舞台「背信」を観てきました。葛河思潮社の第四回公演です。
ストーリーは、
画廊を営むエマ、出版社を経営するロバート、作家エージェントのジェリー。”逆行”していく時間の中で、不確かな現実が浮き彫りになって行く。エマとロバートは夫婦であり、子供は2人。ジェリーも医者をしている妻が居て、子供も2人居る。ジェリーは、ロバートの親友であり、その信頼は厚いんです。
ある日、エマとジェリーが、久しぶりにパブで会うところから始まります。2人は、過去に浮気を重ねていて、現在は、その付き合いは終わっています。エマは、久しぶりに
会ったジェリーに、ロバートと別れるつもりだと言う事を話し、ジェリーと浮気をしていた事をロバートに話したと告白します。親友に浮気を知られてしまった事にうろたえるジェリーなのですが・・・。そこから、舞台は、どんどん、過去の出来事にさかのぼって、描かれて行きます。
というお話です。
このお話、ハロルド・ピンターというノーベル文学賞を受けた作家の代表作です。最初に結果があり、後から、その経過が描かれて行くというお話で、観ていると、不倫していたんだぁ~と思ってから、何故、その不倫に至ったのかとか、だから別れたんだぁ~とかが解って来るんです。結果が解っていながら、その解説が後から来ると、人間が、自分に都合が良いように思い違いをしたり、組み立てたりしていると言う事が解り、とっても面白いんですよ。

人間って、悪い事をしていながらも、自分は良い人間だと思われたいし、愛する友達は裏切っていないと思いたいし、愛する女性に嘘はつきたくないと思っている。だから、頭の中で、自分で上手く組み立てて、記憶をごまかしてしまうと言う事が出てきてしまうんです。それは、自分でも無意識のうちに、やらかしてしまう。そんな事が描かれていて、面白いなぁと思いました。
解っていても、解らない振り、知っていても知らない振り、そんな事を、本能的にしてしまう。自分を傷つけない為に、見なかった振りをしてしまう。それは、私たちも、普段、きっとやっている事だと思うんです。でも、現実は、そこにある訳だし、事実は曲がらない。だからこそ、傷ついていない振りをしていても、本当は傷ついているんです。その、心の中のチリチリしたモノが、この舞台の上で描かれていて、本当に面白いと思いました。

松雪さん演じるエマは、、愛する事に素直であり、奔放で、とっても美しくて可愛い女性なんです。誰からも愛されるキャラクターなんだろうけど、女から見ると、ズルい女なんですよね。誰に対しても、可愛いと思われようとして、真顔で、平気で嘘をつける女なんです。ハマったら恐ろしい女だと思いました。きっと、ジェリーは、それが本能的に解っていて、どこかで自分の心をセーブしていたのではないかと思います。
それに、ジェリーは、エマを愛していながらも、親友のロバートも友人として愛していて、ロバートからエマを奪うというような事は出来なかったのではないかな。愛する女性と親友と、どちらかを選べと言われたら、それは、究極の選択ですよね。それは、選べないよなぁ。どちらも愛しているんですもん。でも、私が男なら、きっと、親友を選ぶだろうな。だって、女は女。自分とは相容れない人種ですもん。ま、私は、女だから、ちょっと嫉妬心が湧いてくるけど、でも、きっと、男なら、そうだろうと思いました。でも、最近は男性が女性化しているから、そんな男の心も変わってきているかもね。(笑)

そんな2人の男性と1人の女性の心理戦が、緻密に描かれていて、とっても楽しめました。浮気を知られていないと思っているジェリーのアホさかげんと、ロバートの知っていて知らない振りをしてジェリーと楽しむ苦しい姿と、ジェリーとロバートの間を行き来してどちらにも良い顔をするエマと、どの人物を取っても、それぞれの中に、自分を重ねる事が出来て、何とも、心の中がチリチリ痛んで、耳からノイズが入って来て、やるせない気持ちにさせられました。

この舞台、私は、超お勧めだと思いました。若い頃は、この心の動きに共感出来ない事もあるだろうけど、ある程度、経験を積んだ人ならば、どの人物の姿も理解出来て、とても楽しめると思います。人生には、色々な事があり、いつも良い人で居る事など出来ないんです。それでも、人は生きて行かなければならず、そこに、人間というものの姿が現れてくる。本当に、人間って面白い。そんな思いが浮かんでくる舞台でした。この舞台、これから全国を周って行くので、もし、機会があったら、観てみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「背信」葛河思潮社 http://www.kuzukawa-shichosha.jp/haishin/#hs-introduction
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