「はじまりのみち」の試写会に連れて行ってもらいました。
ストーリーは、
戦時中、監督作『陸軍』が戦意高揚映画でないと軍部からマークされてしまった木下恵介(加瀬亮)は、次回作の製作が中止となってしまう。そんな状況にうんざりした彼は松竹に辞表を出し、脳溢血で倒れた母たま(田中裕子)が治療を行っている浜松へと向かう。戦況はますます悪化し山間地へと疎開すると決めた恵介は、体の不自由な母をリヤカーに乗せ17時間に及ぶ山越えをする。
というお話です。
私、木下監督の映画を観た事が無いので、入門として、この映画を観てみました。木下監督という方は、昔の男性特有の、あまり言葉に出さないけど、時々見せる仕草や態度で、そのやさしさがにじみ出るというような方なのだなって感じました。人の心を描くことを大切に考えて、嘘を描くことを良しとせず、自分の意に添わないものは、作ることが出来ないというような監督だったようです。
この映画は、木下監督が、戦争の影響で、人間の情などを映画で描くことが出来なくなり、映画を捨てて、母親と疎開した時の事を描いたものです。この戦争時代の酷さを、一言で表しているのが、「自分の息子に立派に死んで来いなんて言う母親はいない!」というセリフです。当たり前ですよね。息子に死んで欲しいなんて思う親、いる訳無いんです。でも、この時代は、そう言わざるを得なかったんだろうと思うと、本当に酷い時代だったんだと解ります。

そんな時代に、軍の言うがままに映画を撮らなければならないということに耐えられず、松竹に辞表を出して、母親と疎開することになるのです。木下監督の母親は、脳溢血で倒れ、ほとんど寝たきりになっていて、ゆれるバスで運ぶのは難しいと感じた彼は、リヤカーで母親を運ぶことにします。
長い道のりを、兄と一緒に、リヤカーで母親を運ぶ恵介なのですが、とてもガンコで、人の話を聞きません。便利屋さんを頼んで、荷物を運んでもらっているのですが、調子の良い便利屋に気分を害し、キツイ事を言い、最初は、犬猿の仲なんです。でも、旅をしている内に、段々と、本当は良いヤツなんだってことが解ってきて、打ち解けていきます。この便利屋さん、濱田くんがやっているのですが、これが、とっても上手いんですよ。彼がいるお陰で、恵介と兄の過酷な旅も、ちょっと和やかに見えてくるんです。
とにかく、恵介の母親に対する愛情が、とても深いんです。その愛が、とてもよく描かれていて、やっぱりお母さんって大切だよなぁって、観ているこちらも、親孝行しなくちゃって思いました。山道を歩いてきて、汚れてしまったお母さんの顔を、まず最初に、キレイに拭く場面があるんです。自分たちのことは、どうでも良くて、まず、お母さんをキレイにしてあげなくてはという気持ちが、そこに描かれていて、もう、どうしようもなく、愛しい母親と息子という絵がそこにありました。よくマザコンとか言うけど、そんな低いレベルの事じゃないんです。自分の母親なんだから、大切にするんだっていう気持ちは、マザコンなんて言葉では表せない、深い愛情なんですよね。
そんな恵介だからこそ、周りのみんなも、やりたい事を続けた方が良いと後押ししてくれるんでしょう。そして、それまでに作った彼の作品が、彼を映画の世界に引き戻すきっかけとなるのです。人間の本当の愛情を描いて来たからこそ、戦争によって左右されることなく、戦争で渇いてしまった日本人の心を、また、潤す為の映画を作ることが出来たのだと思いました。
木下監督の作品がいくつも映画の中で流れて、モノクロの物からフルカラーになった映画まで、こんなに面白そうな作品がたくさんあるんだなって、初めて知りました。私の時代は、子供の頃から、既に、スターウォーズのような作品が上映されていたので、木下監督の作品は、とても斬新に感じて、レトロというより、新しいジャンルのような気がしました。とっても観てみたくなったので、レンタルしてみようかと思います。今だと、安く売っているDVDであるかも知れないな。本当は、大画面でちょっと観てみたいなって思うんですけどね。
この映画、親子の愛情をとても良く描いているので、たくさんの人に観て欲しいな。そして、出来たら、親孝行して欲しいって言うか、きっと、この映画を観た後には、親に優しくしてあげたくなると思いますよ。どんなに頑張っても、自分より、親の方が寿命が短いんだから、大切にしないとね。古い映画も、たくさん体験出来るので、映画好きな方は、古い映画も観てみようかなって思うと思います。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
P.S : 原監督の初実写作品ですが、とってもやわらかい作品に出来上がっていて、あのアニメの時の優しさが、ちゃんと実写に引き継がれています。原監督にお会いしたら、ちょっと見た目がカッパさんみたいで、”カッパのクー”を思い出しました。キュウリをあげたくなっちゃいました。(笑)ステキな方でしたよ。これからも、実写映画、創って欲しいな。
ごめんなさい。すごく良い作品だったので、感想が長くなりました。スミマセン。
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