「ほかげ」
を観てきました。
ストーリーは、
焼け残った小さな居酒屋に1人で住む女は、体を売ることを斡旋され、絶望から抗うこともできずに日々をやり過ごしていた。そんなある日、空襲で家族を失った子どもが、女の暮らす居酒屋へ食べ物を盗みに入り込む。それ以来、子どもはそこに入り浸るようになり、女は子どもとの交流を通してほのかな光を見いだしていく。
というお話です。
第二次世界大戦、広島と長崎に原爆が落とされる。1945年8月15日、日本は降伏し、終戦。多くの都市が空襲で焼け野原になっていた。
女は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになる。
復員して間もない若い兵士が客として居酒屋を訪れるが、久しぶりに熟睡できたと戦争孤児と共に女の家にいついてしまう。3人は仮の家族のような様相になるが、若い兵士の様子がおかしくなり、その生活も長くは続かなかった。
女と子供は違いに切り離せない中になっていくが、ある日、闇市で暗躍していたテキ屋の男から仕事をもらったと言い残し、悲しがる女を置いて子供は旅に出てしまう。テキ屋の旅の目的も知らされないままに。後は、映画を観てくださいね。
この映画、いい映画でした。塚本監督作品は、観る度に感動して、観た後何日も、その余韻が残る作品です。この作品も、色々なシーンが目に焼き付いて今も離れません。暗い画面の中に赤い火が揺らめき、その炎が温かく感じたり、冷たく感じたり、怖ろしく見えたりと、同じモノが、その場面場面によって違う感覚を与えてくれるんです。
戦争が終わり、街は焼け野原。そんな中で生き残った人々は、なんとか暮らしている状態です。こんな時でも、貧富の差は随分とあるようでした。夫は戦争から帰ってこず、子供も亡くなってしまった女は生きる術がありません。男に言われるがまま身体を売ることで生きていたんです。
ゴジラマイナスワンでも戦後が描かれていますが、あれは良い地域に住んでいた人々で、元々、裕福な家庭の人たちだったのだと思います。元々、貧困層が多かった地域では、売春や裏の商売などで生計を立てている人が沢山いたのではないかと思います。そんな地域で、孤児として生き残った子供。闇市で盗みを働いて、いつも追いかけられているような子供です。きっと、親は亡くなったのだろうと思います。
そんな子供と女が出会い、そこへ、客として来た復員兵が混ざり、疑似家族のような雰囲気になります。この復員兵、良さそうな人かなと思っていたら、良い人なんだろうけど良い人だからこそ、戦争で壊れちゃっていた人でした。戦争で死ぬのも地獄、生きて帰るのも地獄。この復員兵を見ていたら、本当にそんな言葉が頭に浮かびました。戦地で沢山の人を殺し、周りで仲間が殺されて、おかしくならない方がおかしいです。
この映画には、戦争で人生を狂わされて、その先を生きて行けなくなった人が沢山出てきます。戦争に行って狂ってしまった人。戦争に家族を取られて狂ってしまった人。今、生きている私たちは、そんな中で、もがいて生き続けてくれた人のおかげで、ここに生きているのだと思うと、生きているだけで丸儲けという言葉がピッタリなのかもしれません。
この映画を観ると、祖父母や曾祖父母が戦争の事を全く語ってくれなかった意味が解るような気がしました。両親は、祖父は戦争の話は一切してくれなかったと言っていましたから。特に、母方の祖父は軍医をしていて南方の島に行っていたらしいのですが、帰ってきて、一切、その事には触れなかったそうです。色々とあったのでしょうね。
趣里さん演じる”女”と、森山さん演じる”テキ屋の男”がメインとなり、その二人を子供の目で見るという内容になっています。子供は、優しくて母のような女に懐いていて、ずっと一緒にいたいと思いますが、ある事が起こり、女は子供を遠ざけます。仕方の無い事だけど、可哀想でした。本当に戦争の犠牲者ですよね。
そして、もう一人の”テキ屋の男”。彼こそ、戦争で人生を狂わされた人でした。その話しぶりや内容からすると、良い家の出で良い大学も出た人なんじゃないかな。戦争さえなければ、その才能で日本を引っ張って行けたような人だったのだと思います。でも、戦争に行かされ、その才能を戦争で使われてしまい狂ってしまった。きっと、こんな人は沢山いたのでしょうね。
そして、上の方で命令していた鈍感な人々は、平然と生き残り、平然と子孫を残していく。だから、今の日本はダメになったのだという人もいますよね。私もそうだろうなと思います。責任を取るということをしない人間ばかりになってしまったので、ダメになったのでしょう。自分は、そんな無神経で鈍感な人間にはなりたくないと思ってきましたが、今の政治家を見るとあまりにも酷いので、自分だけ頑張っても仕方ないなと思い始めました。
本当に良い映画でした。作品自体も素晴らしいけど、キャストが最高です。この子供、凄い!目は口程に物を言うを言うけれど、本当にそんな演技をする子でした。顔もイケメンだし、これからの成長が楽しみです。
私は、この映画、超!超!お薦めしたいと思います。深い映画でした。キャストが言葉で伝えてくれる映画ではないので、深読み出来る方でないと、この映画の良さが解らないかもしれません。そうそう、何故か大森監督が俳優として出演されていました。素晴らしい映画なので、「野火」のように、毎年再上映されるんじゃないかしら。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ほかげ」