「ナイトメア・アリー」現実を描くデル・トロ監督作品はダークでシビアな内容です。私はハマりました。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
スミマセンが、ペタの受付を一時中断しています。ごめんなさい。

 

「ナイトメア・アリー」を観てきました。

 

ストーリーは、

ショービジネスでの成功を夢みる野心にあふれた青年スタンは、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座とめぐり合う。そこで読心術の技を学んだスタンは、人をひきつける天性の才能とカリスマ性を武器に、トップの興行師となる。しかし、その先には思いがけない闇が待ち受けていた。

というお話です。

 

 

1939年、オクラホマの田舎の自宅を捨てて旅立ったスタン・カーライルは、バスの終点にあったカーニバルを訪ね、仕事を得ます。そのカーニバルでは、不思議な見世物を扱っていて、獣人と呼ばれる男が生きた鳥を食べるショーを見せていました。そのカーニバルで千里眼の芸を披露しているジーナと彼女の夫・ピートの手伝いとして働くことになったスタン。ピートはアルコール依存症で、芸の途中で眠り込みジーナが困る事も。そんなピートですが、トリックについては素晴らしい才能を持っていて、そのネタをノートにびっしり描き込んでいました。

スタンは、カーニバルのパフォーマーであるモリーに惹かれ、自分も成功して認められたいと思い、思い切ってピートに芸を教えて欲しいと頼みます。ピートは人が良く、快く教えてくれるようになりますが、そのトリックを使って、心霊現象を演出してはいけないと強く警告されます。それは身を滅ぼすことになると言うのです。



 

ある日、ピートがアルコールの飲過ぎで亡くなり、カーニバルに警察が踏み込んできます。カーニバルを閉鎖しろと言う警察署長に、スタンはピートから教わったトリックと読心術を使い、閉鎖危機から回避させることに成功します。この成功で自信を持ったスタンは、モリーを連れて都会へ出ていくことにします。

 

2年後、スタンは裕福なエリート相手に千里眼の芸を披露し、人気となっていました。そこで判事と心理学者のリッターと出会ったスタンは、心理学者と組んで、彼女が手に入れた情報を元に、交霊術が使えると偽り、金儲けを始めようと画策します。そして・・・。 後は、映画を観てくださいね。

 

 

この映画、私には衝撃でした。このストーリーを突きつけられたら、もう、誰かを騙して商売しようなんて、思えなくなるでしょう。占いとか流行っているけど、本当に統計学で計算して答えを出しているのか、それとも、この映画のように話術だけで人を騙しているのか、よく考えた方が良いと思いました。人助けの為に嘘をつくのか、金儲けの為に嘘をつくのか、その選択によって、身を滅ぼすという事です。

 

さすがギレルモ・デル・トロ監督なので、ゾッとするような展開が用意されていました。今回は、全くファンタジーも何もありません。現実が描かれているので、ちょっと今までのデル・トロ監督の作品とは違いますが、彼のダークな部分は温存しています。落ちていく主人公スタンの姿が、あまりにも哀れで、こうなる事は予想出来たじゃんって事なんだけど、それでも、やっぱり可哀想に思えてしまうのよね。

 

 

だって、このスタン、何度も引き返す選択をする場面があるのに、どうしても引き返さずに、突き進んでしまうんです。申し訳ないけど、やっぱりここで、育ちが悪いとか、頭が悪いとか、そういう事になって来てしまうのかなと思いました。学んできていれば、その選択になっていなかったハズなのに、知らないから、運任せにしてしまうから、失敗する方向に行ってしまうのかなと思いました。やっぱり、何か勝負をしたいと思ったら、必ず自分の中で基準を作っておいて、それ以上になったら引くつもりでやらないとダメですよね。

 

スタンは、アル中の父親に育てられ、長く辛い日々を送ってきたので、絶対にアルコールは飲まないと決めていたんです。でも、ある場面から飲み始めてしまいます。アルコールで酷い状態だった父親を知っていて、ピートの末路も見ているのに、どうして飲んでしまったのか。アルコールを口に入れてしまった時点で、負けが決まったという感じでした。人間って、これは絶対にやらないとか、強い意志を貫けないと、何事も上手く行きません。ま、イイかという気持ちでなんでも過ごしてしまうと、成功しませんよね。それをとても良く描いていたと思います。

 

 

スタンの姿は反面教師なので、凄く怖くなりました。自分の人生でも、どの場面で引くべきなのか、そう簡単に選択って出来ませんよね。どこかで見極めなければいけないとは思うのですが、もう少し我慢すれば好転するかもとか、期待してしまう。その気持ちが自分の首を絞めると解っているのに、どうしても引き返せない。スタンの姿は、本当に自分を見ているようで辛くなりました。何事も、あともう少しと言う時に辞めるべきなんです。うーん、とても考えさせられました。

 

最初の方から、全て完璧に組まれているストーリーなので、見落とさないように観ていく必要があるのかなと思いました。2時間半もあるので、見落とさないようにと思っても、見落とすのですが、それでも、重要部分を記憶に残しておくと、最後に完璧にまとまります。本当に綺麗な終わり方というのはこういう事だと思いました。カチッとハマったジクソーパズルのように、美しい絵が出来上がるようでした。

 

 

最初にカーニバルに行き着いて、そこから物語が始まるのですが、まぁ、見世物小屋ですよ。変わった容姿の人を見せるとか、昔は残酷なことをしていたんです。日本でもありましたよね。珍しいモノを見て楽しむという娯楽があったんです。その人間の残酷さも、この映画は良く描いているのではないかなと思いました。

 

この映画は、1939年から始まり、第二次世界大戦に突入する時代なのですが、結局、戦争でボロボロになり、普通に生きられなくなった人を、獣人として見世物にするんです。容姿がどうのという事ではなく、人生に負けた人間は面白いから見世物にしろと言っているようで、恐ろしいと思いました。今、このネット社会でも、失敗したり、何かあった人はSNSで吊るし首状態ですよね。酷い言葉を浴びせられ、これでもかってほど、上から叩きのめされて、立ち上がれなくなってしまう。今も昔も同じなんです。たまたま、見世物小屋がある場合と、それがネット上になった場合の違いだけなんです。凄いことを訴えている映画でしょ。


 

映画を反復して思い出す度に、色々な事が思い浮かび、残酷な人間が多い中で、自分はどう生きていくべきなのかと考えてしまいます。大人しく、表に出ないように生きていくのか、それとも残酷な人間と闘うことになっても、外に出ていくのか、悩みます。でも、きっと、残酷な中にも優しい人間もいるかもと、またも期待して、外に出ていくしかないんでしょうね。期待しちゃいけないと思いながらも、まだ人間を信じている自分がいることを誇らしいと思って生きて行こうと思います。

 

キャストが素晴らしいですよ。落ちていくスタンをブラッドリー・クーパーが演じていて、彼は女を利用する男なんです。そして利用されているようで自立している女性たちを、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ルーニー・マーラの3人が演じています。最後まで観ると、女を甘く見るんじゃないぞって突きつけていて、ちょっと気持ち良くなりました。そして、デル・トロ作品には大切なロン・パールマン、そしてウィレム・デフォーと、何処を見ても逃げ場が無いくらい凄いキャストで、満足出来ると思います。

 

 

そういえば、重要アイテムとしてホルマリン漬けの先天性形成異常児が出てきます。エノクという名前で呼ばれていましたが、もしかしたら、これがドリーの子だったのかもと思ったのは私だけかな。これ、ちょっとネタバレかな。でも、映画を観ないと、ドリーって解からないでしょ。

 

ホルマリン漬けの胎児、私の祖父の家に並んでいました。4ヶ月くらいの胎児から出産間近の胎児まで、ずらっと並んでいて、まだ保育園にも行っていない私の脳裏に焼き付いています。開業医だったので仕方ないのですが、子供に見せないで欲しかったなぁ。まぁ、病院内で遊んでいた私も問題なのだが。今でも忘れられない光景です。

 

 

私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。もう、人生を語ってしまうほど、深く感銘を受けてしまいました。うーん、本当に深くて良い作品だった。今回のデル・トロ監督の作品は、とても解りやすいと思います。誰もが、この映画を観ると、自分の人生を思い返すのではないかなと思いました。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

 

「ナイトメア・アリー」