「少年H」戦争の悲劇を誇張するのではなく、普通の家族がどう考えどう過ごしたのかを描く。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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「少年H」を観てきました。


ストーリーは、

昭和初期の神戸。洋服仕立て職人の父・盛夫(水谷豊)とキリスト教徒の母・敏子(伊藤蘭)の間に生まれた肇(吉岡竜輝)は、胸にイニシャル「H」が入ったセーターを着ていることからエッチというあだ名が付いていた。好奇心旺盛で曲がったことが嫌いな肇だったが、オペラ音楽について指南してくれた近所の青年が特別高等警察に逮捕されるなど、第2次世界大戦の開戦を機にその生活は暗い影を帯びていく。やがて、彼は盛夫に対するスパイ容疑、学校で行われる軍事教練、妹の疎開といった出来事に直面し……。

というお話です。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-少年H

なんだか、今までの戦争映画とは違い、すごい悲しいとか、可哀想とか、悲劇を描いている訳ではなく、普通の家族が戦争中にどのような生活をしていたのか。どんな心理状態になっていたのかということを描いていて、とてもリアルだと思いました。きっと、この映画で描かれていることが、本当なんだろうなって思います。

戦争が始まり、最初は、普通の生活を続けていることが出来ているのですが、段々と、戦況が変わっていくにつれ、その生活にも、制約を受けるようになり、色々な噂など、人の心も荒んでいきます。表だって、どうなるという訳では無いのですが、外国人からの仕事を受けていたというだけで、スパイ呼ばわりされたりと、誰もが、不安と恐怖で、ちょっとおかしくなって行くのです。小さな出来事ですが、その街で、今までずっと一緒に頑張ってきた人々が、段々と、バラバラになり、壊れていく様が、繊細に描かれていて、上手いなぁと思いました。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-少年H

Hの父親の盛夫は、洋服の仕立屋で、神戸に住んでいる外国人からの依頼をたくさん受けていました。腕の良い職人だったので、喜ばれていたようです。驚いたのは、戦争でポーランドから逃げてきたユダヤ人が、一度、神戸に避難し、そこからアフリカに向かい、イスラエルの地へ移動するという話が出てきます。ユダヤ人を匿いたいけど、ドイツと条約を結んでいる為、大っぴらに助ける事は出来なかったようなんです。私、この話を、この映画で初めて知りました。杉原千畝さんの助けた人たちなのかしら。逃げてこれて、本当に良かった。そして、盛夫は、そのユダヤ人たちの洋服を直してあげて、送り出すんです。すごい話ですよね。感動してしまいました。国は戦争をしていても、人々は、心で繋がっているんです。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-少年H

どんどん戦況は苦しくなり、盛夫は仕立屋をのんびりやっている訳にいかなくなり、消防団員として働き始めます。男は、表に立って、国を守っているような体裁を作らなければ、何となく暮らしにくくなっていたのでしょう。家の中でミシンを踏んでいるようでは、あまり良く思われなかったのでしょうね。Hも、中学に入り、軍事教練ばかりやらされ、納得のいかない日々が続きます。日本は負けると解っていても、それを口に出せない、そのもどかしさは、中学生には辛かったと思います。子供でも解ることを、どうして大人は、早く受け入れなかったのかな。もっと早く戦争を止めていれば、原爆だってなかったはずなのにね。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-少年H

そして、戦争が終わり、敗戦国としての生活が訪れます。貧困な中、戦争に負けて、これからどうやって生活していったら良いのかと茫然とする父親の盛夫。きっと、多くの日本人が、この虚無感を感じたのでしょうね。今まで必死でやっていたことが、何の意味も無くなるのですから、当たり前だと思います。でも、日本人はたくましく未来に向かい始めます。彼らが頑張ってくれたおかげで、今の日本があるのだと思いました。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-少年H

自分たちも貧しくてお腹が空いているのに、ご飯を周りに分け与える母親の敏子。Hは、すごく怒るのですが、分け与える気持ちも解るし、怒るHの気持ちも解るし、辛い場面でした。こういう母親だったからこそ、Hは素晴らしい人間に成長したのだろうと思いますが、やっぱり、その場に自分が立ったら、分け与える母親に怒ったかも知れません。心の中の潤いというのは、いつの時代も、自分から心に働きかけない限り生まれないんです。苦しくても、心の潤いを持たなくちゃと自分で自分に言い聞かせなければね。

本当に、細かく見ていると、どの場面も、思うことが出てきてしまって、感想が書ききれません。普通に生きていた人がほとんどだったのだから、彼らの姿は、私たちの祖父母や曽祖父母の姿と重なると思います。彼らが、あの時代に、心まですべてを枯らせてしまわないで居てくれたからこそ、今の私たちがあるんです。本当に、ありがたいことだと思いました。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-少年H

私は、この映画、とってもお勧めしたい映画です。でも、若い人に、この良さが解って貰えるかなぁ。戦争時代の絵巻のようなお話ですので、派手な戦争や、アクションなどは全くありません。観た後に、ゆっくり思い起こして、ジーンと感動する映画なので、そういうものとして観に行ってくださいね。
ぜひ、楽しんできてください。カメ




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