「花腐し」
を観てきました。
ストーリーは、
ピンク映画の監督の栩谷は、もう5年も映画を撮れずにいた。梅雨のある日、栩谷は大家からアパート住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関はかつて脚本家を目指していた。栩谷と伊関は会話を重ねるうちに、自分たちが過去に愛した女が同じ女優・祥子であることに気づく。
というお話です。
ある日、海辺に心中した男女の遺体があがる。栩谷は、その女・祥子と同棲していたが、何故か、祥子は栩谷の親友である桑山というピンク映画監督と心中してしまう。祥子の葬式に出向くが、映画関係者だと知ると両親は彼を追い返し、顔も見せてくれない。桑山の葬式に出た栩谷は、ピンク映画業界が斜陽の一途にあることをつくづく感じてしまう。
栩谷もピンク映画監督だが、もう5年も映画を撮れていない。梅雨のある日、栩谷は大家に家賃を待って欲しいと頼みに行くと、とあるアパートの住人への立ち退き交渉を頼まれる。古いアパートへ訪ねて行くと、部屋の中から女の声が聞こえる。ドアを叩くと男が現れ、立ち退く気は無いと突っ撥ねられるが、男は濡れた栩谷にタオルを差し出す。なんとなく気が合い、男は栩谷を部屋に入れてくれる。
その男・伊関は、かつてピンク映画のシナリオを書いていたという。酒を飲みながら、伊関が若い頃に付き合っていた女の話を聞く。そして栩谷も、心中をしてしまった祥子の話をする。お互いに昔の女の話をしながら、映画を夢見ていた頃の話で盛り上がる。
そして二人の男は、ある女優との奇縁によって、自分たちの人生が交錯していることに気が付く。後は、映画を観てくださいね。
この映画、良かったなぁ~。あまり上映館が無くて、勿体ないなぁと思いました。私には、とてもしっくりくる、何とも言えない、良い作品でした。特に、綾野剛さんと柄本佑さんの二人が素晴らしいですね。この組み合わせ、絶対に良いと思っていたけど、本当に良かった。雰囲気が良いし、絵になるし、とにかく色っぽい。男二人なのに、こんなにも妖艶さを纏いながら、色っぽい会話を続けてくれるのは、そうありません。
来年のNHKの大河ドラマ、柄本佑さんが藤原道長を演じるでしょ。出来れば、その周りの人間に綾野さんを使って欲しいなぁ。源氏物語を書いた時代だからこそ、こんな二人が悪巧みをしていたら、紫式部もワクワクしちゃうんじゃないかな。うーん、平安の雅な時代の二人を観てみたいと思っちゃいました。
話を戻して、映画の内容ですが、祥子という女が、心中をして浜辺に打ち上げられます。相手は映画監督で、彼女は女優でした。栩谷は、実は、6年も祥子と同棲生活をしていたのですが、何故か、彼女は彼とではなく、彼の親友である桑山という監督と心中するんです。栩谷は、唖然としますよね。だって、自分と暮らしていたのに、突然、出て行ったきりで心中だなんて。
栩谷は、その理由が判らず、何のやる気も起きずに、ぼんやりしているんです。そんな時に、アパートの立ち退き交渉を頼まれます。そして出会うのが、伊関です。立ち退けと言われても、何故か、飄々としていて、掴みどころのない男です。電気ガス水道は止めてあるはずなのに、何故か、その部屋は電気が使えて、快適な様子。
拍子抜けした栩谷は、何となく伊関の部屋で酒を飲むことに。そして、お互いの思い出話をしていると、自分たちでは気付いていないのですが、話している女の特徴が似ているなぁと感じるんです。で、過去の映像が出始めると、お互いの元カノが、祥子なんですよ。ふふっと笑ってしまいました。
それぞれが、違う時代の祥子と付き合っているのですが、付き合っている間は、本当に好きで、しあわせな時を過ごしていたのだなということが解ってくるんです。思い出している彼らの映像は、モノクロで描かれるのですが、思い出の中の二人の映像は、カラーなんです。2人の間に愛がある時は、世界に色がついていて、しあわせな時を過ごしているという事が描かれるんです。
万葉集の中に、「花腐し」という言葉が出てくるそうなのですが、恋の歌が詠まれているようで、この「花腐し」とは、卯の花が腐るほど雨が降り続くことのようです。
栩谷は、自分の内部が腐っていたから、祥子は他の人間と心中してしまったんだろうという事に気が付いたのだと思うんです。だって、酷い男なんだもん。私が祥子なら、6年も同棲なんてしないで、直ぐに別れていたと思うけどね。自分のことばかりで、相手を思いやれない人間は、ダメなんです。栩谷は、ピンク映画が低迷して、監督の仕事も無くなり、落ち込んでいるのは解るけど、でも、相手の事も考えないとね。
自分が既に腐ってしまっている事に気が付いた栩谷は、これからどうするんだろう。最後は、夢落ちっぽかったけど、あのまま、部屋に入って、彼女の夢を見ながら腐ったままなのか、それとも、色のついた時代を思い出して、もう一度、映画の夢を観始めるか、どちらかだと思うんですけどね。私は、心中した女のことは映画の肥しにして、新しいステージに入った方が良いと思うけど、原作小説では、ダメなままなのかなぁ~。
この映画、芥川賞に輝いた松浦寿輝さんの小説の映画化です。芥川賞なので、きっと、もやもや~んとした感じで、腐って行くという描写のままなんじゃないかなぁと思うんです。原作を読んでいないので、確実ではないですが、そんな気がするんですよねぇ。
綾野さんと柄本さんが素晴らしいのは最初に書いたけど、さとうほなみさん、ここ最近、本当に良いですよね。脱いでも、嫌らしい感じが無いので、現代に凄く合っていると思うんです。「正欲」でも言っていますが、みんながみんな、エロいことを望んでいる訳じゃないんです。S〇Xシーンは必要かもしれないけど、ドロドロした映像は見たくないんですよね。そうすると、サッパリした雰囲気で見せてくれないと、次から観たくないなぁと思ってしまうんです。さとうさんの演技や雰囲気は、女性らしい身体を見せながらも、ドロドロした感じがしないので、次も観たいと思うんです。素敵な女優さんですよね。
そうそう、最後に、今回、柄本さんと奥田さんが、親子共演でしたね。なんか、この家族、素敵ですよねぇ。柄本さん一家と安藤(奥田)さん一家が繋がって、凄いことになっています。これからも、どんどん観たい家族ですね。
私は、この映画、超!超!お薦めしたいと思います。私は好きな映画でした。男たちが、1人の女を思いながら、俺たち東京で腐ってるよなって言い合っている姿が、なんとも哀しくて、寂しくて、廃れていくピンク映画のような、そんな風に見えました。愛を失って、モノクロになってしまった人たちを、カラーに戻してあげることは出来ないのかしら。多様性の時代だからこそ、ピンク映画が好きな人だけに向けた作品を作って行けばいいんじゃないかなぁ。起死回生の道を見つけて欲しいです。私はピンク映画は観ないけど、映画のジャンルが無くなるのは寂しいです。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「花腐し」