舞台「海辺のカフカ」を観てきました。有名な村上春樹さんの小説です。随分前に読んだのですが、村上さんの小説は、いつも、1度読んだだけでは理解が出来ず、何度も、反芻するように読むというのが基本でして、読む度に、新しい解釈を考えついて、何度も楽しめるというものなんです。
ストーリーは、
主人公の「僕」は、自分の分身ともいえるカラスに導かれて「世界で最もタフな15歳になる」ことを決意し、15歳の誕生日に父親と共に過ごした家を出る。そして四国で身を寄せた甲村図書館で、司書を務める大島や、幼い頃に自分を置いて家を出た母と思われる女性(佐伯)に巡り会い、父親にかけられた〝呪い〟に向き合うことになる。一方、東京に住む、猫と会話のできる不思議な老人ナカタさんは、近所の迷い猫の捜索を引き受けたことがきっかけで、星野が運転する長距離トラックに乗って四国に向かうことになる。 それぞれの物語は、いつしか次第にシンクロし…。
というお話です。

村上さんの原作が難解なので、舞台化するのがたいへんだろうなぁと思っていましたが、あの村上ワールドが、美しく再現されていました。まるで、舞台にルービックキューブが展開するようなんです。クリスタルのキューブが並べられていて、話が動く度にキューブも動いて行き、最後に、同色が揃って、ルービックキューブが完成するというように、お話も完成して行くんです。本当に美しい舞台でした。
我が家には、こんなルービックキューブがあって、一度バラバラにすると、直すのが大変です。
この舞台の感想、書きにくいなぁ~。内容について書いて行ってしまうと、原作の感想になってしまうので、そうならないようにするには、どうしたら良いのかしら。とりあえず、原作と舞台で、ちょっと違った部分は、父親の呪いの言葉が最初に出てこなかったかな。まぁ、その言葉が最初に出てしまうと、オイディプス王の一部がベースになっている事が解ってしまい、先が読めてしまうから、出なかったのかしら。小説では、一番最初の方に出てくるんだけどね。だからこそ、カフカが家を出なければならなくなるんだけど。
その呪いの言葉とは、オイディプス王の話と同じで、「お前は私(父親)を殺し、母親と交わり、姉とも交わる事になるだろう。」というんです。15歳になる前の男の子に、そんな言葉を浴びせたら、おかしくなりますよね。映画「ヴィオレッタ」と同じで、まるで自分が汚いものになったような気がして、生きていてはいけないのではないかと思ってしまう。これは、精神的な虐待です。酷い父親だよ。
カフカは、その呪いの言葉を成就させない為に、父親の元を離れ、誰も知らない場所へと旅立つんです。そして、高松の図書館で、母親と思えるような女性と出会い、姉と思えるような女性と出会うんです。でも、ここで、一言。原作を読んでいない人は、この佐伯さんとさくらさんが本当の母と姉では無いと言う事に気が付いただろうか。

このお話は、演じられている通りに理解してしまうと、ちょっと違う話に行き着いてしまうんです。この世界は、カフカの想像が先行していて、実は、本当にあった事と、無かった事がごっちゃになっていると思った方が良いんです。佐伯さんは、そんな思春期のカフカの思いを汲んで、彼の母親を演じてくれたのだと思います。だから、君の母親だとは一言も言わないんです。
思春期の青年には、現実には見えないものが見えたり、あり得ないものが出てきたり、不思議な空間が出来ていたり、そういうものなんです。でも、全てが幻ではないんですよ。ちゃんと、現実に生きているし、現実の空間も見えているんですけど、空想の世界が大きいんです。それが、このカフカの中には描かれているのだと思いました。

そう思うと、もっと考えると、もしかしたら、実は、カラスと呼ばれる男の中の空想の物語であるのかもしれないとも取れてしまう。カラスと呼ばれる男が現実に居て、自分が15歳の少年だった時を思い、想像して、空想しているのかもしれない。自分が父親に精神的虐待を受け、母親とも姉とも会えず、父親を殺す事も無く、母親と出会う事も無く、年を取ってしまい、自分も父親になり、息子を持って、その息子の姿を見ながら、自分の少年時代を空想しているのかも知れない。そうなると、元に戻って、父親の話なのかも知れない。こうなってくると、もう、メビウスの輪になり、何処まで行っても、終わらない話になってしまいますね。
村上ワールドは、何処までも続く、まるで、三面鏡台の中に続く、長い永遠の扉のように、面白いんです。それが舞台化されたので、その雰囲気が舞台に描かれていて、自分も迷路に迷い込んだような、そんな気持ちになるんです。ステキでしたよぉ。もう、自分の世界に入ってしまい、舞台と自分、まるで、自分だけの為に舞台が動いているような感覚に入ってしまう。村上ワールドが、蜷川さんにより、三次元化され、一人一人を、鏡の国に招待してくれるんです。
何処までも、色々な解釈が出来る話を、何処までも、色々な空間で表現している舞台は、観る人観る人、それぞれの舞台になると思います。こんな面白い空間を魅せてくださって、とても嬉しかったです。特に、佐伯さんを演じる宮沢さん。佐伯という役にピッタリですね。現実に存在しているのか、別空間に住んでいる住民がカフカの前に出てきたのか、曖昧な住民としての影の薄さを、完璧に表現されているので、その美しさに溜息が出るほどなんです。捕まえたと思うと、そこに居ないような、そんな霞のような雰囲気が、彼女の周りに溢れているんです。ピッタリでした。新人の古畑さんも、純粋そうで良かったですよ。15歳という年齢を良く描けていたと思います。
私は、この舞台、超、超、お勧めです。こんなに不思議で、美しくて、素晴らしい空間を観てしまうと、現実に引き戻されるのが苦痛になってしまいます。出来れば、また観たい舞台です。今まで見た舞台の中で、美しい舞台のトップ3に入ると思います。とても気に入りました。まだ、上演しているので、ぜひ、機会があったら、観てみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
P.S : 本当は、もっともっと書きたいくらいですが、既に、長くなってしまいました。ゴメンナサイ。
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