「ドライブ・マイ・カー」を観てきました。
ストーリーは、
舞台俳優で演出家の家福は、脚本家の妻・音と幸せに暮らしていた。しかし、妻はある秘密を残したまま他界してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた彼は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす中で、家福はそれまで目を背けていたあることに気づかされていく。
というお話です。
舞台俳優であり演出家の家福は、愛する妻の音と満ち足りた日々を送っていた。しかし、ある事がきっかけで家福は妻に不信感を持ち始める。ある日、家福の出がけに「帰ってきたら話がある」と音から言われる。何故か真剣な顔だった。不安に駆られた家福は家に帰り辛く、遅くなって帰宅すると、部屋は暗いままで、音が倒れていた。突然にくも膜下出血で亡くなってしまったのだ。音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまった。
2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。さらに、演劇祭で公演する「ワーニャ伯父さん」の配役を公募すると、かつて音から紹介された俳優・高槻の姿がオーディションにあった。
演劇祭練習場への送迎中、みさきに運転をして貰いながら、妻が吹き込んだ”ワーニャ伯父さん”のセリフのテープを聞きながら、喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福。みさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく。
人を愛する痛みと尊さ、信じることの難しさと強さ、生きることの苦しさと美しさ。最愛の妻を失った男が葛藤の果てに辿りつく先とは。(公式HPより) 後は、映画を観てくださいね。
この映画、良かったなぁ~。凄く良い作品なんだけど、私、上手くこの良さが伝えられるかしら。それくらい、この微妙な雰囲気というか、村上先生の原作のあの空気感が美しく再現されていました。あの空気感は独特ですよね。
舞台俳優で演出家の家福は、妻を愛しているんだけど、浮気現場を目撃してしまうんですよ。不信感でいっぱいになるんだけど、どうしてもそれを聞けないんです。凄く解りますよね。聞きたいんだけど、聞いてしまったら別れまで行ってしまいそうで、どうしても聞けないっていう気持ち。もやもやしている内に、突然に妻がくも膜下出血で亡くなってしまうんです。何も聞けないまま、彼女の気持ちを知らないまま、別れが来てしまう。そんな出来事が導入部で、それからオープニングが始まります。
それから2年後、演劇祭の演出家として広島に呼ばれます。今回は「ワーニャ伯父さん」がテーマで、出演者をオーディションで選びます。家福の演出は面白くて、1つの演劇を、色々な国の言葉で演じて、直接の会話は成り立たないんだけど、気持ちで交差して行くというものでした。私も良く演劇を観るのですが、この演出は面白いなと思いました。ソーニャ役を手話の役者が演じていて、それでも演技で言葉が凄く伝わってきて、これは良いかもと思いました。他の役者も、英語や韓国語、他の言語もあったと思います。この場合、全員が脚本を全て覚えていないと上手く回らないと思うので、何度も台本読みの場面がありました。劇中劇なんだけど、これは面白かったです。
「ワーニャ伯父さん」というのは、アントン・チェーホフの戯曲で、演劇では有名な戯曲です。忍耐を描いたもので、ワーニャは絶望しながらも、その土地でこれからも生きて行かなければならないという、結構、しんどいお話です。まぁ、チェーホフの「かもめ」よりは、死なないから良いのかな。私は、段田安則さんと宮沢りえさんと黒木華さんが演じた舞台を観たのですが、生き方が上手い人間と下手な人間と二通りあって、上手い人間になって行かないと、どこまで行っても辛い人生だよなぁとしみじみ感じたものです。
そんな演劇が映画の中に描かれていて、この家福もワーニャと似ていて、自分の怒りを今までは爆発させられず、心にずっと貯めていたんです。全てを吐き出して、また前を向いて歩くべきだという事を、この演劇を通して、感じ始めたんじゃないかな。ドライバーのみさきと出会った事も、そのきっかけになったのではと思いました。妻のセリフをテープで聞きながら、ゆったりとした車の中で、やっと深く考えることが出来たのではないかと思いました。
ドライバーのみさきも、複雑な家庭環境で育ち、苦労をしてきているんです。彼女もまた、心に沢山のモノを貯め込んで、前に進めていなかったのかなと思いました。でも、きっと、この出会いで何かを見つけたのではないかな。
独特なのが、岡田さんが演じる高槻という男です。家福の妻が可愛がっていた役者で、妻の生前に紹介された男性なんです。この高槻、一般的に言うと、”刹那的な男”って感じですかね。これは危ない男だと思いました。時々、いますよね。こういう人って。後先考えずに、その時の考えだけで行動してしまうんです。きっと、自分でもダメだと判っているんだと思うのですが、それを変えられないのでしょう。そして、そんな感情だけで動く男は、家福とは正反対なので、家福の妻・音も気に入ったのかなと思いました。何も考えず、ただ、その時間だけの事しか考えずに済むなら、楽ですからね。それ以外の何物でもないと思いました。
家福は、そんな高槻との出会いもあって、妻を理解したというか、自分の解釈をして納得したのではないかな。全てを受け止めて、ワーニャのように、絶望して忍耐して、そして前を向き始めたのかなと思いました。妻を忘れたのではなく、納得して心にしまい込んだのかなと思いました。
キャストが素晴らしかったので、この雰囲気が出たのだと思います。もちろん、監督の力もあると思いますが、本当に良かったです。3時間もある映画なのですが、私は、それほど気にならなかったです。劇中劇もあり、映画を観ながら、映画の中の舞台も観ていたような感覚で、1度で二度美味しいような気持ちでした。この映画は、舞台好きには、好まれるのではないかな。
この映画、私は好きだな。何度も観て感じて、観る度に思う事が増えて行き、何度目かで泣けるような気がします。観る度にこの映画の空気が身体に沁みてきて、浸透すると、涙が溢れてきそうな気がしました。そんな映画です。
私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。この映画を観ながら、空気感にたゆたいたいと思うような作品でした。もし、観ていて、途中で辛くなっちゃったら少しウトウトしても良いんじゃないかな。また観たら、ちゃんと感動が持続してくれます。必死で観るとか、考える作品ではなく、こちらが受け入れるまで待ってくれるような作品なんです。解らないなぁ~と思ったら、また観れば、ちゃんと待っててくれますから。そんな優しい映画です。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ドライブ・マイ・カー」