「君の誕生日」セウォル号沈没事故を正面から取り上げた映画です。遺族と向き合い真摯に描いています。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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「君の誕生日」を観てきました。

 

ストーリーは、

先にこの世を去ってしまった息子スホへの思いを抱きながら生きるジョンイルとスンナム。スホがいなくなってから初めて迎える息子の誕生日が、母スンナムは息子がいない現実を認めるようで恐ろしくてたまらない。一方のジョンイルは、息子が亡くなった日に父親としての役目を果たせなかったことに罪悪感を抱いており・・・。

というお話です。

 

 

2014年4月16日。この世を先に去った息子スホへの恋しさを抱きながら生きるスンナム。娘と二人で静かに暮らしていた。ある日、ベトナムから夫のジョンイルが戻ってくる。玄関ドアを叩くのだが、スンナムは出る気配がない。何故か夫に会おうとしないのだった。

 

ジョンイルは、仕事でベトナムへ行っていたのだが、現地である事件に巻き込まれ、直ぐに韓国へ帰ってこれなかった。2年前に息子が亡くなった時、家族と一緒に居ることが出来ず、父親としての役目を果たせなかったことを今も悔やんでいる。やっと自宅に帰ってきたのだが、妻は逢おうとしてくれない。

 

 

ジョンイルは近くの妹の家に泊まり、自宅を訪ねて娘に会う事が出来、そして妻のパート先に行き、やっと会うことが出来るのだった。しかし、妻は夫を受け入れることを拒み、家に帰って来てとは言ってくれない。ジョンイルは、自宅に毎日通い、娘に会うようになる。

 

息子スホは、高校の修学旅行中で船に乗っており、その船が沈没してしまったのだった。その事故は300人以上が亡くなる大事故だった。沢山の遺族が悲しみを背負い、今も苦しんでいる。ジョンイルとスンナムも、苦しんでいるのだった。

 

やがて1年にたった1日だけの、亡くなった息子・スホの誕生日が近づいてくる。スンナムは主役不在の誕生日は息子がいない現実を認めるようで怖くてたまらない。遺族会とボランティアの方が自宅を訪れ、スホの誕生日会を開いて彼を一緒に悼みましょうというのだが、スンナムは拒んでいた。しかし、ジョンイルは息子の為に誕生会を開こうと説得し、誕生会を開くことにする。

 

 

スンナムは、ジョンイルの優しさで彼を受け入れ始めるのだが、ある日、遺族に払われる賠償金の話が出ると、「あなたもお金が目的なの?」と激怒する。沢山の周りの人に、賠償金で良い暮らしが出来るだろうと言われ、嫌な思いをしてきたからだった。ジョンイルにそんな気持ちは無く、スンナムに寄り添い、賠償金は受け取らないと宣言する。国の責任を追及し、和解はしないと訴えるのだった。

 

そしてスホの誕生日が近づき、遺族会が誕生日会の準備を始めてくれるのだが・・・。後は、映画を観て下さいね。

 

この映画、良い映画でした。あのセウォル号沈没事故を正面から取り上げた作品で、監督自身がボランティア活動を通じて遺族と長い間向き合って作った作品だそうです。本当に酷い事故でした。300人以上が亡くなり、まだ生きていると判っていても助けられなかったというのは、本当に酷い事だと思います。

 

 

映画では、船に残された人々がどうだったのかを描くのではなく、亡くなった方々の遺族を描いており、その喪失感と苦しみ、悲しみを深く描いていました。事故で亡くなると、突然の事なので喪失感は大きいと思いますが、この事故では、沈没して何時間かは生きていて”もうすぐ水が入ってくるからダメだ。”という状況を連絡して亡くなっていたりするので、遺族は、もう、気が狂わんばかりだったと思います。この映画では、そういう場面は描かれていませんが、考えるだけで苦しく、悲しくなります。

 

事故から2年後に、誕生日会を開くというお話ですが、何で亡くなってから2年後に誕生日会をするの?って思いますよね。他の遺族の方は、亡くなった次の年に誕生日会を開いたそうですが、スンナムは拒否をしていたので、2年目になったんです。この誕生日会を開いて、亡くなった息子の思い出を語る事で、亡くなった事実を受け入れて、先に進もうという事らしいんです。若くして息子を失くしたら、納得が出来ない、受け入れたくないという親御さんもいらっしゃるでしょうから、韓国なりの優しい応援なのかもしれません。

 

 

観ていて、本当に遺族の方は大変だったんだろうなぁと思いました。賠償金の話も出るのですが、親族も賠償金目当てに儲け話を持ってきたり、近寄ってきたりするんです。世知辛い人間が多く、息子を失くしたという苦しみを全く解って貰えないという苦しさも描かれていて、可愛そうだと思いました。お金の問題じゃないですよね。息子が亡くなったんです。助けなかった国が責任を認めるまで、許せないですよ。遺族の方々が国を訴えたそうですが、当たり前だと思います。確かに、お金に困っている方もいらして、賠償金で暮らしていけるという方もいるかもしれませんが、みんながみんな、そうではないんです。何でも金でどうにかなると思うなよって感じました。

 

ジョンイルは、事故の時に韓国に居られず、直ぐに帰っても来れませんでした。色々な事情があり、どうしようもなかったのです。スンナムも事情は判っていたし、夫を憎んでいる訳ではありません。でも、どうしても、素直にお帰りと言えなかったんだと思います。事故の後、一人で国と戦って、周りとも戦って、精神的に疲れてしまったんだと思います。そして夫を受け入れることは、息子が亡くなったことを認めることになるような気がしたのかもしれません。母親の気持ち、とてもよく解りました。

 

 

日本では、子供が集団で亡くなるという事件は、ここ最近は聞いていませんが、こんな事、起こって欲しくありません。船の事故なんて、沈むまでに時間があるのだから、どうにかなりそうなのに、なんでこんなに亡くなったんでしょうね。目の前で人が死んでいくのを見ていたなんて、考えられません。本当に痛ましい事故でした。

 

そんな事故に向き合い、遺族の姿を映画で描くというのは、とても珍しいと思いました。事故をフィクションとして描いて、ヒーロー映画にすることはあったりするけど、こんなに遺族を正面から描くとは、驚きました。凄く考えさせられる映画です。

 

 

私は、この映画、超!超!お薦めしたいと思います。どんな国、どんな場所でも、驚くような事故が起こることがあります。そんな時に、誰もが協力して、一人でも多く助けられる世の中になって欲しいと思えました。悲しむ人が一人でも減って欲しい、そんな思いが伝わる映画です。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできて(感動してきて)くださいね。カメ

 

 

「君の誕生日」