舞台「ブエノスアイレス午前零時」を観てきました。
ストーリーは、
故郷にUターンし、ダンスホールを擁するホテルで働くカザマ(森田剛)は、ある日、ホテルで受け入れた社交ダンスツアーの客である一人の老嬢と出会う。 盲目の上、他の客からも疎まれる老嬢だが、カザマは何故か目が離せない。 彼女が口走るとりとめのない身の上話や、アルゼンチンの物語に嘘か本当かわらないまま、次第に引き込まれていく──。
というお話です。
温泉街という、純日本的な部分から、アルゼンチンのブエノスアイレスにどうやって飛んでいくんだろうと思っていたのですが、それが、上手く融合しているんです。ええっと思うほど、二つの場所が、何の違和感も無く、繋がってしまう。温泉の湯気が、ブエノスアイレスの港に漂う霧と重なり、その港で起こったかも知れない出来事が、カザマの頭の中で動き始めるんです。
私、原作を読んでから行ったので、それが、どう膨らんでくるかと思って楽しみにしていました。ちゃんと、カザマの頭の中で、マリア=ミツコの世界が、どんどん膨らんで、まるで、1つの世界が2重写しになっているように、観ているこちらに見えてくる。カザマとニコラスの生き方も重なり、ミツコとマリアの生き方も重なってくるんです。そこには、年齢なんて関係無く、ただ、時間の流れの中を漂う2人の姿がそこにあるだけ。ステキな雰囲気なんですよ。
温泉街のホテルで、雑用をしているカザマ。彼は、都会で大手広告代理店でバリバリ働いていたのですが、一つのミスで、納得出来ない状況になり、逃げるように会社を辞めて、この温泉街に帰ってきたんです。この温泉街の近くに、実家の豆腐屋があり、その近くに帰ってきたんです。
ある日の朝早く、朝食用の温泉卵を用意している所に、白い杖をついた老婆が通りかかり、温泉卵の匂いを懐かしそうに嗅いで、カザマをニコラスという男性と間違えて呼びます。不思議に思い、彼女を見ると、とても上品そうで美しい老女でした。話を聞いてみると、少しボケてきている女性で、ヘルパーさんを伴って、ダンスツアーに参加しているとのこと。
ダンス倶楽部の人々は、ミツコは、昔、横浜のパンパン(娼婦)だったらしいという噂話をしていました。しかし、カザマがミツコから聞く話は、彼女は、昔、アルゼンチンのブエノスアイレスに居て、娼婦をさせられていた。そこで、ニコラスという男性と出会い、恋に落ちて・・・という話。

ミツコの語る話は、本当なのか、彼女の空想なのか、事実は解らないが、ミツコが語るブエノスアイレスの話に、どんどん飲み込まれ、ニコラスという男性に自分が重なって行ってしまうカザマ。ニコラスは、ミツコを助ける事が出来るのか。それとも、破滅に向かうのか。現実と空想の世界が交わり、逃げていた自分を見つけるカザマ。現代の自分に戻ったカザマは、何を語るのか。
原作と、ちょっと変わっているのですが、カザマとミツコの関係は、ほとんど一緒かな。小説では、ミツコの話が、もっとあやふやで、ブエノスアイレスに居たと言う事とか、ニコラスという男性が居たと言う事は、彼女の空想だろうなぁと思える内容なんです。
何故なら、ダンス倶楽部に同級生が居たという話とか、小説では、妹が付いて来ているのですが、その話とか、戦後か戦中に生まれただろうミツコが、子供の頃から船で移動して娼婦をしていたという話は、あり得ないんです。そして、その時代にブエノスアイレスに居たとすると、今、日本に居て、夫に先立たれて、妹と一緒に平穏に暮らしているというのも、辻褄が合わなくなってくるので、記憶の混同があるのだろうと推測出来るんです。でも、そんな事はどーでも良い事。ブエノスアイレスで暮らしていたミツコ=マリアという娼婦は、ニコラスという男性と恋に落ちて、その愛の為に生きてきたということで、良いんです。
行定監督が演出をしています。
もちろん、カザマも、そんな事は良く分かっています。でも、ミツコと一緒に、空想の世界を彷徨い、その哀しい愛を体験して、閉ざしていた自分の心を、解放して行くんです。そして、ミツコも、愛を貫き、その愛の為に生きてきたという自分を誇らしく思う事が出来て、救われて行くんです。この話は、再生のお話。若者と老女だけど、その空想世界では、同じ時代、同じ境遇であり、年齢など関係無く、愛を確かめ合えたんです。
私は、すっごく感動でした。良いお話だし、良い舞台だし、森田くんと原田さんは、年齢など関係無く、とてもエロティックに燃え上がる2人を演じられていました。若い頃のマリアの役は、瀧本さんが演じていて、その3人の絡みは、素晴らしいと思いました。そして、3人を囲む、橋本さんや千葉さん、他の方が、ガッチリ固めていて、舞台がブレず、安心して、その不思議な世界を、一緒に泳ぐことが出来ました。
私は、この舞台、すっごくお勧めなんですが、チケット、まだ、あるのかな?私が観た日も満員だったので、もしかして、チケットが無いかも知れませんが、もし、手に入れる事が出来たら、ぜひ、観に行ってみて下さい。これは、観る価値があると思います。舞台が、とても美しいです。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
P.S : あまりに良かったので、またも、長い感想になってしまった。ゴメンナサイ。
ブエノスアイレス午前零時 パルコ劇場
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