「オンリー・ゴッド」を観てきました。昨日の記事”アウトロー”は、レフン監督が製作した作品ですが、この”オンリー・ゴッド”は、自分で監督もした作品です。
ストーリーは、
ビリー(トム・バーク)とジュリアン(ライアン・ゴズリング)兄弟は故郷アメリカから逃げ、タイのバンコクでボクシングジムを経営しながら、その裏でドラッグビジネスに手を染めていた。ある日、兄ビリーが若い娼婦(しょうふ)をなぶり殺しにした末、彼女の父親に殺害される。犯罪組織を仕切る兄弟の母親(クリスティン・スコット・トーマス)がアメリカから急行し……。
というお話です。
レフン監督の「ドライヴ」がとても評価が高いのですが、私は、あまり良い作品とは思えなかったんです。でも、今回の「オンリー・ゴッド」は、それぞれの人間の立場が正しく描かれていて、とても人間的な作品だと思いました。社会的な人間としての判断をするのか、それとも自分の信じるものを正しいと信じて進んでいくのか、どちらも、とても人間的なんです。ドライヴでも、男性の心情を繊細に描いていましたが、今回は、主人公のジュリアンだけでは無く、周りの人間も、詳細に描いていました。
ジュリアンは、一緒に仕事をしていた兄ビリーが殺され、母親がアメリカから飛んできて、復讐するんだと言われ、とても困っちゃいます。だって、ビリーが殺されたのは、どう見てもビリーが悪かったからとしか思えないし、殺されても仕方のないような酷い事をしたからなのですが、そんな事はお構いなし。確かに、私が母親だったら、自分の息子がどんなに悪い事をしても息子を愛するだろうし、気持ちは解るんだけど、でも、この場合、冷静に事件を理解する事も必要ですよね。
敵の元警察官チャンは、見た目は極悪警官なんだけど、良く考えてみると、日本で言う”大岡越前”なんですよ。法律では、そうなっているのかも知れないけど、その通りに裁いたのでは筋が通らないと言うものに関して、大岡裁きならぬ、チャンさん裁きをするんです。ちょっとやり過ぎかなと思う事もあるけど、でも、公平では無く、公正という観点では、一番正しい道を選んでいるんです。
兄を殺され、復讐をしろとは言われているけど、正しい目を持つジュリアンは、復讐が間違っている事に気が付いています。でも、息子にとって、母親は神と同じ。自分を産んでくれた、作ってくれた人です。その母親がやれと言った事に、逆らえないジュリアンは、自分の心に反して、復讐をしようと動き始めます。その心の葛藤が、とても悲しくて、かわいそうで、観ている私も、心を締め付けられました。母親を憎みながらも、どうしても逆らえない息子。その女の腹から産まれ出た自分を嫌悪し、それでも母親を愛している自分がいて、何が正しくて、何が間違っているのかの判断が付きにくくなって行きます。
ジュリアンが最後にどういう選択をするのか、楽しみにしてくださいね。これは、人間として、一番妥当な解決方法だったと、私は思います。家族を殺されれば、そりゃ、憎しみが湧いてきて、復讐しようと思うのは当たり前です。でも、もし、殺されても仕方のないような罪を犯していたなら、そこで、冷静に考えるべきです。母親なら、自分が息子を殺してでも詫びなければならないような事もあるんです。子供を愛しているなら、息子をそんな風に育ててしまった自分が責任を取るべきでしょう。息子を殺して罪から解放し、自分が罪を背負うべきなのに、人を逆恨みするのは間違っています。それを、もう一人の息子にまで、罪を背負わせようとする母親なんて、鬼畜以外の何ものでもありません。
映像が、とても印象的で美しいです。タイが舞台ということで、オリエンタルで、荒廃したような雰囲気が、とても良いと思いました。光の使い方がステキなんですよね。その世界の冷たさを感じさせたり、ジュリアンの弱さや、母親の恐さを表現したりするのに、光と色がとても上手く使われているんです。そして、重要な部分で、上手くシンメトリーを使っていて、強さや恐ろしさが表現されていました。凄かったです。
これ、残酷な場面も多いので、好き嫌いがあるとは思いますが、私は、お勧めしたい作品です。”アウトロー”より、”ドライヴ”より、好きですね。女と男の脳の違いも解るし、公平と公正の違いも解るし、人間の愚かさも判ります。最後に一言言っておきますが、母親って、こういうものです。正しい判断では無いけど、息子を愛すれば愛するほど、母親とは本当に残酷な生き物です。男には理解出来ない生き物なので、無駄な努力をしないように。(笑)この映画、ぜひ観て下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
・オンリー・ゴッド@ぴあ映画生活
- ドライヴ [DVD]/バップ
- ¥3,990
- Amazon.co.jp
- ドライヴ〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕/早川書房
- ¥672
- Amazon.co.jp