舞台「地獄のオルフェウス」を観てきました。
ストーリーは、
アメリカ南部。ありふれた町の洋品雑貨店。ガンに冒され、医師にも見放された店主ジェイブが二階に伏している。しかし、妻のレイディの関心は夫にではなく店の改装計画にあるらしい。そんなある日、蛇革のジャケットを着てギターを持った奇妙な青年が現れた。名はヴァル。彼のどこか野性味や純粋さを感じさせる人柄に魅かれ、レイディは彼を雇い入れる。 父の死後、金で買われるようにジェイブの妻となり、この異郷の地で苦汁をなめてきたレイディにとって、ヴァルは希望の光であった。しかし町には保守的で排他的な空気が澱み、タブーを犯した者には厳しい制裁が待ち受けている。
レイディは夫に内緒でヴァルを店の小部屋に住まわせ、2人は渾身の力で愛を確かめ合うのだった。
保安官に町からの退去を命じられたヴァルは、レイディに別れ話を持ちかける。彼の裏切りに逆上するレイディ。だが自分がヴァルの子を宿したと知ると意気高らかに宣言する「たたかいに勝ったのよ、実を結んだのよ!」。そしてその直後、喜色に満ちたレイディの顔面が急に青ざめていく。二人の前に、ピストルを持ったジェイブが立ちはだかっていた。
というお話です。
オルフェウスのお話を知っていますか?ギリシャ神話で、吟遊詩人のオルフェウスが、自分の妻が死んでしまい、彼女を返して欲しいと地獄へ行き、ハデスに訴えると、その願いが聞き届けられて、妻を連れ帰れる事になるのですが、条件が一つ。地上に向かう道で、地上に上がるまで、決して後ろを振り返らない事というのです。不安を抱きながらも、振り返らずに地上近くまで行くのですが、心配のあまり、オルフェウスは振り返ってしまい、妻は帰る事が出来無くなるというお話です。
この時代は、リンカーンが奴隷解放宣言をして、黒人が自由になったのを受けて、他の移民を労働者として雇わなくてはならず、イタリアなどの貧困な人々が、新天地を求めてアメリカに渡り、仕事に就いていたようなんです。そんな時代に、黒人の自由が許せない人々が、KKK(クークラックスクラン)なる秘密組織を作り、黒人を襲撃したり、黒人に味方する白人を、痛めつけたり、殺したりしていました。
このお話に出てくるジェイブとレディも、そんな情勢の中で、狩った方と狩られた方という立場ながら、レディは、生きる為にジェイブに買われて、結婚したんです。だから、若い男が近づいてくれば、気持ちが惹かれてしまうのは当たり前ですよね。オバサンと若者だから、ちょっとキツい気はするけど、まぁ、舞台の中の設定は、それほど年齢が離れている訳じゃなかったのだと思います。大竹さんと春馬くんじゃ、30歳以上の離れがあると思うけどね。
ヴァルは、流れてきて、そろそろ30歳になるし、落ち着いた生活を送りたいと思って、この地にやってきたようなのですが、その歌声と容姿で、どうしても注目の的になってしまんです。イケメンのサガよねぇ。でね、オバサンたちにちやほやされ、男たちに虐められて、段々と、結構、ヤバい状況になって行きます。
そして、このヴァルの女版とも言うべき人物がキャロルかな。裕福な家に生まれ、何不自由ない生活を送ってきて、社会の間違いに気が付き、奴隷解放や救済などを訴えていたんだけど、この閉鎖的な町では誰も相手にせず、キチガイと思われて、追放されたのですが、自分の生家がある町に戻って来てしまうんです。そして、ヴァルを見つけて、危険だから逃げなさいと忠告するんです。彼女は、この町の生まれだったから、追放で済んだけど、そうでなければ、どうなるか分からないと解っていたんです。気の狂った態度をしながら、本当は、この町の本質を見抜いている、頭の良い女性なんです。
キャロルの声に耳を傾けながらも、レディに惹かれている自分も居て、どうしても、直ぐに町を出て行く事が出来ないヴァル。今度こそと、レディに別れを告げて、出て行こうとするのですが、レディは、ヴァルを引き止めてしまう。この町の恐ろしさを知っていながら、自分の欲望の為に、ヴァルを手放す事が出来なかったんです。それが、悲劇を生んでしまう。
もちろん、好きな男を手放したくないと思うのは当たり前だったのかも知れないけど、状況判断が出来ていたら、やっぱり、町の外に逃がすか、どこかに匿うか、どうかすべきだったと思うんです。年下の男に狂ったオバサンは、目が見えなくなっちゃうんですかね。本当に好きな人ならば、その人が助かる方法を見つけるというのが、一番の愛だと思うんだけど、自分が一番のオバサンには、無理だったのかなぁ。ヤダヤダ、そんなオバサンにはならないぞー!と思う私でした。
私は、この舞台、お勧めしても良いと思います。やっぱり、春馬くんが弾き語りをしてくれたりして、とっても魅力的な若者を演じているので、良いと思います。周りは、もう、大御所ばかりで、特に大竹さんは、独特な濃さを持っているので、飲み込まれないように頑張っているのかなって見えました。もし、お時間があって、チケットが手に入りそうでしたら、観てみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「地獄のオルフェウス」 シアターコクーン
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/15_orpheus.html
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