「天上の花」
を観てきました。
ストーリーは、
萩原朔太郎を師と仰ぐ青年・三好達治は、朔太郎の末妹・慶子に思いを寄せるが拒絶されてしまう。十数年後、慶子が夫と死別したことを知った三好は、妻子と離縁して彼女と結婚。太平洋戦争の真っただ中、三好と慶子は越前三国でひっそりと新婚生活を送り始めるが、潔癖な人生観を持つ三好は、奔放な慶子に対する一途な愛と憎しみを制御できなくなっていく。
というお話です。
昭和になってすぐのこと、萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治は、朔太郎家に同居する、離婚して戻ってきた美貌の末妹・慶子と運命的に出会う。たちまち恋に落ちた達治は、慶子との結婚を認めてもらうため北原白秋の弟が経営する出版社に就職するが、僅か二ヶ月であえなく倒産。再び寄る辺なき身となった達治は慶子の母に貧乏書生と侮られて拒絶され、失意の中、佐藤春夫の姪と見合い結婚をする。 慶子は、佐藤惣之助の後妻として嫁いで行く。
時は過ぎ、日本が戦争へとひた走る頃、達治の戦争を賛美する詩は多くの反響を呼び、時代は彼を国民的詩人へと押し上げてゆく。しかし、朔太郎とはその戦争詩をめぐって関係が悪化してしまう。昭和一七年、朔太郎は病死。そして四日後には慶子が夫・佐藤惣之助と死別する。
昭和一九年、朔太郎三回忌で慶子に再会した達治は、彼女への一六年四ヶ月の思いを伝え、妻子と離縁し、慶子を家に迎える。東京に空襲が迫りくる中で、身を隠すように越前三国にひっそり新居を構えた二人には、雪深い冬の過酷な生活が待ち受けていた。
純粋な文学的志向と潔癖な人生観の持ち主である達治は、奔放な慶子に対する一途な愛とその裏返しの憎しみが次第に心を蝕んでゆく。一方、慶子は、今までの生活とは全く違う暮らしに飽き飽きして、すぐにでも東京に帰りたいと思うが、東京は空襲で焼かれているらしい。三好の暴力が日増しに酷くなり、姉の家に逃げようと考え始めたある日、三好の怒りが爆発し、慶子を酷く殴りつけてしまう。そして…。後は、映画を観てくださいね。
この映画、うーん、三好達治の半生を描いた自伝的映画なんです。原作は読んでいませんが、私の三好達治のイメージというか、見た目のイメージが、どーも東出さんの風貌と一致せず、観ながら、ちょっと違和感が残りました。
三好は、若い頃に萩原朔太郎に支持し、家にもよく伺っていたところで、彼の妹の慶子に一目惚れをするんです。慶子は、本当に美しい人で、引く手あまただったようです。そんな娘を母親が甘やかしたのか、家事は一切せず、ただ、座っていれば良いという生活をさせてくれるお金持ちとでないと結婚しないようでした。
朔太郎が言うには、母親の悪い所が慶子に受け継がれているらしく、母親も慶子も、医者の家ということで、身分の低い人間を見下したような性質があったのかもしれません。私の祖父も医者でしたので、この時代の医者の家がどんなに偉そうだったのか想像がつきます。医者の本人は普通ですが、その妻とか家族は、勘違いした人間が多かったと思います。
でもね、この慶子、間違ったことを言っている訳ではないんです。時代が早かっただけで、現代なら当たり前の事ばかり。家事は苦手だから出来る人がやれば良いというのは当たり前でしょ。三好は、女は男に従っていればよいという考えの持ち主で、慶子にそばに居てくれれば良いと言いますが、慶子だって人間です。何かやる事が欲しいし、お腹は減ります。雑誌を読めば小説を渡され、お腹が空いたと言えば浅ましいような言われ方をして、三好は酷い男でした。慶子は、よく耐えていたと思います。
そして、その内に酷い暴力を慶子にするようになります。自分に文句を言うのが許せないようで、顔を殴ったりして、蹴ったりもして、あまりにも酷くて、気分が悪くなるほどでした。慶子は、何度も逃げようとするのですが、協力者がおらず、結局、家に帰ることになってしまうんです。
三好は、昔から慶子のことが好きでしたが、結婚はさせて貰えず、16年後に、慶子が未亡人となって帰ってきたところにプロポーズをします。その時、既に三好には妻子がいたのに、その妻子を捨てて、慶子と一緒になるんです。いくら、思い続けている人が独身になったからって、妻と子供を捨てるなんて、信じられません。それに、映画では描かれませんが、この三好、DV癖があったようです。前の妻にも、DVをしていたようなんですよ。
そんな時代だったと言ってしまえばそれまでですが、やっぱり女性に暴力を振るう人間は許せません。それに、この三好、戦争中に、戦争を讃えるような、軍を助ける詩を書いたりしていて、それで萩原朔太郎とも仲が悪くなるんです。何でも自分の都合の良いように考え、自分を正当化するような人間に見えて、嫌悪感を抱きました。ホント、この時代にも、調子良く生きる人間っていたんだなと思うと、神様は、なんでそんな人間に文学の才能を与えたのかなと不思議に思います。
この映画を観ると、どーも三好達治が嫌な奴としか思えず、映画には関係無いけど東出さんのイメージも悪いので、何となく、受け入れがたい映画でした。
内容に関しては、構成が特殊で、観難かったかな。時系列ごとに描いているのではなく、結果を描いてから、過去の出来事を反芻して描くというような構成なので、唐突に慶子と田舎の一軒家に越してきたりして、”妻子はどうしたの?”となりました。後から描かれるとはいえ、少し前置きをして欲しかったな。慶子の夫が亡くなったくらいは、先に知りたかったです。三好が結婚したと思ったら、いきなり慶子を迎えに行っているので、さすがに、”キョトン”としてしまいました。脚本が悪いのかな。何とも言えませんが、観難かったのは本当です。
慶子を演じる入山さんは良かったです。筋が通った美しい女性というイメージを崩さず、我がままだけど憎めない雰囲気が良かったな。何度も言いますが、この慶子は、我がままなことを言っているようだけど、間違っていないんです。女性を殴る男はおかしいし、人形じゃないんだから、衣食住は欲しいですよ。
慶子の今までの夫は、衣類は買ってくれていたし、食事は女中さんが作って出してくれていたし、家だって綺麗なしっかりした住宅でした。三好が与えたのは、汚いボロ屋で掃除もされておらず、衣類など買って貰えず、いつもお腹を空かしている状態という生活です。これは、誰だって逃げたいと思うでしょ。戦争中と言ったって、食べ物が無ければ死んでしまいます。それに加えてDVでしょ。そりゃ、逃げ帰りますよ。
私は、この映画、お薦めしたいと思います。高名な文学者の裏面が描かれているようで、面白かったし、初めて知ることもありました。キャストも良かったと思います。本当は、三好役を窪塚さんが演じる予定だったと聞き、それなら違和感が無かっただろうと思ったけど、東出さんもよかったですよ。三好がどんどん狂って行く姿は、とても良く表現出来ていたと思います。普通の人物を演じていると、どーもたどたどしいんだけど、狂った表現は上手いんですよねぇ。目が見開かれて見つめる演技は、恐怖でした。狂気を演じるのは上手いと思いました。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「天上の花」