舞台「RED/レッド」を観てきました。
ストーリーは、
1958年のある日。20世紀を代表する表現主義派の画家として、名声を手中にしていたマーク・ロスコのアトリエに、1人の画家志望の青年が訪ねてくる。これから開店するニューヨークのフォーシーズンズレストランに巨大な壁画を描くという大きな仕事のオファーを受けたロスコが雇った助手のケンであった。
まずロスコがケンに要求したのは、毎日朝から晩まで、キャンバスを張り、下塗りをし、絵具を混ぜ、筆を洗い、買物をしに行ったりという作業ばかりであった。しかし、その作業を通じ、ロスコの妥協知らずの創作美学を容赦なく浴びせられ、追い詰められていくケンと、己の芸術的視点に迷い、社会の評価への怒りや疑問にいきり立つことで、創作エネルギーを書き立てていくロスコ。
2人は時に反発し、対立しながらも、いつの間にか絶妙のタイミングで作業が出来るようになって行く。
苦悩と葛藤の果てに、2人は、理想の<赤>を追い求められるのか。最後に2人が導かれるのは、崇高な芸術の高みか、それとも理想に裏切られた絶望の淵なのか。
というお話です。
この内容、息が詰まりました。これは、好きなものが”仕事=お金”になってしまった時、どこまで妥協出来るのかという事を言われているようで、マジで、心が痛くなりました。
ロスコは、絵を描くことが好きで、絵を描くことが自分の生き方だと思っていたような人だと思うんです。その絵が売れ始めてしまい、自分の絵が売れる事は嬉しいのだけれど、絵の良さを解って、側に置いてくれる人では無く、ただ、贅沢品またはブランド品のように思って、側に置いておくだけの人がほとんどになってしまった時、自分の分身である絵が、どんな思いをするんだろうかと考えてしまうと、もう、居ても立っても居られなくなるんです。
私も、色々な思いが詰まった建物を設計して、全てに理由があるにも関わらず、顧客の生活習慣に合わなかったり、予算に合わなかったりして、どんどん設計が変えられて行ってしまうと言う事がほとんどの毎日。もう、こんなもの、好きだったらやってられません。お金の為にやっているんだから、考えてはダメだと自分に言い聞かせて、ガマンして仕事を続けるんです。ここで、自分の心に嘘が付けないと、一度でも思ってしまったら、この仕事は出来なくなります。仕事が出来ないと言う事は、お金が入ってこなくなるので、生活が出来ず、死ぬしか無くなるでしょ。この連鎖なんです。
このロスコも、最初、ケンを助手として雇って、フォーシーズンズレストランに飾る絵を描くことを楽しみにしていて、それを誇らしく語っているのですが、ケンと話している内に、段々と、絵を納品する事がイヤになってしまいます。ケンは、まだ若くて、これからの画家です。ポロックが好きだとか、ウォーホルが好きだとか言っていて、きっと、これから新しい世界を創って行く画家たちの一人なのだと思います。
彼は、自分の理想を語り、まだ夢多き青年です。彼の言う事は、ロスコが、かつて先輩画家たちに感じていたことと同じであり、今度は、自分が言われる番なのかと自覚し始めます。昔は、ロスコも、シュールレアリスムのダリやミロに続けとばかりの絵を描いていたのですが、年と共に、抽象表現の強いものとなって行き、時代はシュールから、抽象、キュビズムなどに変わって行くのです。そして、古い画家たちは、持ち上げられなくなる。それが、今度は、自分に起こり始めていると言う事に気が付くんです。
その絶望たるや、凄いと思いました。自分が潰してきた先輩たちと同じように、自分も若い者たちに潰されて行くのだと自覚したんです。そして、何故、潰されてしまうのかと言うと、自分のやりたい事と、相手に望まれることのギャップを埋める事が出来ず、心が壊れて行ってしまうと言う事なんです。何も考えないで、好きなものを描いて、売って行く事が出来れば、壊れないのにね。
いつも画家相手に思う事なのですが、お金は欲しいけど、好きな絵が描きたいとかって、それ、無理だから。いつも言うけど、好きな事は仕事に出来ません。絵を描くことが好きなら、マネージャーを付けて、自分が好きに描いた絵を、マネージャーに売ってもらうこと。そして、誰に売ろうと、文句を言わない約束をする事。これが鉄則です。まぁ、これ、超難しい選択だと思うけど、仕方ないのよ。
そうそう、フォーシーズンズレストランが入るシーグラムビルは、ミース・ファン・デル・ローエ(建築家)の作品で、ミースと言えば、バウハウスですよね。バウハウスの校長を務めた人で、グロピウスやコルビジェといった建築家と一緒に活動をした人です。有名なのは、ファンズワース邸の設計かな。今までに無い、素晴らしい建築物と評された住宅です。そんなビルに飾られる予定だった絵は、素晴らしい絵でした。
黒い扉を閉めたら、ドアと枠の隙間から、赤い情熱と強い意志のようなものがあふれ出してきているという感じの絵でして、赤が自分の抑えきれない絵への執着、黒がそれを抑えようとする理性のように見えて、その絵を観ているだけでも、何か訴えてくる者がありました。私は、好きなタイプの絵です。
そんな画家と、これから上に登ってくる画家との対比が、とても面白い舞台でした。私が観に行った時は、俳優のでんでんさん、勝地涼さん、鈴木浩介さんが、私の前に座って、観られていました。勝地さん、頭がちっちゃいですねぇ。いや、お隣のでんでんさんの頭が大きかったのかしら。(笑)鈴木さんもステキでした。
私は、この舞台、超!超!お薦めです。これは、何かを作る仕事をしていて、好きなモノが仕事になってしまった人には、すっごく理解出来る内容だと思います。映画とか舞台、絵画や建築など、自分の作品は自分の一部だから、それを切り売りして行く過程で、どこまで妥協が出来るのかという究極の選択を描いています。まだ、この舞台、続きますので、チケットが手に入るようでしたら、ぜひ、観に行ってみて下さい。素晴らしいです。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
舞台「RED」 新国立劇場 http://www.siscompany.com/red/