舞台「恐るべき子供たち」を観てきました。
ストーリーは、
美しくも残忍で傲慢な姉エリザベートと、青白い肌の美しい弟ポール。
冬の日。雪合戦のさなか、憧れの同級生ダルジュロスが投げた雪玉が命中し、ポールは怪我を負う。同じく旧友のジェラールは、ダルジュロスが故意に雪玉に石を入れたと主張するが、ポールはそれを否定。だが、その怪我が原因で、ポールは石に安静を厳命され、学校に通えなくなる。病気の母がいるにも関わらず、家に閉じこもったまま気ままに暮らす姉と弟。
やがて母が亡くなるとエリザベートはモデルとして働き始め、同僚のアガートを家に招くようになる。あろうことかアガートは、ダルジュロスに瓜二つだった。ポールの中で甦る憧憬と思慕。姉に本心を悟られまいと、ポールはわざとアガートを邪険に扱う。
エリザベートは若い大富豪と結婚をするが、その直後、夫となった富豪は事故で無くなり、エリザベートは莫大な遺産を相続。大きな邸宅の中に新たな子ども部屋をつくり、四人は奇妙な共同生活を始めるが・・・。
というお話です。
ジャン・コクトーの代表作と言われる「恐るべき子供たち」が白井さんの演出で上演されると聞き、凄く楽しみにしていました。そして、予想通り、素晴らしい舞台を観ることが出来て感動しています。
舞台が美しいんですよ。ただ、舞台に白い布が何枚か敷き詰められているだけなのに、その布の動きだけで、雪の庭を表し、煙った部屋を表し、狂った冷たい空間を表していく。それが、言葉で表せられないほど美しいんです。色々な演出家さんの舞台を観ると、それぞれに個性があるのですが、とにかく、白井さんの舞台は、シンプルで美しく、その中に空気が見えるという空間を創り上げていて、引き込まれるんです。彼の造る舞台は、全部観たいと思っているくらいです。
「恐るべき子供たち」というお話は、大人になりたくない子供が、本当に子供のままでいられる空間を作り上げてしまう、そこに誰も口出しが出来ないように大きな繭で包まってしまうという事なんです。
子供のまま何も心配をせずに、ずーっと何かに守られていられるなら、そんな幸せなことは無いと思います。自分だってそうなれたらって思うけど、成長すれば、生きるために働かなきゃいけないし、誰かに従わなければならなくなる。自分を守る為に戦う必要も出てくるし、沢山の制約も出てきてしまいます。
エリザベートとポールは、父親も無く母親も亡くなり、ここで身体の弱いポールの為にエリザベートはモデルとして働き始めるのですが、直ぐに大富豪の若者と結婚し、新婚生活もしない内に夫が死んでしまう。エリザベートは、恋も愛も良く解らない内に結婚し、これからという時に夫は亡くなり、子供のままなんです。そして、彼女が大切にしているポールも、外に出ず、子供の頃からの友達としか関わらず、やはり子供のままなんです。
普通なら、どこかで外の人間と関わらなくてはいけなくなり、自分の責任というものを背負わなければならなくなるのに、この二人だけは、運命がそれをさせないんです。二人だけは、全てから隔離されて、温かい子供部屋の中で生きているんです。憧れるけど、恐い話ですよね。
子供って、無垢で真っ白だからこそ貪欲で強情で、恐怖を知らないから何をしても良いと思っている。それは社会で生き始めた大人にとっては、凄く恐ろしいことなんです。恐ろしいと思っても、相手は子供だから手出しが出来ない。まるで悪魔の前で小さくなる子ネズミのようでしょ。そんな情景が、このお話を観ていると見えてくるんです。
この話を観ると、村上春樹の「1Q84」を思い出すんです。不思議な空間に入り込んで大人として生きているけど、繭=子供の頃の思いを思い出すという感じが、ちょっと遠いけど空気が似ている気がして、好きなんだよなぁ~。
エリザベートの南沢さんは今までも見たことがあるのですが、ポールの柾木さんは”インベスターZ”で見たことがあるくらいかな。ジェラールの松岡さんは、見たことが無かったけど、2.5次元などに出演されていた方のようですね。皆さん、若いのにとても上手いと思いました。あのコクトーが望んだ子供部屋が表現されていました。
コクトーが生きた19世紀末から20世紀にかけては、プルーストやココ・シャネル、モディリアーニ、サティ、ピカソ、マン・レイなどなど、沢山の芸術家が台頭した素晴らしい時代です。戦争の時代でもあるんですけどね。コクトーは、日本にも滞在して、画家の藤田と一緒に相撲や歌舞伎を楽しんだようですよ。
私は、この舞台、超!超!お薦めしたいと思います。でも、もう終わっちゃったかな。もし、映像で観る機会があったら、ぜひ観てみてください。
ぜひ、楽しんでくださいね。
「恐るべき子供たち」神奈川芸術劇場
https://www.kaat.jp/d/osorubeki
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