東京国際映画祭2020で「ノー・チョイス」(TOKYOプレミア)を観てきました。
ストーリーは、
16歳のホームレスの少女ガルバハールは、既に何度か代理出産をしていたが、またも愛する男に言われるがまま、お金のために代理出産を引き受ける。しかし、既に避妊手術をされていて妊娠出来ない身体になっている事が検査で判明する。
11歳の時から妊娠・出産して子どもを売る生活をしてきたガルバハールの話を聞いた人権派の女性弁護士サラは、誰が手術を行ったのか捜査を始める。本人が望んでいないにも関わらず避妊手術を施したとなれば、人権問題になる。
やがて、ガルバハールが、前回の妊娠の時に交通事故に遭い、瀕死となった時に治療をし、亡くなった子供を取り上げたペンダー医師の名前が浮上する。彼女は、私財を投じてホームレスを救う活動をして、世の尊敬を集める人物だった。地域のホームレスに対して、多大な貢献をしているペンダー医師が、何故、彼女に勝手に避妊手術をしたのか。ペンダー医師を訪れ、問いただすサラだったが、ペンダー医師は覚えがないと話す。
実は、イランのホームレス女性の間で、妊娠出産をし子供を売るという商売が行われていた。障害を持つ子供が生まれれば、虐待の標的とされ、ホームレスは増えるばかり。あまりの酷さに、政府内で、ホームレス女性への避妊手術をするべきだという声が上がったことがあるのだが、人権的に問題だと言って却下された過去があった。ペンダー医師は、その考え方を実行に移したのではないかと疑ったサラは、手術の記録を探して奔走する。
一方、ガルバハールは、妊娠出来ないならお金をゆする道具になるのではないかと男に思われ、弁護士と会うことを阻止されてしまう。避妊手術をしたという証言を得たサラだったが、被害者であるガルバハールに会えなくなり、男を追って、ガルバハールを探すのだが・・・。後は、映画を観てくださいね。
イラン映画なのですが、凄く重い内容を描いた問題作でした。「ティティ」という作品でも描かれていたのですが、子供を産む”代理出産”というのが、女性の仕事となってしまっている現状が、あまりにも酷くて驚きました。次々と子供を産まされて、売ったお金を男が取り上げてしまうという、女性の大切な部分を食い物にされているという現状に腹が立ちます。何で、こんな事をさせておくんでしょうか。まるで、人間生産工場、ブリーダーですよね。人間はペットじゃないんです。
このガルバハールという女性は、11歳から代理出産をさせられていて、たまたま、妊娠中に交通事故に遭って手術を受けることになり、その時に、このペンダー医師が避妊手術をしたようなんです。その交通事故の時だって、瀕死の重傷だったのに払うお金が無く、治療が出来ないのに、このペンダー医師が私財で払うから治療をしますと言ってくれて、お腹の子供は亡くなったけど、ガルバハールは生き残れたんです。
この時だって、男は子供は売り手が決まっているから生かしてくれって言うんですよ。治療費も払わないくせに、図々しいったらありゃしない。このガルバハールにくっついている男はクズ中のクズでした。なんでこういう男を警察は野放しにするのかしら。
それに、確かに妊娠出産する権利は誰にでもあるけど、それを商売にしている人に権利ってあるの?人身売買でしょ。それ、犯罪じゃないのかしら。確かに、弁護士が言う”産む権利”って大切だけど、ペンダー医師が考える人身売買を止める為の措置も、人類保護の観点から考えると正しいような気がするんです。人間全体から考える産ませない権利ですよね。
この作品は、本当に心に刺さりました。というか、現在もイランでこんな事が行われているという事に、怒りを覚えます。人間を何だと思っているのでしょうか。確かに、どんなに妊活をしても子供が出来ない女性もいて、合法的に代理出産を頼みたい人はいると思います。自分の子供が欲しいという気持ちも凄く理解出来るんです。でも、一方で、それを仕事にして、身体がボロボロになっていく女性もいて、合法的だと言っても、本当にそれをして良いのかと言われると、答えが出ません。
需要と供給があるんだからと言われると、生活に困っている女性が自分の家族を養うために、他人の子供を妊娠出産するということもありなのかなと考えてしまったりもします。だけど、この映画で描かれているようなホームレスの子供に優しい言葉をかけて、代理出産をさせてお金を取るという男がいるのも事実で、それは許せないと思いました。
酷い話なんだけど、この弁護士サラが強引にペンダー医師を追い詰めて行くのは、ちょっと違うかなと思いました。まるで役所の職員みたいで、もう少し心を使えないの?って言いたくなりました。それに対して、ペンダー医師も、勝手に避妊手術をしてしまうのはやり過ぎかなとも思いました。それ以上に問題なのは、弁護士と医師が必死で戦っているのに、被害者のガルバハールは、教養も無いし経験も無いからなのか、その場限りのお金さえ手に入れば、もう忘れてしまいホームレス生活に戻るという感じで、あー、この国は、全く変わらないのだなと、根本的な問題を感じました。
何だか、凄い内容の映画で、衝撃でした。こういうイランの現状を世界は知るべきです。沢山の情報が飛び交い、進歩している世界ですが、一方で、何も変わらず、貧困にあえぐ人たちは増えているのではないかという事なんです。恐ろしいと思いました。
最後に、映像が面白いです。長回し、パンしてアップなど、凄く人物に寄り添ったカメラワークをしていて、面白いと思いました。あまり他では見ない感じでした。
私は、この映画、超!超!お薦めしたいと思います。この映画、ぜひ、日本公開して欲しいな。あまりイラン映画なんて、日本で観ることが無いけど、こういう問題を扱った作品は、日本でも観て貰うべきだと思いました。ちょっと辛い映画ですけどね。楽しく笑える作品ではありませんが、考えるべき作品です。もし、公開されたら、ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ノーチョイス」