「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」を観てきました。
ストーリーは、
いつの時代でもない、架空の町。この町は川の向こう岸にある町と、目的も分からない戦争を何十年も続けている。毎日、朝9時から夕方5時までが戦争の時間だ。町で兵隊として暮らす露木は、向こう岸から聴こえてきた音楽に心ひかれるように。そんな中、町に新しい兵器と部隊が来るという噂が広まり、彼らの生活は変化していく。
というお話です。
一本の川を挟んで「朝9時から夕方5時まで」規則正しく戦争をしている二つの町。津平町に暮らす露木は、真面目な兵隊です。朝から軍本部に出勤し、制服に着替えてから川岸に出て戦闘をし、お昼は気まぐれなおばさんの定食屋へ行き食事をします。夕方になれば、きっかり5時に仕事を終え、物知りなおじさんの煮物を買って帰って、眠るだけ。
川の向こうの太原町をよく知るひとはいません。だけど、太原町はとてもコワイらしいんです。みんな、想像で怖い怖いと言い合っています。
ある日、突然、露木が言い渡されたのは、音楽隊への人事異動。家で埃を被ったトランペットを引っ張り出したはいいものの、明日からどこへ出勤すればいいのやら分かりません。試しにトランペットを吹いてみるのですが・・・。
そんな中、ひょんなことから出会ったのは向こう岸から聞こえる音楽でした。その音色に少しずつ心を惹かれていく一方、町では「新部隊と新兵器がやってくる」噂が広がっていきます。新兵器の威力は凄いらしく、戦争はどうなっていくのでしょう。ぼんやりと恐怖を感じていた露木の前に、居なくなっていた同僚が現れて・・・。後は、映画を観てくださいね。
うーん、シュールな映画だった。凄く計算されていて、一応の感情表現はあるものの、表情は笑っていない。そう、きっとそこに住む人たちは、何も考えていないんだろうと言う事を想像させるんです。何も考えず、言われたことをやっていれば、毎日、無事に過ごして行けるし、生活も出来るから問題が無いと思っている。その”慣れ”というか、流されていれば問題が無いと思っているのって、凄く怖いですよね。
思考が停止していて、自分が何をやっているのか理解していないんです。もしかしたら、自分がやっている事で、沢山の人が犠牲になって、亡くなっているかもしれないのに、それを知らないんです。それって、知らないでは済まされないですよね。知らなきゃいけなかったのに、知ろうとしなかったのは、罪だと思うんです。それって、見て見ぬ振りをすると一緒でしょ。この映画では、そんな人間の姿を描いているんです。
時代の雰囲気は昭和初期かな。津平町の人々は、普通の生活をしていて、とても平和そうに見えるんだけど、川を隔てた向こうの太原町と戦争をしているんです。それも、きっかり、9時から5時まで。まるで工場での作業をするように、戦争をしているんです。もちろん、戦争だから、撃たれて怪我をしたり、死んだりすることもあるけど、それも日常なんです。淡々と怪我人を運んでいく姿は、ちょっと引きました。
これって、戦争を描いていながら、今の日本のことなんじゃないかなって思ったんです。周りの国で紛争が起こっていても、別に他人事のように思って、「大変だね。」なんて平然と言っている私たちは、この映画の町の人々と一緒じゃないかなって思えました。自分じゃないから、別に、イイやって思っているんです。恐ろしいでしょ。自分の事ながら、ちょっと考え始めると、ゾッとしました。
だって、次は自分たちが殺される方で、周りの人に助けを求めても、冷たい目で、「大変だね。」って言われるって事でしょ。明日は我が身なのに、それでも何も出来ない、いや、何をして良いのか分からないというのが正直な気持ちです。ミャンマーで、市民が殺されているニュースを見ても、ただ、見ているしかない自分がいて、悲しくなります。
そんな現代社会の問題を描いていて、とても考えさせられました。淡々と、まるでロボットのように、同じ毎日を送る人々にも心は在るはずなのに、それが見えてこなくて、ちょっと見えてきたと思ったら、悲劇が待っているという、衝撃的な映画でした。
でも、あまりにも静かに恐ろしさを描いているので、人によっては、面白さや、奥深さが解らないかなと思いました。凄く楽しめて、一般的な面白さが描かれている訳ではないので、好き嫌いが分かれると思います。賛否両論ある作品なのではと思いました。
私は、この映画、お薦めしたいと思います。但し、前にも書いたように、好き嫌いが分かれる作品なので、単館系映画で、理解が難しい映画でも最後まで観れる方にだけお薦めしようかな。アクション映画や、恋愛映画が好きな方には、ちょっと辛いかもしれません。でも、気になったら、ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」