「ロストケア」
を観てきました。
ストーリーは、
ある早朝、民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された。死んだ所長が勤める介護センターの介護士・斯波宗典が犯人として浮上するが、彼は介護家族からも慕われる心優しい青年だった。調べると、その介護センターで老人の死亡率が異様に高いことを突き止め、問い詰めると、斯波は多くの老人の命を奪ったことを認めるが、自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」であると主張する。
というお話です。
早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。センター長が合鍵で入り窃盗をしていたのは明らかで、階段から落ちたのではないかと思われたが、老人を解剖したところ、身体からニコチンが発見される。
殺人ではないかと調査を始めると、捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典。だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。
検事の大友秀美は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止める。
真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張する。その告白に戸惑う大友。彼は何故多くの老人を殺めたのか?そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?
被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。斯波は、彼自身の過去の経験から、介護で苦しむ人々が望んでいるだろうことを、自分が行うのが使命なのだと信じていたのだ。
大友は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていくが、一方で、自身の人間としての部分が斯波を否定しきれずに、心を動かされていく。そして…。後は、映画を観てくださいね。
この映画、原作を買ってあったので、先に読もうとしたのですが、最初の方を読んで、これは先に観た方が良さそうだと思い、止めていました。思った通り、これは、映画を先に観て正解だと思いました。主演のお二人の演技が凄いのよ。小説のト書き的な部分を読んでいると、演技と比べてしまうけど、それが無かったから、お二人の演技のみで想像し、解釈出来たので、心に沁みました。これで、小説を読んだら、また、新しい何かを発見出来るような気がしました。
話としては、難しくありません。単純です。在宅介護で苦しんでいるご家族の為にと考えて、介護士が自主的に殺人をしていたんです。それを殺人と考えるか救済と考えるか、というお話です。書いてしまうと簡単だけど、これは答えが出せない難問ですよ。だって、本当に介護は大変ですもん。
有難いことに、私は、まだ両親とも元気なので介護で苦労をしていませんが、友達の話などを聞くと、戦争ですよね。この映画でも描かれていますが、何も解らなくなってしまうので、言い聞かせても、終わらないし激高するし、手が付けられないという状態です。介護人が一人しかおらず、目が離せないから仕事にも行けず、どんどん貧困になってしまう。生活保護を受けようとするけど、あなたは働けるでしょと言われてしまう。いやいや、働きたくても介護を誰がしてくれるんですかって言いたいけど、誰も聞いてくれない。これが現実ですよね。
行政がおかしいと思うんです。こういう人に生活保護でしょ。働きたいけど働けないとか言って、診断書を出してパチンコしてる人には生活保護は必要無いんです。生活保護を申請する人は、本当に困っているんだろうから、行政が団地などを確保して、そこに住んで貰う事を基本としてから、生活保護費じゃないの?そういう基本がなってないから、生活保護を受けながらベンツに乗っていたりするんでしょ。
話を戻して、介護の為に貧困になり、生活も出来なくなっていく。もう生きていけないとなったら、そりゃ、色々な思いが頭を過ぎりますよ。綺麗ごとを言っていたのでは解決出来ないことになってしまうんです。この斯波も、そこまで追い詰められた経験があったからこそ、介護で疲れているご家族の気持ちが痛いほど解ったんじゃないかな。
もちろん、法律から言えば殺人だし、遺族は、殺されたと知れば怒る人もいるでしょう。でもね、もし、この斯波が介護家族に、”楽にさせてあげませんか。”と持ち掛けていたら、半分以上、いや、ほとんどの人が、頼んだんじゃないかな。私なら、親が人に殺されたらムカつくけど、何も解らなくなっていく親を、楽にさせてあげると言われたら、頼んでしまうと思いました。
だから、斯波はやっぱり間違っていると思います。救うならば、家族に決断させなければいけません。それは、他人が背負う事ではなく、家族が背負うことなんです。そうしなければ、筋が通らないんです。綺麗ごとを言って介護を続けて行ったなら、自滅してしまう事が解らないようなら、苦しむしかありません。それは、自分の選択ですから。
映画の中でも、お金があれば介護を頼めるし、施設にも入れて、苦労はない事が描かれています。検事の大友は斯波に、「あなたは安全な所にいるから、この苦しみが解らないんです。」と言われるのですが、本当にその通りだと思いました。それなら、お金持ちになれば良かったじゃんと思うけど、誰もが、そう簡単にお金持ちなんかにはなれないんです。必死で働いてお金を稼いでも、今の時代、どうなんでしょうね。誰もが一攫千金みたいなユーチューバーを目指す時代に、普通に働いたお金だけで、裕福な老後を過ごせるとは思えません。
そんな事を考え始めたら、どうやって生きていくというよりも、どうやって死ぬかを考え始めなきゃいけないのかなと思ってしまいました。介護問題は、必ず誰にでもやってくる事で、避けては通れません。介護をする方になるか、される方になるかは解りませんが、若い頃から考えておかなければいけない問題なのかもしれません。
これほど考えてしまったのは、やはり、主演の松ケンさんと長澤さんの演技が素晴らしかったからだと思います。会話劇が多いので、お二人の緊張感が伝わってくるんです。これ、映画も良かったけど、舞台でやったら、凄い作品になるだろうなぁ。
映像も素晴らしかったです。明暗の中に、ガラスや鏡に映り込む映像が多くて、それがとても印象的でした。まるで、本当の自分と表面の自分が相対しているように見えて、善と悪、正と負、プラスとマイナス、のように、人間の表裏が良く表現されていたと思いました。殺人と救済、本当はどちらだったのでしょう。それは、永遠に答えの出ない選択だと思いました。
私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。心にグサッと刺さり、いつまでも忘れられないような作品でした。但し、これ、本当に現在、介護をされている方が観たらどう思うんだろうと考えると、ちょっと怖いです。観て欲しくない気もします。だって、既にご自分で考えてしまっている事を、映像で見せられたら嫌でしょ。でも、本当は、色々な方に観て頂いて、考えて欲しいと思いました。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ロストケア」