【演劇】「ロビーヒーロー」を観てきました。
演劇は沢山観ているのですが、この作品は、感想を書かずにいられない程、素晴らしかったので書かせてください。
ストーリーは、
マンハッタンにある高層マンションの広いロビー。警備担当のジェフは、人生の目的もなくこの仕事についている。クソ真面目で向上心のある上司ウィリアムは、不良の弟が殺人罪に問われて心配していた。見回りに来た有能な警察官ビルと相棒の新人見習いのドーン、どうも二人はイイ仲のようだ。ロビーで待っているドーンに、ビルの訪問先は女性だと口を滑らしてしまうジェフ。動揺したドーンは、勤務時間中の行動を上に報告するとビルに噛みつくが、本採用させないぞと逆に圧をかけられてしまう。翌日。弟のアリバイを偽証したウィリアムに対して、自分が何をすべきか悩むジェフ。ドーンは本当のことを話すのがあなたの責任だと説得するが・・・。
というお話です。
このロビー・ヒーローという作品、あの”ケネス・ロナーガン”さんの戯曲なんです。映画好きな方はご存知だと思いますが、”アナライズ・ミー”から始まり、ギャング・オブ・ニューヨークの脚本などを手掛け、あの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の監督脚本をされた方です。私、マンチェスター・バイ・ザ・シーという映画が大好きで、観る度にジーンとして、コソコソ泣いているんです。
そんなケネスさんが2001年に書いて、オフ・ブロードウェイで初演された作品が、この「ロビー・ヒーロー」です。マンションのロビーで交わされる会話劇なのですが、凄いセリフ量があり、内容が濃いんです。人間が、簡単には白黒つけられない問題を深くえぐって、どんどん振り回されていくんです。
出演は、ジェフ=中村蒼さん、ドーン=岡本玲さん、ウィリアム=板橋駿谷さん、ビル=瑞木健太郎さん、が演じています。
マンションの受付であり警備担当のジェフは、まだ若く、未来のビジョンもありません。でも、そろそろしっかりとした仕事で生活を安定させたいと思っています。この警備の仕事が気に入っている訳ではないようですが、今後の為に続けて行きたいと思っています。
ジェフの上司のウィリアムはとても真面目な男で、居眠りなどをしていると、直ぐにクビにするという厳しい上司です。このウィリアムの弟が警察に強盗殺人の容疑をかけられているというところから話が始まります。弟は「やっていないから一緒にいたと証言して欲しい。」と兄のウィリアムに頼み、正直なウィリアムは嘘はつきたくないけど、弟のためだと思って、嘘の証言をしてしまいます。
そんなマンションのロビーに用事があって寄り道をする警察官のビルは、部下のドーンを連れています。ちょっと二人はワケアリで、ビルはドーンをロビーに残して、上階の部屋を訪ねに行きます。
この4人がロビーで会話をして、状況が変わっていくというお話なのですが、それぞれに悩みがあって、地域がマンハッタンなので、人種の問題もあり、ベテラン警察官と見習いの警察官の確執などもあって、人間のイヤな部分が露わになって行きます。
ウィリアムは、家族の為に嘘をついてしまうのですが、内容を見て行くと、黒人のようなんです。そうなると弟は、刑務所に一度入ってしまうと悪い道へと入ってしまうという前例が沢山あるので、どうしても入れたくなかったんじゃないかな。悪い仲間のせいで巻き込まれたのだろうと思って、助けたかったのだと思うんです。
ジェフは、そんなウィリアムを、うるさい上司と思いながらも、真面目でキッチリしている仕事ぶりを尊敬しているんです。なので、彼が嘘をついてしまった事を残念に思い、出来れば正直に話して欲しいと願っているんです。ジェフは白人のようでした。
ウィリアムと面識のあるビルは、出来れば友人を助けたいと思っていて、もし、彼が嘘をついたとしても、そのまま通してやろうと思っているんです。ビルは、警察内で人望があり、仲間が沢山います。なので、出来るだけ彼の助けになりたいと思っているんです。マンハッタンですから、沢山の犯罪の中のひとつだという考えなのかなと思いました。彼も白人のようです。
ドーンは、見習いの警察官で、まだ本採用にはなっていません。上司のビルに偉そうにされて、ちょっとムカついています。そんな時に、口の軽いジェフが、この事件の話をしてしまい、正義感からウィリアムの嘘を警察で話してしまいます。もちろん、ビルは止めたし、ジェフもですが、頭に血が上っているドーンは、大騒ぎをしてしまいます。彼女も白人です。
もちろん、見習い警察官のいう事を全てまともに取り合う警察官はいませんが、無いことにする訳にもいかず、一応、ビルはちょっと怒られてしまいます。でも、ビルの味方の方が警察署には多いので、もうドーンと組む警察官はおらず、彼女は本採用となったとしても、警察署に味方はいなくなってしまいます。
それぞれが、自分の考えを突き通そうとする姿を見せて、オイオイ、人の話を聞こうよって思うのですが、このドーンは酷かったですね。ウィリアムとビルは、それぞれに年を重ねているようで、一応、自分の行動を考えての言動には観えたのですが、ジェフとドーンは、脳と口が直結しているように、考えも無く言葉を話しまくるんです。一度、脳の中で咀嚼して、言葉に出せば、そんな酷い言葉は出ないだろうと思うような事を言ってしまうんです。それが、若いって事なのかな。
嘘はいけないけど、全てにおいて正義が正しいとは限らないという事を訴えていたような気がします。法律にのっとった行動が、全て正義だとは限らないという事です。何事も、人間がやる事です。正しい事が人道に即しているとは限らない。
だって、ロシアのウクライナ侵攻だって、ロシアの言い分は正義の為にウクライナに攻め込んだって事でしょ。人殺しが正義だっておかしいですよね。でも、正義ってそんなもんなのかもしれません。ただ、人間が上手く使っている建前に過ぎないのではないかと思いました。私は、嘘でも何でも、人を一番傷付けない事が良いのではないかと思います。もちろん、誰かを助けるための嘘で、誰かが傷ついたら、またそこで違う嘘が必要になるかもしれない。何処まで行っても、人間に正しい事なんて無いんです。
そんな事を思う内容だったので、これは、沢山の人に観て欲しいなと思いました。この作品、なんで映画化しなかったのかな。十分に映画になる内容だと思うのに、勿体ないなぁ。それにしても、ケネス・ロナーガンって、凄い人だと思いました。
私は、この演劇、超!超!超!お薦めしたいと思います。これ、もうすぐ終わっちゃうんですけど、時間があったら、ぜひ、観に行ってみてください。3時間の大作なので、観る方も凄く疲れますが、観た後に忘れられないほど感動します。役者の方々も、必死で演じてくださっているのが解ります。素晴らしいです。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ロビーヒーロー」