「唐版 風の又三郎」を観てきました。
ストーリーは、
死の花嫁を捜しにどこへ行く、オルフェ。
死の魔窟は・・・死の耳はどこにある。分かっているよ。僕たちは分かっているんだ。わざとこんな風な言いぶりで、何かを計っていることも。
さあ、行こう、代々木のテイタンへ。死んだ恋の人を尋ねて。
ここは、代々木月光町の帝国探偵社、テイタン前。強い風が吹いたある日、風の商人にいざなわれるようにこの町にやって来たのは、織部という一人の男。
その織部の前に北風とともに現れた少年は、織部にとっての「風の又三郎」だ。又三郎はその実、宇都宮から流れてきたエリカで、空に消えた恋人の面影をもとめてさまよっていた。
そんなエリカを執拗に追いまわる夜の男、女人近世のテイタンで「ベニスの商人」ごっこに興じる教授と三腐人たち・・・。
東京の下町で二人の男女が出会う。精神病院から逃げてきた青年「織部」と宇都宮から流れてきたホステスの「エリカ」。二人はこの物語の中では恋人同士ですらなく、ただ、『風の又三郎』のイメージを介して結びつくもろい関係。
汚濁した世間で生きていくことができずに病院に収容され、それでも、自分を連れ去る風の少年に憧れる織部は、その面影をエリカの中に見い出す。エリカは自衛隊の練習機を乗り逃げした恋人を探す道連れとして、この純真な青年を利用する。探し当てた恋人はすでにこの世の人ではなく・・・・。
ガラスのような精神を抱え、傷つきながらもひたすらに、自らの「風」である女を守ろうとする青年と、いまわしい血の記憶に翻弄される女との、恋よりも切ないものがたり。
というお話です。
このあらすじでは解り難いとは思いますが、唐さんの作品なので、こんな感じなんですよ。不思議な世界に迷い込んだような、そんな感覚のお話なんです。不思議な世界に迷い込んだと思っているけど、実は、その中には沢山の不条理な現実があり、そんな現実を観たくなかった青年・織部と、現実と闘いながら生きる風の又三郎に見間違えられた美しい女性・エリカ。
不思議な空間の中には、沢山の変な人が出てくるんですけど、変な人に見えているんだけど、ふと思うと、現実に良くいる人なんですよね。自分の思い込みだけで行動して他人を攻撃する人とか、自分の思いを受け入れてもらえないとストーカーみたいになる人とか、立ち止まって考えてみると、とても現実的なんです。
唐組の作品、面白いんですよねぇ。すっごく昔に新宿の暗くて狭い劇場で観て、それからもう20年以上経つのかしら。ここ何年かで、良く演劇を観るようになったので、唐さんの作品、唐ゼミの舞台など、時々、気になってみています。アングラというか、ちょっと変わった雰囲気は、唐さんからちゃんと受け継いで、ゼミの方たちが精力的に小劇場などで舞台をやっていらして嬉しいです。良いものは、誰かが受け継いでくれないと、悲しいですもんね。
話を戻して、宝塚のスターだった柚希さん、本当に美しいですね。物腰といい、声といい、歌といい、全てが完璧で、文句の付けようがなくて、観ていて幸せになりました。こんなに美しくて、完璧のような方っていらっしゃるんですね。私も彼女のようなエウリディケなら、地獄まで迎えに行きたくなるだろうと思います。
織部役の窪田さん、素敵でした。彼、好きなんですよ。グイグイ前に出てくるようなイケメンじゃないでしょ。ちょっと引いた感じがすごく好感が持てて、演技も確実でしょ。善にも悪にも振れるし、カッコいいヒーローから、”だめんず”まで、なんでも出来てしまう。素晴らしいです。今回も、精神病院から出てきた織部は、どこか宙を浮いているような感じで、自分のエウリディケならぬ”風の又三郎”を探しているんです。良かったなぁ。
私も、時々、狂ってしまえたらどんなに幸せだろうかと考えることがあります。現実は不条理なことばかりで、正しいことをしたくても、自分だけの事じゃないから汚いこともしなくちゃいけなくて、どんどん自分自身が汚れていくような気がして逃げたくなります。何とか精神的な折り合いをつけて我慢して過ごしていますが、壊れる前になんとかしなくちゃね。
この織部は一度壊れてしまったけど、それでも自分の又三郎を探して旅に出て、自分を広く自由な空に連れて行ってくれることを願っている。エリカは、そんな織部を利用して恋人探しをするんだけど、織部の無垢な心に触れて、段々と現実に立ち戻っていく=地獄から地上へと歩みを進めていく、ことになるんです。オルフェウスと一緒に、現実に戻って、前に進めるかと思うんだけど、そうは問屋が卸さないって感じ
エウリディケは地上に戻れない。
うーん、悲しいけど、解かるなぁ~って内容のお話で、心に刺さりました。私、唐さんの作品が好きなので、今回も良かったなぁ。感動でした。やっぱり、唐さんの作品、もっと観たいと思いました。私は、この舞台、超!お薦めしたいと思います。唐版なので、ちょっと好き嫌いがあるかも知れませんが、気になったら、ぜひ観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
唐版 風の又三郎
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