「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」をオンライン試写会で観ました。Fan's Voiceさん(@fansvoicejp)の独占最速試写会でした。映画の後に藤井監督と埼玉大学教授の内田先生を迎えてのトークショーもありました。内田先生がサンフランシスコの現状をお話してくださって、映画の理解に繋がりました。
ストーリーは
IT関連企業とベンチャー企業の発展により、多くの富裕層が暮らす街となったサンフランシスコ。この街で生まれ育ったジミーは、祖父が建て、家族との思い出が詰まったビクトリアン様式の美しい家を愛していた。しかし、地区の景観とともに観光名所にもなっていたその家を現在の家主が手放すことになり、家は売りに出されてしまう。ジミーは再びこの家を手に入れるために奔走し、そんなジミーの切実な思いを友人であるモントは静かに支えていた。
というお話です。
サンフランシスコで生まれ育ったジミーは、祖父が自身の手で建て、かつて家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家を愛していた。その愛は、他人の家になっても変わることなく、勝手に外壁の塗装を直したり、庭の植栽を気にしたりしていて、家主に気味悪がられて、二度と来るなと言われていた。それでもジミーはその家に通っていたのだった。
ある日、その家の前に大きなトラックが留まっており、荷物を運び出している。話を聞くと、その家の持ち主が亡くなり、その子供の姉妹が相続で争うこととなり、家から追い出されたらしい。
変わりゆくサンフランシスコの街の中にあって、地区の景観とともに観光名所になっていたその家は、空き家となることになってしまった。もちろん、売りに出されるだろうが、相続問題は長く時間がかかることが多いと不動産屋に聞いたジミーは、ここぞとばかり、その家に不法侵入し、暮らし始めてしまう。
もちろん、最初は家を購入しようかと考え、400万ドルという価値が付いたその家を買おうと銀行に行ったのだが、もちろん銀行は何の担保もない彼にお金を貸さず、家を買うのは夢のまた夢になったのだった。
ジミーは、叔母に預けていた家具を取り戻し、家に運び込み、快適な生活空間を作り出した。そしていまはあまり良い関係にあるとは言えない父を訪ねて思いを語る。しかし父親はあまり良い顔をしなかった。
そんなジミーの切実な思いを、友人モントは、いつも静かに支えていた。ジミーの思いを理解した上で、モントは彼に伝えたいこともあり、それを戯曲として書き始める。
いまや都市開発・産業発展によって、“最もお金のかかる街”となったサンフランシスコで、彼は失くしたものを、自分の心の在りどころであるこの家を取り戻すことができるのだろうか。(公式HPより) 後は、映画を観てくださいね。
サンフランシスコと言ったら、ゴールデン・ゲート・ブリッジや、坂を上がる路面電車を誰もが思い浮かべるかと思います。この街は、戦争前、日本人が移り住んで、日系人コミュニティを確立していた土地だそうですが、第二次世界大戦時に日本人は収容所に強制移住させられ、残ったその街に黒人が移り住んだらしいんです。その後、地域の発展と共に、土地の価格も上がり、黒人は居なくなり、白人の街になっていったそうです。シリコンバレーも近いことから、この街には富裕層が住むようになり、住宅や賃貸価格がとても上がっているようです。
このような歴史があり、ビリーの祖父が建てたと言っていた建物は、ビクトリアン・ハウス調の家で、1860年から1900年頃に沢山建てられた様式と酷似しており、祖父は1940年頃に建てたと言っていましたが、本当はどうなの?って感じなんです。でも、ビリーは祖父が建てて、父と母と暮らしたその家を愛していて、他人の家になっても、メンテナンスを勝手に行っているんです。家主にしてみたら、嬉しいけど気持ち悪いという感じですよね。いつか、家に帰ったら、その人たちが住み付いているんじゃないかと恐くなっちゃうと思います。
その家はビリーにとって、唯一のアイデンティティだったのだと思いました。自分の歴史はその家と共にあり、その家があるからこそ、自分もあるのだと思っていたんじゃないかと思うんです。だって、その家に住んでいた時は両親とも一緒に暮らしていて、その家を出てからは、両親とは別になり、一時施設に入れられたりと、色々あったようなんです。なので、彼には、その家が幸せな自分の象徴なのだと思いました。
その家を手に入れたいと思っても、今の生活からしたら全く手が届かない金額だし、どう考えても手に入らないと思って、勝手に不法占拠してしまうんです。モントが必死でジミーの家を守ろうと不動産屋に掛け合う場面がありますが、不法占拠自体がダメだからね。警察を呼ばれたらジミーとモントがダメだから。いくら欲しくても止めようね。(笑)
ジミーの気持ちは痛いほど解りました。もう、途中で泣けてきちゃいましたもん。サンフランシスコを、その街に建つその家を、愛しているジミー。彼が生きている、そして生きて行く為には、この街と家が必要なんです。誰に何を言われても、どんな真実があろうとも、彼にとっての心の家はその場所なんです。自分から奪わないでくれという叫びが聞こえるようでした。
そんなジミーの気持ちを一番分かっているモントは、彼が愛するサンフランシスコを大切に思いながらも、酷い状況だという事を良く理解しているんです。汚染された海や、治安の悪い街、住んでいる人々の心の貧しさなど、愛している街だけど、街自体は病んでいる事を理解していて、ただジミーを応援するだけじゃダメなのではないかと考えているんです。
とても芸術家肌のモントは戯曲を書いて、街が病んでいる事を伝えたいと思っているのですが、上手く伝えられません。そんなモントを支えているのはジミーなんです。二人は仲が良くて、お互いに支え合っているんです。素晴らしい友情でした。モントは、ちょっと自閉症気味ではあったけど、頭の良い人でした。表現の仕方が下手なだけで、素晴らしい才能を持つ人だろうなと思いました。
何だか凄く良い映画で、感動してしまいました。誰にでもあるでしょ、心のふるさとって。実家だったり、祖父母の家だったり、暮らした街だったり、それぞれに自分の場所ってあると思うんです。たとえ、その形が変わってしまっても、心のふるさとは変わらないでしょ。いつまでも愛しているんです。そんな気持ちが痛いほど伝わる映画でした。
私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。こういう映画、好きなんです。他人から見たら、そんなガラクタと言われるようなモノでも、汚い街と言われる所でも、自分にとっては心のふるさとなんだ、嫌いになんてなれる訳が無い!という気持ちが描かれていて、とても共感しました。私も自分の家も街も愛しています。誰に何と言われようと、それは変わりません。そんな気持ちにさせてくれる、この映画、ぜひ、観に行ってみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
・ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ|映画情報のぴあ映画生活
監督も俳優も初作品なので、映画会社「A24」のお薦め作品を挙げてみますね。