13作目
東京国際映画祭 コンペティション部門「FOUJITA」を観ました。
ストーリーは、
1920年代パリ、日本人画家・フジタ(オダギリジョー)が描く裸婦像は「乳白色の肌」と称賛され、彼は時の人となった。一躍エコール・ド・パリの人気者となったフジタは、雪のように白い肌を持つリシュー・バドゥー(アナ・ジラルド)と出会い、自らユキと名付け彼女と共に暮らし始める。やがて第2次世界大戦が始まり、フジタは日本に帰国し戦争画を描くようになるが……。
というお話です。

1920年代のパリでは、日本人画家・フジタの絵画が流行っており、フジタは、たくさんのギャラリーを周りに侍らせて、楽しい毎日を過ごしていました。フランス人の妻を貰い、彼女たちの絵を描いて、また人気者となり、順風満帆と言える時代でしたが、戦争の影が落ちてきて、フランスはドイツの手に落ち、フジタは、日本へと帰国を余儀なくされます。

有名画家たちは、陸軍に組み込まれ、軍に都合の良い絵画を描かされたりと、自由に描けない時期がきます。藤田はそんな中でも、日本絵画を終わらせる事無く、未来へと引き継いでいきます。東京から疎開をし、田舎で、戦争の気配を感じながらも、自分の世界を持ち続ける藤田の内なる世界を描き出します。後は、映画を観て下さいね。

これは、美しい映画でした。この映画は、内容を追って行くのではなく、その雰囲気や空気、”絵”を観る映画なのかも知れません。フジタの伝記映画ではあるのですが、監督がおっしゃるには、普通の伝記映画のように、ただ、彼の歴史をたどる映画は撮りたくなかったとおっしゃっていたので、このような、芸術的な作り方になったのかなと思いました。

観ていて、私は、フジタという画家の美術館に入り、過去の作品を一つづつ観て行き、彼が過ごした時代を味わいながら、彼の観ていたであろう風景を感じて行くという作品に思えました。だから、ストーリーとか、彼の感情とか、周りの人の気持ちとか、そういうものを感じるのではなく、彼が見ていたであろう風景を見て、自分が感じる事を思えば良いのではないかと思いました。

第二次世界大戦前、パリで名声を得て、幸せを謳歌していた時、パリは輝いていて、周りの人々も楽しそうで、太陽の光も明るく強いのですが、それが、どんどん暗くなって行き、戦争に突入し、日本へ帰ると、まるで日本画のような色彩、浅黄色、萌黄色など、日本独特のトーンの低い、ペール系の色使いに変わって行くんです。着物の色も、あれ、良い着物を使っているんだと思うのですが、渋くて美しい中間色が素晴らしかったです。

私は、パリに居た頃のフジタは、あまり魅力的に見えなかったのですが、日本に帰って来てから、人間に深みが出て来て居るように見えて、内に、色々な思いを秘めていたのだろうと感じました。口には出来ない時代でしたが、彼の中には、色々なものが煮えたぎっていたのではないかと思います。でも、もちろん、あの時代ですから、それを表に出す事はありませんし、軍に従っている日本を代表する画家として振る舞っていましたけどね。それでも、あの情熱的な絵を描いていた人が、何も感じなかったハズは無いんです。
彼の感情などは、ほとんど画面に現れる事はありませんが、画面に移り変わる風景や、不思議な幻想の世界が、フジタの内なる部分を表していたのではないかと思いました。日本の迷信などを使って、不安な時代を表していて、美しくて面白い表現だなと思いました。

私は、この映画、超!お薦めしたいと思います。但し、監督もおっしゃっていたのですが、フジタの感情を読み取り、ストーリーを追って行くという、通常の映画の観方をすると、全く、この映画の良さが解らないと思います。主人公に自分を重ねるなどの観方では無く、あくまで、観ている自分は傍観者となり、それこそ、美術館に入って、絵を一つ一つ観ている気持ちで観るのが良いと思います。私は、この映画は、自分の仕事場に、ずーっと流し続けて、ヒーリング映像として使うのも良いかもと思うほどでした。癒されます。他の作品とは、ちょっと一線を画していると思いました。ぜひ、観に行ってみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
東京国際映画祭 コンペティション部門「FOUJITA」
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=9
・FOUJITA@ぴあ映画生活