【演劇】「ロスト・イン・ヨンカーズ」家族だからこそ言えない事もあり、許せることもある。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
スミマセンが、ペタの受付を一時中断しています。ごめんなさい。

舞台「ロスト・イン・ヨンカーズ」を観てきました。神奈川芸術劇場だったので、近くて楽でした。


ストーリーは、

1942年、第二次世界大戦中のニューヨーク州ヨンカーズを舞台に、厳格で人を寄せ付けず、そして決して笑わない母ミセス・カーニッツ。少しおつむが足りないながらも、ひとりの女性として幸せをつかみたいと願うヒロイン・ベラ。妻に先立たれ借金まみれになってしまい、愛する息子二人を母に預け、借金返済のために出稼ぎ中の長男エディ、地元のギャングから身を隠すために家に舞い戻ったベラの兄弟ルイ。「結婚」によって母の呪縛から解き放たれたが、幼少時代に母に植えつけられたトラウマのせいで、喋っているうちに過呼吸になってしまうガート。彼女に育てられた4人の兄弟たちが不器用なりに一生懸命生きる姿を、父エディの帰りを祖母ミセス・カーニッツのもとで待ち続ける二人の少年(ジェイとアーティ)の目を通して描かれる「家族の物語」

というお話です。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ヨンカーズ

ジェイとアーティーは、父親が借金返済の為に出稼ぎに行く事になり、祖母の家に預けられる事になります。祖母のミセス・カーニッツは、ユダヤ人だった為にドイツで酷い目に遭い、アメリカに逃れてきた一人で、その時の事が頭にあるので、決して笑わず、子供たちを強く育てる事に情熱をかけているように見えました。そんな厳格な母親の為に、その息子娘たちは、どこか、精神的に不安定というか、オドオドしている部分があり、ちょっと可哀想な感じなんです。


母親のそんな性格が、子供たち全てに影響を与えてしまっていると言う事は、家族誰もが解っているのだけれど、どうしても、それを口に出来ないんです。口に出してしまったら、母親を傷つけてしまうし、母親が苦労をして自分たちを育ててくれたのを知っているから、どうしても話せないんです。そして、母親のミセス・カーニッツも、自分が子供たちに辛い思いをさせていると言う事は解っているんだけど、昔からの積み重ねもあるし、今更、優しい言葉をかけて、家族で笑い合うことが出来ないんです。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ヨンカーズ

家族って、とても強い絆で繋がっているんだけど、どーも、長く一緒に居るからなのか、付き合い方を変える事が出来ないんですよね。母親とも、たとえば、一度、しこりが出来てしまうと、いつもはそれを考えないようにしているんだけど、何があると思い出して、一歩引いてしまったり、家族だから遠慮なんてする必要は無いと思っていても、遠慮してしまったりするんですよね。近くに居ればいるほど、結構、難しいです。

そんな家族の難しさを、とても良く描いていて、笑える部分もあり、心にグッと迫ってくる場面もあり、私は、やっぱり、家族って良いなって、最後は思いました。親から見れば、自分の子供たちは、いつまでも子供のように思っているし、子供は、親が年を取って弱って行くのを見ている訳で、どちらも、優しければ優しいほど、相手を思えば思うほど、キツイ現実を言いにくくなるんですよ。誰かが言わなくちゃいけない事なんだけど、家族が言わなくちゃいけない事なんだけど、言いにくいんですよね。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ヨンカーズ

でも、自分も親も、時間が経つにつれ変わって行くものだし、その現実を、受け容れて行かなければならないんです。辛くても、先に進みたくなくても、変化から逃れる事は出来ない。そして、誰もが、新しい道を歩いていく。ミセス・カーニッツも、ベラも、ルイも、それぞれに新しい生活を作り、それを見届けるように、ジェイとアーティーは、父親のエディと共に、その家を後にします。


何ともステキなお話でした。なんたって、ミセス・カーニッツの草笛さん、やっぱり、素晴らしいです。本当に、カーニッツなの。厳格で恐くて、杖で威嚇する姿は、ユダヤ人で苦労したという過去を思わせるようで、草笛さんが、その舞台に入ってくるだけで、空気が凍り付くような雰囲気が漂って、素晴らしいと思いました。本当に、すごい方なんだなぁ。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ヨンカーズ

そして、中谷さん、「猟銃」の時とは違い、ちょっと頭が弱いけど、女であるベラを、身体全体で表現していて、そのアンバランスさが、とても良いと思いました。ベラという役は、頭が弱いと思われているけど、すごく彼女なりに考えていて、気を使っている人物なんですよ。だから、観ていて、とってもかわいそうで辛そうに見える部分があるんです。楽しそうにしている裏に、悲しみを抱いているようで、誰か助けてあげてって思ってしまう。

松岡さんの演じるルイは、適当に自分勝手に生きているようで、結構、家族思いで、優しい人なんです。でも、強くなれと母親に教え込まれて、強くならなければといつも心の中に思っている。彼も、ちょっと無理しているんだろうなって思える役でした。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ヨンカーズ

ジェイとアーティーは、そんな家族を子供の素直な目線で観ているので、大人の面倒な建て前とか遠慮とか、そういうのが、全部見えてしまっているんだろうなって思えました。でも、この2人が緩和剤になっているからこそ、この話は、うまくまとまって、整理がつくのだろうと思います。

小林さんのエディや長野さんのガートは、もう、安心して観ていられて、激しい動きをするベラやルイを、ガッチリつかんでいるので、ガチャガチャせずに、流れが美しく穏やかになって、良かったです。

三谷さん演出の舞台はいくつか観ているのですが、ニール・サイモン作品を三谷さんの演出でというのは、ちょっと面白いなって思って観に行ったんです。面白くて、楽しくて、ジーンと来て、家族の大切さを実感させると言うか、家族って難しいけど素晴らしいと思えて、本当に観て良かったです。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ヨンカーズ

これ、神奈川芸術劇場が最後だったんですね。残念です。でも、ステキな舞台でした。
三谷さんの作品、今度は、「国民の映画」の再演なので、楽しんでくださいね。私は、前回の公演の時に観たんです。

ぜひ、楽しんでくださいね。カメ




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