「ヒンターラント」映像が美しく惹き込まれる作品。主人公の目線で世界が描かれる不思議な空間でした。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
スミマセンが、ペタの受付を一時中断しています。ごめんなさい。

 

「ヒンターラント」

 

を観てきました。

 

ストーリーは、

第1次世界大戦後、ロシアでの捕虜収容所生活からようやく解放された元刑事ペーターと戦友たち。しかし帰還した彼らを待ち受けていたのは、敗戦国となり変わり果てた祖国の姿だった。ペーターは帰宅したものの家族の姿はなく、行き場を失ってしまう。そんな中、ペーターの元戦友が河原で遺体となって発見される。拷問の跡があり、その痕跡から犯人も彼らと同じ帰還兵であると思われた。ペーターは刑事時代の嗅覚を使い、捜査を進めるのだが。

というお話です。

 

 

第一次世界大戦終結後、長く苦しいロシアでの捕虜収容所生活から開放され、ようやく故郷にたどり着いた元刑事ペーターとその戦友たち。船で帰還する途中にも力尽きる仲間がおり、家族の元に連れ帰りたいと言うが、衣類を脱がせて川に捨てるように命令され、仕方なく仲間を川に流してきた。

 

やっと故郷のオーストリアに到着するも、敗戦国となり皇帝は国外逃亡。国のために戦争に行った彼らなのに、住むところも無く、市民からは汚いモノを見るように見られ、警察は捕虜だった彼らを、”赤(共産主義者)”と呼ばわりする始末。あまりの祖国の変わりようにペーターはがっかりし、帰宅をするが、家に愛する家族の姿はなく、行き場をなくす。

 

 

そんな最中、河原で奇妙な遺体が発見される。被害者はペーターのかつての戦友だった。遺体には相手に苦痛を与えることを目的に仕掛けられた拷問の跡があり、身体に木杭が19本、刺されていた。その拷問の痕跡は、ロシアの捕虜収容所で行われていたモノであり、犯人もペーターと同じ帰還兵であろうことを告げていた。

 

ペーターは刑事時代に、ある事件で助けた女性が監察医になっており、彼女の依頼により、事件の捜査をすることになる。警察官のパウルと共に、一人また一人と増える被害者の現場を周り、ある恐ろしい真相に辿り着くのだが。 後は、映画を観てくださいね。

 

 

この映画、良かったなぁ。宣伝を全くしていないので、内容を知らずに観に行ったのですが、さすがロカルノ国際映画祭で観客賞を貰った作品だなと思いました。内容もさることながら、映像が素晴らしい。こういう作品を待っていたんだよ。何でも、カメラで撮影すればいいってもんじゃないんです。それがよく解る作品でした。

 

全編をブルーバック撮影して、背景を描いているんだけど、きっと主人公のペーターには、オーストリアの現在が、こう見えているんだろうなという映像になっているんです。そして、絵と言いながら、リアルで、でも、実写とは違う、まるでSFファンタジーのような映像になっているんです。例えば、建物は通常、真っ直ぐに空に伸びているけど、ペーターには、まるで建物が自分に迫ってくるように見えていて、戦争から帰ってきた自分を責めているように見えるんです。それが背景になっているんです。これこそ、美術ですよ。こういうのが観たかった。ただ、撮影すればいいってもんじゃないんです。

 

 

本当に美しくて、これはBlu-ray化されたら、ぜひ持っていたい作品だと思いました。雰囲気が、ムンクとかモディリアーニ、ゴッホのような、世界がグルグルしているような感じなんです。きっと、彼らには、そんな風に世界が見えていたと思うのですが、この映画も、映画の内容が、そんな雰囲気なんです。不条理で、彼らは国のために戦ったのに、国に排除されるという、哀しい映画でした。

 

ペーターは、やっと戦争から仲間と共に帰ってくるんです。ロシアの捕虜となっていたので、戦争が終わってから数年経っていたんじゃないかな。国に帰れば、温かく迎えて貰えると思っていたのに、誰もが邪魔なモノを見るように彼らを見て、裏の貧困地域に行けという感じなんです。酷いでしょ。でも、きっと、日本だって、天皇制が廃止されて、アメリカの植民地として存在することになっていたなら、こんな風になっていたかもしれません。

 

 

そんな国の現状に失望したペーターでしたが、戦友が殺され、捕虜収容所で見た拷問と同じ頃され方だったので、これは帰還兵が関わっていると感じ、昔の刑事魂が燃え上がったのかな。つい、捜査をして、ヒントを警察に与えてしまいます。そして、監察医のテレーザと出会い、本格的に捜査に入る事になります。

 

この映画、映像も素晴らしいですが、ストーリーも良くて、サスペンスとしては、とても良く出来ています。戦後の混乱した世界で、帰還兵と、現在を生きる若い警察官や監察医が関わり、新しい時代を受け入れなければ前に進めないんだということを、教えてくれているように思いました。

 

 

なんたって、殺され方が猟奇的なんです。”ボーン・コレクター”や、”ソウ”まではいかないけど、そんな雰囲気を漂わせる殺され方で、ネズミに食べさせるのは辞めてぇ~!って感じなんです。生きたままなんて酷いでしょ。確か、”護られなかった者たちへ”でも、同じような描写があったような気がしますが、これは辞めて欲しいなぁ。ネズミちゃんもいい迷惑です。もっと美味しいものが食べれるのに、人間を食べろだなんて。酷いでしょ。

 

題名の”ヒンターラント”という言葉ですが、「後ろから撃つ」という事の様でした。後ろから撃つのは卑怯者のする事と言われるけど、仲間に裏切られて、後ろから撃たれる事もありますよね。それがネックになっています。正義とは、誰にとっても正義なのか、難しい問題が描かれています。

 

 

そうそう、駅の場面でガラス越しにみる空が、まるで”ブレードランナー”のようでした。そういう映像が、とても目を惹くんです。なので、残酷な殺人場面などもありますが、何故か、背景が美しいので、気にならなくなっちゃうんですよね。まぁ、でも、スプラッター的な要素は無いので、サスペンスとして観て頂いて大丈夫だと思います。

 

もっと宣伝すれば良いのになぁ。映画好きなら、この映画、きっとハマると思うんです。サスペンス好きにも、好まれるだろうし、もし出来るなら、続編があったら観てみたいと思うような作品でした。ペーターを演じている、主演のムラタン・ムスルさんが、売れる前のマッツ・ミケルセン様のようで、オジ様なんだけど、イケオジなのよ。素敵なのよ。

 

他の役者さんたちも美形が多いので、それを見るだけでも、目の保養になるんじゃないかな。まぁ、映像がこれだけ美しいので、そちらに見とれる方が多いかもしれないけど。とにかく、観ていて飽きない素晴らしい作品でした。これ、映画好きなら観なくちゃ損しますよ。

 

 

私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。これは面白いですよ。映像が素晴らしい。こういう作品を待っていたんです。戦後の映画とか、歴史映画とか、色々とあるけど、嫌に映像が綺麗すぎて、反対にリアル感が失せるってあるでしょ。最近、そういう映画が多いのですが、それなら、もう、全編ブルーバックで、この映画のように描いたら、その時代の本当の姿が、もっと伝わってくるんじゃないかな。特に、日本では撮影場所が少ないんだから、こういう技法は取り入れるべきなんじゃないですか?本当に好きな映画でした。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

 

「ヒンターラント」