「雪の轍」を観てきました。
ストーリーは、
世界遺産カッパドキアの「オセロ」というホテルのオーナーである元舞台役者のアイドゥン(ハルク・ビルギナー)は、若くてきれいな妻と、離婚して出戻ってきた妹と生活していた。思い通りに暮らす毎日を送っていたものの、冬が訪れ雪に覆い尽くされたホテルの中でそれぞれの内面があらわになっていき、互いに感情をぶつけ始める。さらに、アイドゥンへの家賃を払おうとしない聖職者一家との関係が悩みの種で……。
というお話です。
カッパドキアでホテルを営んでいるアイドゥン。彼は、元俳優であり、父親からの遺産として、このホテルを相続し、経営しています。若く美しい妻と、離婚して戻ってきた妹と共にホテルで暮らしていて、ホテル経営の傍ら、執筆をし、地元の新聞にコラムを出しています。時期を見て、舞台の歴史についての本を出版したいと思っていて、今は、コラムを書きながら、資料集めもしています。裕福で落ち着いた生活を送っているように見えるアイドゥンですが、彼にも色々な問題があります。
アイドゥンは、ホテル以外にも、父親から相続した借家があり、賃借人のイスマイルは、何か月も家賃を滞納しており、アイドゥンの弁護士は、家具などの内装を差押えてしまいます。それを恨んだイスマイルの息子のイリヤスは、アイドゥンの乗った車に石を投げて、窓ガラスを割ってしまいます。イリヤスを捕まえ、家まで送り届けたアイドゥンと使用人は、イスマイルから冷たい仕打ちを受けてしまいます。
関わりたくないと思ったアイドゥンは、後日、イスマイルの弟のハムディとイリヤスが謝りに来ても、もう関わりたくないと思い、適当にあしらって、家から帰してしまいます。アイドゥンは、裕福で穏やかな人間に見えて、自分より下の者を見下しているんです。父親からの遺産で物質的には裕福でも、妻との仲も冷えていて、妹とも折り合いが悪く、精神的には貧しく、飢えている状態なんです。
妻のニハルは、既に夫との生活に厭きていて、一緒に居るのもイヤそうなのに、離婚をすることはせずに、ホテルに留まり、慈善活動をしています。彼女は、自分で仕事をしてお金を稼ぐという事をしたことが無く、お金を稼ぐことの大変さなどは全く解っていません。お金は、湧いてくるもの位に思っているので、夫がお金の事でイスマイルと揉めているのを、汚い事のように思っています。自分は、夫とは違って、恵まれない人に施しをしている、素晴らしい人間なのだと思っているのですが、結局は、ニハルも貧しい人間を見下げているんです。
妹のネジラは、アルコール依存症の夫と離婚をし、実家であるホテルに出戻ってきたのですが、やる事も無く、ダラダラ過ごす毎日です。以前は、本の翻訳などをしていたのですが、今は、何もやる気が無くなり、元夫との酷い生活でさえ懐かしいと思ってしまう始末。DVなどがある酷い夫だったのだが、夫を許してあげていれば、夫は改心して良い人間になったはずだと思っていて、それは違うと言っても聞く耳を持たない。そして、そのイライラを、アイドゥンにぶつけて、言い合いになり、傷つけあってしまう。
冬のカッパドキアは、どんよりした天気で、彼らの心と同じように晴れる事は無い。3人共に、自分の過ちに気が付かず、今の状況に甘んじていて、そこから一歩踏み出そうとはしないんです。アイドゥンは、このままでは良く無いと思い、一人、イスタンブールに旅立つことにし、ニハルに出て行きたければ止めないと言い、雪の中を旅立って行く。しかし・・・。後は、映画を観て下さいね。
これ、一言では表せないほど、深い映画でした。難しいんではないんですよ。すっごく解る~って思うんですけど、その感情を、上手く文字で表現が出来ないんです。誰もが、裕福であるが故に、気が付かない事を、描いているんです。自分が、今、幸せだという事を解っていないんだよって言われているようで、とても考えてしまいました。
慈善活動って、言葉は良いけど、結局は、自分が気持ち良くなる為にやっている訳でしょ。貧しい人に施しをして、私は良い人間だと思いたいからやっているんですよね。自分の分を分けてあげているのではなく、自分の首が痛まない分だけめぐんであげているんです。それでもお金はお金だからと言うと思うんですけど、でも、お金を稼ぐ大変さを知っていてこそ、同じ1000円でも重さは違うと思うんですけどね。答えは出ない問題なんですが、何か、とても感じるものがありました。
妹のネジラなんですが、出戻りして、何もしないで当り散らしているというようにしか見えません。恥ずかしながら、私も、離婚して実家に帰った時期、ほんの少しですが、こんな風だったのかなと思い出します。自分の何が悪かったのか考え、何もやる気が起きず、周りの人間にイライラしてしまう、本当に精神的に参っているとこうなると思います。何もかも、自分もイヤになってしまうんです。だから、映画の中でも、アイドゥンがネジラの部屋に謝りに来ても出てこないのですが、これ、アイドゥンに怒っているのではなく、酷い事を言った自分を恥じていたんじゃないかな。人を傷つけた後、自己嫌悪に陥っているんだと思います。私はそうでしたから。

アイドゥンは、家族がバラバラなのを良く無いと思っていても、それをどう修繕して行ったら良いのか解りません。悩んで、何が悪いのかを模索します。そして、裕福である事が幸せなのでは無く、幸せは心が裕福になることなのだと気が付いたのではないかなーと、最後、思いました。それを、家族に伝えられるかどうかは、その先の事なんですけどね。
私は、この映画、3時間以上あるのですが、全く眠くならず、のめり込んで観てしまいました。いやぁ、良かったなぁ。私は、この映画、超!超!お薦めしたいです。でも、映画に楽しさを望む人には、ちょっと辛いかな。楽しい映画では無いんです。でも、それぞれの人物の精神描写が素晴らしくて、感動するんです。単館系の映画が好きな方や、精神論などを語る方は、ぜひ観るべきだと思いました。そして、映像が美しいです。カッバドキアの自然の美しさが描かれています。
そうそう、日本人が、ホテルに泊まる観光客として出演しています。この映画の中で、ただ一つ楽しいですよ。あー、良い映画だったので、また長くなっちゃった。ゴメンナサイ。ぜひ、観に行ってみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
・雪の轍(わだち)@ぴあ映画生活
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