イタリア映画祭にて、
「遺灰は語る」
を観ました
ストーリーは、
1936年、ノーベル賞作家ルイージ・ピランデッロが亡くなった。葬儀をファシズム礼賛のイベントに仕立てようとするムッソリーニの思惑に反して、ピランデッロは、葬儀は行わずに遺体を火葬し、遺骨を生まれ故郷の岩の間に収めてほしいという遺言を残す。
骨壺はローマにある仮の埋葬場所に埋められたまま、第二次世界大戦が激化する。やがて終戦を迎え、ムッソリーニ政権も倒れ、ピランデットの遺灰は、ようやく作家が望む埋葬の地シチリアに旅立つことになる。
遺灰はアメリカ軍の飛行機で輸送されることになるが、縁起を担ぐ同業者らの反対に合い、やむなく列車にのせられる。列車には、終戦後の混乱期に故郷へ向かう人々が乗り合わせており、遺灰の行方がわからなくなったりと、混乱する。
シチリアに到着した遺灰は、地元の人々の歓迎を受ける。しかし、遺灰はギリシャ壺に収められていた為に、通常の棺桶を運ぶ姿ではなく、子供用の棺桶に壺を納めての搬送だった。そして、遺灰は無事に故郷の岩の間に納められたのだった。
ピランデッロの最後の短編を「釘」映像化。場面はアメリカに移り、誤って幼い少女を殺したシチリアからの移民、少年バスティアネッドゥが取り調べを受けている。少年の物語「釘」は、ピランデッロが死の20日前に書き上げた掌編だった。
というお話です。
この映画は、ノーベル文学賞受賞のルイージ・ピランデッロさんの遺灰の旅路を描いています。”語る”となっているけど、もちろん遺灰は語らないので、遺灰が辿った数奇な運命を描いているんです。ムッソリーニ政権に政治利用されそうになり、その後、やっと本人の希望通りの場所に埋葬して貰えるかと思ったら、飛行機はダメとかで、電車で運ばれたりして、途中で見当たらなくなったり、お祈りしてあげないとか言われちゃったりして、大騒ぎなんです。
きっと、ルイージさんは、故郷でゆっくりしたいと思っていただけだと思うのですが、ノーベル文学賞を貰ってしまった為に、なんか、周りが騒がしくなってしまい、好きなように生きさせてもらえず、死なせて貰えず、となってしまったのではないかと思いました。
今回、ルイージさんは、昔の映像が最初の方に少しだけ出てきますが、後は、遺灰になっているので、遺灰を運ぶ人達が描かれているだけ。主役は遺灰ですから、姿は出てこないんです。とっても面白い映画だなと思いました。壺に入った遺灰が主役って、今まで観たことが無い映画ですから、不思議でした。
そんな遺灰が主役なので、不思議で面白いとは思ったけど、ストーリーは、ほとんどありません。運ばれている遺灰にハプニングが起こるだけで、物語がある話ではないんです。淡々と、大切そうに運ばれる遺灰。でも、ルイージさんが本当に望んでいたことは何だったんだろうと考えると、最後に、箱に入らなかった遺灰を係員が海に撒く場面があり、それが一番、ルイージさんが望んでいた自由なんじゃないかなと私は思いました。あ、ごめんなさい、これ、ネタバレです。でも物語が無いお話だから、まぁ、イイのかな。
映像は美しかったですよ。戦後のイタリアの風景や、人々の暮らし、美しいシチリアの風景は忘れられません。
ルイージさんの生前のお話は、今回のイタリア映画祭で上映された「奇妙なこと」で描かれています。ルイージ役を、あのトニ・セルヴィッロさんが演じていて、面白い作品でした。
映画の最後に、「釘」という、ルイージさんが、死の直前に書いた戯曲の短編映画が入っていました。不思議なお話で、私、実は、観ていても良く理解が出来ませんでした。たまたま、釘を拾ったから、目の前にいた女の子を殺してしまった少年のお話なんです。ルイージさんが何を描きたかったのか解りませんが、私は、ゾッとしました。
この少年、父親と二人でアメリカに移民としてやってきて、ずっと仕事をして、やっとお店を開いたんです。まだ小学生になるかならないかの頃に連れて来られたので、母親が恋しかったと思います。それなのに、引き離して、無理矢理仕事を続けていたので、現実がよく解っていなかったんじゃないかな。
今の日本の子供たちもそうですが、「釘で刺したら死ぬ」だろうけど、リセットボタンで生き返ると思っていたんじゃないかな。映画の少年は、釘で刺したくらいじゃ、少女は死なないと思っていたのだと思います。でも、やってみたら死んでしまった。もう、生き返ることはない。死は、すぐ隣にあるのだと言う事を知ったということを描きたかったのかもしれないと思いました。生と死は、隣り合わせにあり、いつ自分にも襲い掛かってくるかもしれない。だからこそ、命は大切なのだと知ったのかなと思います。
この映画、私は、お薦めしたいと思います。不思議な映画だったけど、有名になってしまったが故の、悲しい結末を描いていたと思います。考えさせられるお話でした。この映画、6月末から日本公開が決まっています。面白いので、ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「イタリア映画祭 2023」