでいけばいいよね。
昴を坂東さんが演じていて、”ライオンの隠れ家”でのみっくん役が素晴らしかったけど、この昴役もとても良かったです。今にも壊れそうだった昴が、段々と向き合って美紀が見えるようになり、問いかけも出来るようになる。その心の揺れが上手いなぁと思いました。
私はこの映画、お薦めしたいと思います。単館系の映画で、静かでゆっくりとした映画ですが、出来れば沢山の人に観て欲しいと思いました。だって人間は必ずいつかは死ぬのだし、別れが無い人なんていないでしょ。そして別れは突然にやってくるのだから、その時に慌てないで静かに受け入れていけるように、色々と知っておくのは大切なんじゃないかな。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「君の忘れ方」