「モロッコ、彼女たちの朝」を観てきました。
ストーリーは、
臨月のお腹を抱えてカサブランカの路地をさまようサミア。イスラーム社会では未婚の母はタブーとされ、美容師の仕事も住居も失ってしまった。ある日、彼女は小さなパン屋を営むアブラと出会い、彼女の家に招き入れられる。アブラは夫を事故で亡くし、幼い娘との生活を守るため心を閉ざして働き続けていた。パン作りが得意でおしゃれなサミアの存在は、孤独だった母子の日々に光を灯す。
というお話です。
臨月のお腹を抱えてカサブランカの路地をさまようサミア。イスラーム社会では未婚の母はタブー。美容師の仕事も住まいも失った。その日も仕事を探して彷徨い、路地で寝るしかないと座り込んでウトウトしていた。
すると、路地に店を出すパン屋から女性が出てきて、路上で眠るサミアを家に招き入れた。小さなパン屋を営むアブラ。彼女は夫の死後、幼い娘のワルダとの生活を守るために、心を閉ざして働き続けてきた。
アブラは、今日は泊めてあげるから、朝には出て行ってくれと話し就寝する。翌朝、心細そうなサミアを見て、人目があるから出て行って欲しいけど、夜8時の食事の時間に戻って来ても良いと告げて仕事に入る。
サミアは時間を潰し、夜8時に戻ってきた。そして、仕事を手伝わせて欲しいというが、アブラは手伝わないで良いと突っ撥ねる。娘のワルダはサミアを気に入り、距離は縮まっていった。翌朝、サミアは自分が得意なパンを作り、朝食として出す。そして、売る分もあるからとアブラに言う。
サミアのパンは人気となり、パン屋は繁盛し始める。パン作りが得意でおしゃれ好きなサミアは、孤独だった親子の生活に光をもたらしたのだ。商売は波に乗り、町中が祭りの興奮に包まれたある日、サミアに陣痛が始まった。生まれ来る子の幸せを願い、養子に出すと覚悟していた彼女だが・・・。(公式HPより)後は、映画を観てくださいね。
この映画、とても良い作品でした。このサミアは、妊婦であるということで可哀そうな女性というイメージですが、それがなければ、俗にいうホームレスなんです。一般的に言って、ホームレスの方が外で寝ていても、怖いとは思っても、家に泊めてあげようとは思いませんよね。でも、妊婦さんなので、もしも具合が悪くなったらと思ったアブラは、自分の家に招き入れるんです。全く知らない人だから、怖かったとは思いますが、サミアが悪い人には見えなかったのだと思いました。
そして、奇妙な共同生活が始まります。イスラム社会では、未婚女性が妊娠というとふしだらだと言われ、関わりたがらないので、生活していくのが困難なんです。なので、最初はアブラも、サミアに関わっていることを知られたくなくて、隠しているのですが、その内、自分の従妹だと言って、一緒に暮らすことを隠さなくなります。きっと、サミアの聡明さを知って、彼女を受け入れようとしたんだと思います。
二人の会話から、イスラム社会では、まだまだ女性の地位が低く、彼女たちが色々なことを自由に出来ないのだということが判りました。アブラは、夫が亡くなった時、自分の夫なのに、顔を見ることもさせてもらえなかったと言っていて、お葬式などの儀式には女性は同列させてもらえなかったのだと思います。いくら宗教の決まりだと言っても、女性ばかりが自由を奪われて、男性の”物”のような扱いにされたのでは、たまりません。
アブラは、夫を亡くしても、なんとかパン屋を営みながら娘を育てていますが、家に男性がいないことで、苦労もたくさんあると思います。だから、娘に厳しく教育を施して、出来るならこの世界に収まらず、世界に出て欲しいと思っているのかなと思いました。自分と同じような苦労をさせたくないのだと思います。そんな女性の気持ちが、良く描かれていました。
サミアは、未婚で妊娠してしまったことで、働いていた美容院をクビになり、部屋も追い出されたようでした。この映画では、サミアの過去は描かれません。好きになった人の子供なのか、望まない行為で妊娠してしまったのか、それもわかりません。でも、彼女にとって、それは過去のこと。今は、子供を無事に産んで里子に出して、実家に帰るという目標を持って、必死で生きているという状態なんです。そんな彼女に差し伸べられた温かい手は、本当にありがたかったのではないかと思います。
元々、とても明るい性格のサミアは、その明るさでアブラもワルダも、明るくしていきます。娘を育てることに必死だったアブラは、少し心に余裕を持てるようになり、ワルダも良く笑うようになります。それぞれが息苦しく暮らしていたのに、一緒に暮らすことで、一息付けたような、そんな風に見えました。
この映画は、イスラム社会で締め付けられて暮らしている女性たちが、それぞれに幸せの在り方を見つけて、また歩き出すことが描かれていました。どんな場所にいても、幸せを見つけようと思ったら見つけられるんですよね。下を向いてばかりいても、何も始まらないということが描かれていて、なんか、嬉しくなりました。
最後に、映像がとても美しく、フェルメールなどの絵画を思い起こさせるようなショットがいくつもありました。誰もが、見たことのあるような絵を映画の中に観ることで、興味を引き、目が離せないようにしています。上手い構成でした。
私は、この映画、超!お薦めしたいと思います。暗い映画かなと思ったのですが、とても明るくて、楽しい映画でした。心を軽くしてくれるような、素敵な映画でしたよ。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「モロッコ、彼女たちの朝」