東京フィルメックスで、「THE MISSING PICTURE」を観ました。
ストーリーは、
1970年代後半、ポル・ポト政権下のカンボジアでは音楽や映画が禁止され、多くの映像が廃棄処分となったという。『THE MISSING PICTURE』は、その時代に少年期を過ごし、両親を始め多くの親族を失ったリティ・パニュが自らの体験を語りつつ、失われた映像を取り戻そうとした試みとも言える作品である。この試みのため、丹念に彩色された土人形をジオラマ風に配置し、当時の庶民の生活が再現される。それはある時は華やかな街頭の風景であり、ある時は陰惨な収容所である。更にパニュは、当時の政治的プロパガンダ映像を導入し、それを人形たちの映像と巧みに構成する。
という作品です。
ポル・ポトによる恐怖政治の中、なんとか生き延びて、映画監督となったレティ・パニュ監督。家族も全て亡くして、苦しみの中、良い映画を何本も作ってこられたのですが、今作は、ご自分の体験を描いています。クメールルージュの時代は、フィルムを全て廃棄されてしまったようで、映像が残ってないので、仕方なく、土人形で表現して行こうということになったのですが、やってみたら、これが、凄く良くて、どんどん、欲が出て、凝りだしたそうです。
確かに、この映画、凄いです。人形なのに、人の気持ちが乗り移っているように見えて、怖くなるようでした。人形で表現しているけど、内容的には、ほとんどドキュメンタリーで、ショックでした。この時代、すごい大量虐殺があった事は知っていましたが、実の子供が親を裏切らなければ生きていけないような、こんな事が日常だったなんて、驚きました。政府に反逆しなければ、普通に生活が出来たのかと思っていました。驚くほど過酷で、残虐で、そんな中で生き残るのは、本当に運が良かったのでしょう。
この映画、凄いとしか、感想の書きようが無いんです。映像的には、人形を使っての表現だし、その映像に、こんな事がありましたというナレーションが流れ、観ている方は、そんな時代だったのだと理解し、どんどん、その雰囲気に引き込まれて行きます。こうやって書くと、ふぅ~んって感じだけど、その内容が、心にグサッと刺さってくるんです。同じ人間なのに、どうして、こんな事になってしまったのか。何が、国をこんな風に変えてしまったのか。その、理由が知りたいと思いました。
本当に、何故、カンボジアは、こんな事になったのでしょう。ただ、独裁者が居たからというだけとは思えないんです。あまりにも酷くて、いくら教育が無いからと言って、人間がこれほどに残酷になり、それが、末端まで浸透してしまうと言う事に、驚きと憤りを覚えました。誰もが、カリカリしたような乾いた気持ちになり、余裕が無かったんですね。人間の住んでいる場所とは思えないです。信じられませんでした。
そんな現実を、淡々と語ってくれる、この映画は、すごいと思いました。でも、その凄さは、言葉では伝えられません。土人形と、語り、そして、時々差し込まれる、モノクロのプロパガンダ映像。その全てが、観ている者に、衝撃を与え、ストレスを与えてきます。その凄さは、観て貰わないと解りません。
この作品、日本公開してくれるのか解りませんが、もし、公開されたら、ぜひ、観てみて下さい。特に、映画関係の方や、映画を勉強している方、アニメーション制作の方など、人形を使っての映像でここまで出来るのだと言う事が解ると思います。変にドキュメンタリーにしてしまうより、訴えることが明確で、力強く伝わって来たと思います。ぜひ、観て欲しい作品です。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
東京フィルメックス 「THE MISSING PICTURE」 http://filmex.net/2013/ss02.html