「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」
を観ました。Fan's Voice独占最速試写会に参加させていただきました。(@fansvoicejp)
ストーリーは、
1980年、ニューヨーク。白人中流家庭に生まれ公立学校に通う12歳の少年ポール。PTA会長を務める母エスター、配管工の父アーヴィング、私立学校に通う兄テッドとともに何不自由なく暮らしていた。最近は居心地の悪さを感じており、理解者である祖父アーロンだけが心を許せる存在だ。学校での集団生活にうまくなじめず、落第した黒人生徒ジョニーが唯一の打ち解けられる友人だった。ある日、ポールとジョニーの悪事がきっかけで、2人のその後は大きく分かれることになる。
というお話です。
1980年、ニューヨーク市クイーンズに住むユダヤ系アメリカ人のポールは、6年生となったが、クラスに馴染めない。教師の話を聞かずに絵を描いていたポールは注意され、それを援護したアフリカ系アメリカ人のジョニーも怒られてしまう。それから二人は気が合い、仲良くなります。
教師は、落第して2回目の6年のジョニーを目の敵にしており、何かというと彼を標的にします。ある日、ジョニーが兄から貰ったというタバコを学校に持ち込み、ポールと二人でトイレで吸います。すると教師に見つかり、親を呼び出され、大事になってしまいます。そのタバコは違法薬物であり、逮捕されてもおかしくない事態でした。母親のエスターは酷くショックを受け、ポールを兄と同じ名門私立校へ転校させようと考えます。
ポールの家は裕福ではありませんが、母エスター方の祖父アーロン・ラヴィノウィッツは裕福でした。アーロンの母親はウクライナに住んでいましたが、子供の頃に両親を反ユダヤ主義の迫害により殺され、ロンドンに逃げ、そこで知り合った男性と結婚し、アメリカに移住してきたんです。しかしアメリカに来ても、ユダヤ人だとして差別され、苦労をして財を築いて、今のアーロンがあるんです。
そんな祖父の過去の話を聞き、ポールは差別や偏見について、考え始めます。ジョニーが黒人というだけで差別される事や、ユダヤ人と解るような苗字で無くて良かったと言われる事など、自分もいつ差別される側に周るか分らないんです。
そんな事もあり、大人しく私立校のフォレストマナープレップ校に転校したポールですが、そこへジョニーが訪ねてきます。彼と話していると、学校の友人に奇異な目で見られ、つい、素気無い態度を取ってしまいます。その事をアーロンに相談をすると、「差別はいけない。高潔でいるように。」と諭されます。しかし、それは理想で、社会は平等ではなく、理不尽な事が沢山ある事を知り、自分が無力であり、社会に折り合いをつけて生きていかなければならないことを、ポールは知って行きます。そして…。後は、映画を観てくださいね。
差別や偏見について、深く考えさせられる内容でしたが、うーん、このポールが酷い子供なんです。頭が良い子なんだと思いますが、これほど平然と悪い事が出来る子供は怖いと思いました。親の育て方が悪かったのか、なぜこんな子供になったのか、何とも言えませんが、思春期だからって事だけでは無いような気がします。
タバコを吸って、それが違法薬物だったというのはハプニングでしたが、些細な事ではありません。違法薬物は、持っているだけで犯罪です。知らなかったでは済まされません。その後も、犯罪を犯す場面があるのですが、さすがにこれは計画性があり、これを誤魔化してしまうというのはあってはならない事だと思いました。子供だからって許してしまわないで、間違いを犯したら、罰を受けることを知るべきです。
主人公の少年が、あまりにも恐ろしい子なので、差別とか偏見という部分は良く描けていたのですが、大人が甘やかしすぎだという思いで頭に一杯になってしまいました。解らないでもないけど、違法薬物はダメだし、映画の中で行う犯罪は人に迷惑をかけるので、やってはいけません。人間として生きていく上で基本的な事は、どんなに反抗的な子でも、ちゃんと教え込まなければいけません。出来ないなら、社会に適応出来ないとして、どこかに隔離するしかないんです。それは、差別でも偏見でもありません。共同体として世の中に存在する上で、当たり前の事です。
アンソニー・ホプキンスが素晴らしい祖父を演じていて、世界は偏見に満ちているという事を、十分に感じさせてくれる感動作でした。アーロンが成長過程で味わってきたユダヤ人への差別が、どれだけ彼を苦しめたのかという事が、ポツポツと語る話だけでも、十分に伝わってきました。黒人差別は良く知っていますが、アメリカで起きているユダヤ人差別は、あまり大きく取り上げられないので、見えにくいですよね。映画などで描いてくれるから知ることが出来ますが、そうでなければ解らないと思います。
映画の中に、フォレストマナープレップ校という、これからアメリカのエリートとなる人物を育てる学校が出てきますが、学校の支援者が、君たちはエリートになるんだ!と言っていて、笑っちゃいました。本当のエリートって、元々頭が良いから苦労をしないで学校には入れるし、普通にしていても、トップに立ってしまうんです。それがエリートです。努力してエリートになるのは、本当のエリートではありません。只の努力家です。
そんな風に努力するから、精神的に壊れちゃうんです。日本でも、良い大学に入って大企業に就職したエリートとか言うけど、半分は息切れしちゃうでしょ。努力しないでそれが出来ている人は、息切れせずに続くし、頑張らないから、上司に何か言われても嫌なら断るし、言い返せるんです。努力家は、その道から外れたくないから、言われるまま頑張らなくてはならず、長続きしません。結局、エリートコースと言われる道を歩くけど、本当のエリートに追いつけないんです。それくらい、気が付きましょう。人には、それぞれの能力があるから、無理なら他の道を探せばよいんです。
話が反れましたが、このエリート学校を見ていたら、そう思いました。きっと、ポールもそう思ったんじゃないかな。エリートって何だよって思ったと思いますよ。差別して偏見を持って、それでトップに立つなんて、この国の行く末が思いやられると思ったんじゃないかな。ポールは、頭の良い子なので、色々な出来事を経て、自分の立ち位置を理解したのだと思います。そして、こんな酷い世界は長続きしないだろうと考えたんじゃないかな。
それにしても、ロナルド・レーガンが大統領になった時、”核戦争”が起きるとか思ったの?そんな戦闘的な考え方の人だったの?顔は知っているけど、その時代のアメリカの状況とか、大統領の考えなんて、全く知らなかったので、この映画で初めて知りました。それに、彼を支援している”フレッド・トランプ”という人物が出てきますが、これ、あの”トランプ”なの?そういう歴史的な部分が解りませんでした。
私は、この映画、超!お薦めしたいと思います。素晴らしく雰囲気が良く、キャストも凄い人ばかりです。でも、ポールの目線で話が進んで行くので、犯罪となる事をしていても罪悪感が無く、観ていると、”それやっちゃダメな事だよ!”と言いたくなって、ちょっとイライラしました。そして捕まってしまい、”だから言ったじゃん!”って心の中で叫びながら観ていました。深く考えさせられる内容なのですが、思ったより重く無く、淡々と観ていられる作品です。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」