「君は行く先を知らない」
を観てきました。Fan’s Voiceさんの、日本最速試写会が当たり、観せていただきました。(@fansvoicejp)
ストーリーは、
イランの大地を車で旅している4人家族。ケガをした脚にギプスをして後部座席に座る父は、幼い次男の相手をしている。助手席に座る母と、成人したばかりの長男はハンドルを握っている。さまざまなことが起こりながらも、一家はやがてトルコ国境近くの高原に到着する。そこで父と母は謎の男と交渉し、長男は旅人として村に迎えられる。
というお話です。
荒涼としたイランの大地を走る1台の車。後部座席では足にギプスをつけた父が悪態をつきながら、旅に大はしゃぎする幼い次男の相手をしている。助手席の母はカーステレオから流れる古い歌謡曲に体を揺らし、運転席では成人した長男が無言で前を見据えている。
次男が隠し持ってきた携帯電話を道端に置き去り、尾行に怯えたり、転倒した自転車レースの選手を乗せたり、余命わずかなペットの犬の世話をしたりしながら、一家は、やがてトルコ国境近くの高原に到着する。
そこで父と母は羊飼いや仮面をつけた男と交渉し、羊の皮を買ったり、バイクの男に次の合流場所を指示されたりして、ある村に辿り着く。長男は「旅人」として村人に迎えられる。そして、再度、バイクに乗ったマスクの男に会い、長男を託し、待つ場所を指示される。
旅の目的を知らない次男が無邪気に騒ぐ中、我々はこの家族の行方を知ることになる。 後は、映画を観てくださいね。
というお話なのですが、はっきり言って、”家族の行方”を知ることになりません。(笑) 最後まで観たのですが、私、ポカンとしてしまって、よく解らなかったんです。長男がどこかに行くんだなと言うのは解ったのですが、何故、長男が一人で行くのか、何故次男に言えなかったのか、両親は、何故長男を送り出すのか、理由が解りませんでした。
そして、上映後に、中井圭さんと矢田部吉彦さんのトークイベントがありまして、お二人の解説を聞いて、とても良く理解が出来ました。お二人が、答えを出すヒントをくださって、私は映画を反芻して、おお~!そうだったのかと、凄く納得したんです。なので、ネタバレではありませんが、この映画を観る前に、知っておいた方が良い情報を書かせていただきます。そして、私が想像した内容を書かせていただきます。
まず、この映画はイラン映画です。そして、あの”戦う映画監督”であるジャファール・パナヒ監督の息子さんである、パナー・パナヒさんが監督をしています。初長編監督作品です。父親があのパナヒ監督ですよ。カンヌ映画祭で、イランから出国出来ないと解っていて審査員に選ばれて、欠席したけど、俳優たちがイラン政府へ抗議をしたという、マジな戦う映画監督です。
私、聞くまで忘れていたのですが、「これは映画ではない」や「ある女優の不在」というパナヒ監督作品を観て、衝撃を受けたんですよねぇ。この映画を観る前に、全く前情報を入れずに観たので、言われて気が付いて、あーそうか!となりました。その後、イラン政府に拘束されてしまっていたのですが、現在は、拘束が解かれたようです。
そんなパナヒ監督の息子パナーさん。自分が置かれていた立場を映像化したんじゃないかなと、ちょっと思いました。この映画の中で、お父さんが映画監督なんじゃないかなと思うんです。足にギブスをしていて、そのギブスには鍵盤が描いてあるんです。ギブスがある為に、自由に動くことが出来ず、音楽や映像のような芸術的なことも、全て固められてしまっていて、なおかつ、歯も痛いと言っていたので、言論の自由も奪われ始めていると言う事なのかなと思いました。まるでパナヒ監督みたいでしょ。収監されていたのだから、自由に動けない。
そんな時に、せめて長男だけでも自由に活動が出来るようにと、海外に脱出させるために、スマホを捨てたり、家を担保にしてお金を借りたり、会えるのが最後かもしれないから、病気の犬も連れてきたり、家族総出で長男を生きさせようとしたんじゃないかな。次男は、まだまだキャッキャしているので、誰かに喋ったりしてはいけないので、何も告げずにいたのだと思うんです。
家族で車に乗って、テヘランの自宅から、どんどん田舎の方に走ります。イランの斜め北方面に行くとトルコがあるので、トルコに逃がそうとしていたらしいんです。誰かに見つかって、警察にでも電話をされたらおしまいです。最初から情報は貰えず、何度も言われた通りの動きをして、やっと長男を相手に引き渡します。
途中で、とっても楽しそうに旅行をしているのですが、父親も母親も生きた心地がしなかっただろうと思います。上手くいけばよいけど、そう簡単に密出国出来るとは限らないので、どこで何があるか分からないし、仲介者に頼んだとしても、本当に生きて出国出来るのか、補償がないんですから、辛かっただろうと思います。でも、泣かないと長男と約束をしたようで、母親はずっと我慢をしていました。
唯一、何も知らない次男だけが、とっても幸せそうで、大騒ぎをしてギャーギャー騒いでいます。もぉー!クソカギと言いたいくらいうるさい子供でした。これ、自分の息子だったら、虐待と言われるかもしれないけど、引っ叩いてるかもしれません。もー、それくらいうるさいんです。でも、次男が車の中で歌っている曲の歌詞がとても悲しい曲だったので、次男は、少し成長して、あの時、兄が出国して、もう会えないかもしれないと解った時、こういう気持ちになるのかなと思いました。
イランでは、今も映画などの芸術に対しての規制が厳しくて、ちょっと体制批判のような事をしてしまうと、直ぐに逮捕となってしまいます。ジャファール・パナヒ監督が良い例ですが、他の監督や俳優たちも、逮捕や拘束をされているようです。映画監督たちは、出来るだけ反体制を描くのではなく、この映画のように、ふんわりとオブラートに包んだような表現で、描いて誤魔化しているようです。
そうそう、イランでは、車の中で歌を歌ったりするのは良いのですが、外で歌を歌ったり、許可のない撮影をすると、罪になるそうです。なので、車の中でのシーンが多いんだと、トークショーでお二人が教えてくださいました。何で、車の中で、大騒ぎして暴れているのかなと思ったら、そういう規制があるので、車の中なんですね。驚きました。
この映画は、オブラートに包まれた表現しかされていません。なので、私は、ペナー・パナヒ監督が、自分の境遇を映画に取り込んで、映像化したのかなと想像し、父親は映画監督と設定しましたが、もしかしたら音楽家かもしれないし、もしかしたら作業員かもしれない。でも、両親とも、長男を凄く愛していて、本当は一緒に暮らしたいけど、今のままでは、長男に何かが起きてしまうかもしれない。だから、逃がすんだと思うんです。それは、皆さんが、映画を観て、想像してみてください。
身体が弱った犬を連れていますが、その犬が、一体何の比喩なのか、私は、みんなに愛される芸術が犬なのかなと思いました。イランでは、愛される芸術は排除され、このままでは、いつか無くなってしまう。そんな意味だったんじゃないかな。今、何とか持ち直して、映画や音楽などの芸術を認めさせていかなければ、もう、最後のチャンスなのかもしれません。
色々と、とても考えさせられる映画でした。イランって、こんなにも大変なんですね。驚きました。でも、私は、中井さんと矢田部さんの解説が無ければ、理解が出来なかったと思います。本当に、Fan'sVoiceさんの試写会に参加させていただけて良かったなと思いました。映画館に観に行く方は、出来れば、私のめちゃくちゃな文章で申し訳ないけど、イランがこんな情勢なんだという事を知ってから、観に行って欲しいなぁ。
私は、この映画、超!超!お薦めしたいと思います。但し、イランの政治情勢や、映画や音楽などの芸術が迫害を受けている事を知ってから、観に行って欲しいです。でないと、私のように、ポカン?とすることになるかもしれません。最初、観た後、ホントに何だったの?って感じでしたもん。ぜひ、色々と理解してから、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「君は行く先を知らない」