「関心領域」とんでもない映画が出てきました。戦争かホラーか。でも戦争場面も恐怖場面もありません。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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「関心領域」

 

を観てきました。Fan’s Voiceさんの独占試写会が当たり観せていただきました。(@fansvoicejp)

 

ストーリーは、

何もない画面に段々と鳥の声が聞こえてくる。画面が開けると、青い空と美しい川辺で遊ぶ家族の光景が。家族で水遊びに来ているらしい。そして家族は家に帰っていく。黒いドイツ車で家に着くとそこには大きな家に豪華な庭。美しい花が咲き乱れている。

幸せな家族の日常がそこでは営まれている。可愛い子供たちは元気に遊び、学校へ通い、妻は優雅にガーデニングを楽しむ。夫は軍服に身を包み、今日も仕事へと出かけていく。



 

そこはアウシュヴィッツ収容所の周りに立つドイツ軍に所属する兵士たちの住宅であり、ここは収容所の所長であるルドルフ・ヘスの家族の家である。美しく整えられた土地と家。周りにもドイツ兵たちの家が並んでいる。

夫と子供を送り出したヘートヴィヒ・ヘスは、ご近所の奥様たちと優雅にお茶をしたり世間話で盛り上がる。でも何か足りない。何か違和感がある。おかしい。そう、隣では銃声や悲鳴、異様な煙が立ち上がっているのに、誰も気にしていないのだ。

コンクリートの高い塀の向こうでは、ユダヤ人たちが毎日のように連れてこられ殺されているのだろうが、ここでは一切見えない。いや見ていない。まるで異次元のような所だがそこは確かにそこに存在する。彼らはそこで生きているのだ。後は、映画を観てくださいね。


 

この映画、凄い映画でした。何も知らずに観ていたら、普通の東欧の家族の日常生活なんです。ただ、それだけの映像なんだけど、段々と隣がアウシュヴィッツ収容所と判り、収容所の音や状況が伝わってくるんです。映画が始まって、最初に白っぽい画面で何も出てこない時間があります。あれ?どうしたのかなと思っていると、段々と鳥の声が聞こえてくるんです。そこで、この映画は音が重要なのだということを印象付けて、そこから家族の日常の映像に切り替わっていきます。

 

普通の家族の日常に見えるんだけど、夫が軍服を付けて出勤するところでドイツ兵なんだということが解ります。このルドルフ・ヘスは実在の人物で、ルドルフ・フェルディナント・ヘスというのが本当のお名前のようです。そんなルドルフ・ヘスは、家庭では子煩悩な良い父親で、妻のヘートヴィヒには頭が上がらない夫のようでした。

 

 

ヘートヴィヒはどちらかというと恐妻で、ルドルフは妻に何か言われると言い返せず、いうことを聞くしかないようでした。なので、ルドルフが配置換えで移動になることを話すとヘートヴィヒは今の家から別に移りたくないと言ってルドルフは単身赴任することになるんです。

 

この配置換えはルドルフがアウシュヴィッツ内で起きた汚職の責任を取らされて「ラインハルト作戦」が終了した時点でアウシュヴィッツ所長を退任し、ベルリンの親衛隊経済管理本部へ移動し全収容所の管理をする部長になったようです。なので栄転ではなかったのかもしれません。なので妻も良い顔をしなかったのかもと考えられます。しかし映画の中では、広い敷地に広い家、美しいガーデニングを捨ててベルリンに移るのは嫌だというように見えました。

 

 

映画では、何度も塀の向こうのアウシュヴィッツを思わせる音や映像がありますが、収容所としては一切映らず、痛めつけられるユダヤ人の姿も見えません。でも、この家で働いていた下働きの人たちの中にユダヤ人がいたのではないかと思います。この時期、協力的なユダヤ人は優遇されて収容所から外に出されて働かされていた事もあるようなんです。

 

ルドルフの家には仕事関係の方々も来ていて、何人かが来て打ち合わせをするのですが、アウシュヴィッツのガス室の設計図を持ってきていて構造を説明しているんです。連続で焼くことが出来るので時間短縮になるとか、人間を焼く部屋なのにおかしいでしょ。もう人間を逸脱しちゃってますよね。狂ってるんです。

 

 

観ていてゾッとしたのが、ヘートヴィヒが近所の奥様たちと楽しそうに会話をしているのですが、その時にダイヤを見せて隣の家の思わぬところから見つけたと言い、カーテンも欲しかったけど他の人に取られたというんです。首都に住んでいた時、近所のユダヤ人の家をあさって取ってきたことを自慢げに話しているんです。自分たちは上流だというようにふるまいながら、平気で盗みをしたことを話している。とんでもないでしょ。もう人間の基本が崩れてきているんです。それに気が付かないほどおかしな世界だったのでしょうね。

 

映画のアフタートークで映画ライターの高橋さんが「戦争映画版ミッドサマー」だと思えるとおっしゃっていて、凄く解ると思いました。そうなんです、画面の中の家族は平然と普通の日常を送っているのですが、どう考えてもおかしいんです。ミッドサマーでも村の人たちは通常の生活だけど外から見ると虐殺だったりする訳で、それと同じなんです。

 

 

この映画、人間の怖さが良く描かれていてゾッとする場面がいくつもありました。そして時代が時代なら自分だってあちら側になったかもしれないと思うと、怖くて怖くて、この映画が頭にこびりついてしまいました。凄いホラー映画だと思います。ホラー映画ではないけど、ホラー映画になっちゃっているんです。

 

怖い映画でした。最後の方はネタバレになるので書きませんが、脳に焼き付くような場面がいくつもありました。あのね、ヘートヴィヒは全くアウシュヴィッツで起きていることを気にしていませんが、実は、ルドルフは自分の目で現実を見ているので、平気な顔をしながらも心は恐れていて、少しづつ狂って行っていたのだと思います。

 

 

私は、この映画、超!超!お薦めしたいと思います。こんな怖い映画をどうして薦めるのかと言われそうですが、こんな風に戦争の怖さ、人間の怖さを描いた映画は無かったからです。そして今、現在も見ないふりをしている事件が沢山あるでしょ。ウクライナもガザもそこで戦争をしているのに見ないふりでしょ。日本国内だって、子供が虐待されていても動かない行政、自然が壊されソーラーパネルで埋め尽くされても補助金を出す国、何もかもがおかしいのに何も出来ない自分に腹が立つ!そんなことまで考えさせられました。アウシュヴィッツの隣に住む家族は、もしかしたら自分なんです。皆さんに考えて欲しいと思いました。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。(一応楽しめます)カメ

 

 

「関心領域」

 

↓どの映画にも”ルドルフ・ヘス”が出てきます。