「大いなる不在」父親にも人生があり憎しみは愛に変わっていく。いつの日か懐かしく思う日が来るだろう | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
スミマセンが、ペタの受付を一時中断しています。ごめんなさい。

 

「大いなる不在」

 

を観てきました。Fan’s Voiceさんの独占最速試写会が当たり観せていただきました。(@fansvoicejp)

 

ストーリーは、

幼い頃に自分と母を捨てた父が事件を起こして警察に捕まった。知らせを受けて父である陽二を訪ねることになった卓(たかし)は、認知症で別人のように変わり果てた父と再会する。さらに父の再婚相手である直美が行方をくらましていた。彼らに何があったのか。卓は父と義母の生活を調べ始める。

というお話です。

 

 

住宅街に静かに警察が侵入してくる。ある住宅の前で止まり、ドアの前で待ち構えるとスーツを着た老人が大きなカバンを持って出てくる。唖然とする警察官たち。

 

ある日、俳優をしている卓の所に警察から電話が入る。父親が捕まったらしい。大学教授をしていた父が何故と思いながらも九州に向かう。卓が小さいころに自分と母を捨てた父。再婚相手と九州で暮らしていたのだ。30年近く音信不通にしていたが、卓は自分も結婚し、久しぶりに父親と交流を持ち始めたところだった。

 

 

連絡を受けた卓が妻の夕希と共に、久々に九州の父の元を訪ねると、父は認知症で別人のようになっていた。直ぐに介護施設に入所させることを決めて預け、父親が住んでいた自宅を訪ねる。何故か再婚相手の義母の姿が無く、連絡も不通なのだ。施設に入った父に義母のことを訪ねると、「ハサミで喉をチョキンと切って自殺をした」と言う。

 

まさかと思いながらも不安になった卓は、父と義母の生活を調べ始める。まず自宅にあるモノを整理し始め、手掛かりを探してみると義母が書いていた日記が見つかる。そこには父と義母の恋愛についてが書かれており、卓は初めて知ることばかり。そして何故か義母の携帯も家に置いたままだった。一体、2人に何が起きたのか。卓は義母の行方を探し始める。そして…。後は、映画を観てくださいね。

 

 

この映画、面白かったぁ。よく出来ているというのが一番ピッタリくる作品でした。サスペンス、ミステリー、ホラー、ヒューマン、というジャンルを上手く取り入れていて、最後まで到達すると人間のドラマだったんだなぁとじーんと感動するように作られているんです。

 

ホント、途中には何か凄い事件が潜んでいるんじゃないかとか、もしかして殺人鬼がとか、日記に何か暗号があるんじゃないかとか、いくらでも想像が出来るんです。観る人の想像を掻き立てて、好きな方向に持って行けるように描いているんだけど、事実は一つであり、それぞれの人物によってそれぞれの真実があるんです。

 

 

卓は自分と母を捨てた父と、一応連絡を取るようになりましたが、打ち解けてはいないんです。大学教授という立場だった父親は自分の考え全てが正しくて、他の人間は下に見ているような人間です。人の意見は聞いていません。時々いるでしょ、頭が固くて柔軟性が無く誰の意見も聞かず、最後には周りに誰もいなくなってしまう人。父・陽二はそんなタイプに見えました。

 

陽二は妻・ナオミに対しても傲慢で、座ればお茶が出てくるのが当たり前くらいに思っている男です。ナオミとは大恋愛を経て、どちらもそれまでの家庭を捨てて一緒になりました。だから愛し合っているのだろうけど、それでも陽二との生活は大変だっただろうなと思います。優しいけれどモラハラ発言が傷つけていたんじゃないかな。卓に対してもそんな感じでしたから。

 

 

そんな陽二が認知症になり、警察に電話をして”事件です!”と騒いだところから、この物語は始まります。警察に連れていかれたのなら、通常、妻に連絡が行きますよね。なのに卓に連絡が行ったんです。ここで既におかしいなと思いますよね。じゃあ、妻はどこに行ったのか。

 

陽二は認知症なので言っていることは信用出来ません。コロコロと内容が変わるんです。なのでナオミの息子に話を聞くと入院しているから逢えないと言われますが、病院を訪ねると入院していないんです。謎でしょ。

 

ここで思ったのですが、卓にとってナオミは父親を取った女ですが、ナオミの息子からすれば自分から母親を取った男が陽二なんです。立場によって真実が違い、憎しみも違ってくる。卓はナオミを憎む気持ちは無かったけど、ナオミの息子は陽二を憎んでいたのかもしれない。そう思うと、本当の事を教えてくれるとは限りませんよね。でもこの時に義母の妹が関わっているということを卓は知るんです。

 

 

そして日記の内容から、ナオミの実家があった熊本へナオミの妹を訪ねていくんです。この陽二とナオミの時間を追っていく部分は、ロードムービーのようになっていました。情報をたどって、父・陽二と義母・ナオミを知っていくんです。

 

でもね、なんでナオミは陽二が認知症になっていると気が付いても何もしなかったんだろうと思いました。陽二はプライドが高いので、認知症だから病院に行きなさいと言っても反発して喧嘩になるだけだったかもしれない。でも、そのままほおっておいて良いと言うことは無いでしょ。

 

誰かに相談と言っても、卓にも自分の息子にも相談出来なかったのかもしれませんね。だって自分たちの気持ちを貫いたせいで家族を犠牲にした二人ですから、誰にも相談は出来なくて、かといって本人も言うことを聞かないのなら仕方なかったのかな。

 

 

それでも結婚したんでしょ。妻なら何かするべきだし無責任だと思います。今まで苦労をしたのだろうけど、だからって放置して許されることはありません。どんなに逃げても、2つの家族を犠牲にしたことは事実だし、罪は消えることは無いと思います。

 

もし私がナオミだったら、陽二との生活は耐えられなかっただろうな。こんなに理屈っぽくて上から目線で、女は女で男は男で在るべきみたいな事を言う人間、最悪ですから。だから私は”先生”と呼ばれる人種が嫌いなんだ!と言いながら、自分も先生と呼ばれる人種になってしまったけど、ゼッタイに人を下に見たり性差別はしないと決めています。

 

話を戻して、卓は、陽二のことナオミのことを辿っていき、親たちにもそれぞれの人生があったのだということを再認識したのだと思います。親としてではなく、人間として向き合ったことで、彼らの本当の気持ちを理解したのかなと思いました。

 

 

卓に陽二がある出来事のことを話して、”許す”と言ってくれという場面があり、認知症になっても忘れずにずっと気になっていたんだろうなと思うと、人間って本当にバカで後悔することばっかりやっちゃってるんですよね。きっと卓もそんな父親が愛しくなって、全てを許そうと思ったんじゃないかな。

 

そうそう、アフタートークがありまして、監督のお話を聞いたら、鏡に人物が映る場面がいくつかあり、みんな誰かと相対しているんだけど、ひとりだけ自分と向き合っている人がいるんだとおっしゃっていました。確かに洗面所で自分の姿を見ている人物がいましたよね。皆さんは、映画を観て確認してください。自分の姿を見て向き合って、ある人に車のキーを渡したんだろうなと思います。これ少しネタバレですが、覚えておいて映画を観て確認してください。

 

 

なんか、凄く面白かったので沢山書いちゃいました。本当によく出来ているお話で、私が森山さんのファンだということもあり、凄く楽しみました。そうそう、最初の場面で卓が俳優の仕事をしていて、その舞台でのワークショップをドキュメンタリー風に映画に盛り込んでいる場面がありとても良かったです。森山さんの舞台、とても良いんですよ。私はプルートゥとメトロポリスが気に入っていて、髑髏城の七人の”天魔王”も最高かな。カフカの「変身」も良かったなぁ。ああー、もっと森山さんの舞台が観たい。

 

藤竜也さんは昔の怖いヤクザ映画や官能映画っていうのかなあんなイメージがあって、子供のころにチラ見して恥ずかしくなった思い出があります。今は素敵な老紳士っぽいけど、昔の思い出があってちょっと苦手ですが、演技は素晴らしかったです。感動しました。

 

 

私はこの映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。これは良い映画でした。面白くてエンタテインメント性が詰め込まれていて、誰が観ても楽しめると思います。でも、子供にはまだ難しいかな。自分を捨てた父親との対峙ですから、そういう事が理解出来る年齢以上の方の方が良いと思います。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

 

「大いなる不在」