東京フィルメックスにて、「ピエタ」を観ました。キム・ギドク監督作品です。この作品は、ヴェネチア映画祭で韓国映画史上初めて金獅子賞を受賞した作品で、来年の春に公開予定だそうです。
ストーリーは、
債務者に保険をかけ、重傷を負わせてその保険金で支払わせるという異常な方法で借金を取り立てる男。親兄弟もなく孤独に生きる男の前に、一人の中年女性が現れ、つきまとい始める。女は、その男を幼い頃に捨てた母親だと名乗る。最初は疑念をもっていた男は、次第にその女を母親として受け入れるようになる。やがて男は今の仕事を辞めようと決意するが、その時、その女が何者かに誘拐される。男は自分に恨みを持つ者たちを次々とあたり、ついに女の居場所を見つけるが、そこで男は知らなければよかった事実に直面する...。
というお話です。
キム・ギドク監督作品っぽい、とっても後味の悪い作品です。(笑)心にグサッと突き刺さって、そのままグリグリされているような、そんな辛さが残りました。いやぁ、心の健康に悪いよぉ。でも、超面白いんですよ。考えさせられる内容で、後から後から、頭の中で考えがグルグルしちゃうんです。
借金を身体で払わせる男なんですが、これ、昔の日本にもありましたよね。今、日本でこれやると犯罪で捕まるから、知らないところで行なわれているのかしら。酷い話なんだけど、ハッキリ言って、借金するのも悪いよね。普通は、担保になるものがあって、やっと借金出来るのに、担保になるものも無いのにお金を借りようとするから、身体で返さなきゃいけなくなるんでしょ。責任無さ過ぎるよ。
お金を貸す方になれば、何かで返して貰うのは当たり前の事。それを、いかにも被害者のような言い方をする債務者にムカついたなぁ。返せないなら借りるなよ。でも、利子が10倍になるというのは、あまりにも極悪ですよね。せめて、法定金利(これ日本だけの制度なのかな?)に合致させて、それも返せないなら、最終的に身体で払ってもらうというのも解るけど、10倍じゃねぇ。そりゃ、復讐されるわな。
この主人公の借金取り(名前忘れちゃった。)は、過去は一切描かれないんだけど、いきなり現れた女性が母親だって言って、それを信じてしまうほどだから、本当に悲惨な生い立ちだったんだろうと想像出来ます。普通なら、”オマエを捨てた母親だよ。”って言われても、信じないでしょ。それを信じてしまうほど、愛に餓えていて、孤独だったんだと思います。
ネタバレ出来ないので、母親の事などは、詳しく書けないんですけど、ハッキリ言って、この母親、とっても怪しいんですよ。きっと、誰が見ても、最初は、ウソだろ~って思うだろうけど、段々と、一緒に生活していく内に、主人公の男と一緒で、段々と、母親に見えてきてしまうんです。不思議ですよねぇ。そこに愛は無いと思うんだけど、何故か、あるのかもしれないと思ってしまう、そこが、キム・ギドク監督のマジックなんでしょうね。すごいです。
母親が本物なのか、偽物なのか。そして、借金取りに復讐しようとする、身障者になってしまった債務者は誰なのか。母親を拉致して脅してくる人間は誰なのか。謎が謎を呼び、愛を知ってしまった極悪借金取りの男は、どうなってしまうのか。面白そうでしょ。マジで、すごい展開になります。
母親の愛は永遠に続くもので、たとえ別れていても、絶える事は無いんです。愛する息子を殺された母親が何をするのか。そして、愛する息子を守ろうとする母親は、その身を犠牲にしてでも、息子の為になる事をするんです。それは、人間の罪を背負って磔になったイエスを抱きしめるマリアの姿と重なります。神の子であるイエスでも、マリアにとっては愛する自分の息子なんです。
お金によって、命を落としていく人間達。それは、資本主義という世の中で、格差が広がり、弱肉強食という姿がとても強く出てしまっている状況です。大きな会社ばかり儲けて、中小企業は、その圧力に負けて潰れて行く。だって、原価300円の物を200円でしか買い取ってくれなければ潰れますよね。
この状況が続けば、大企業も、自分の首を締め上げる事になるんです。下請けが無くなってしまえば、結局、叩く場所が無くなり、自分の首が絞まってしまう事に気がつかない。目先の利益のみしか考えないバカな経営者たち。今の日本が、この状況ですね。もし、韓国が、今、中小企業が潰れ行く途中ならば、今の内に考え直して、大企業は下請けの会社を大切に扱っていく事をお薦めします。潰れてしまってからでは遅いんです。
キム・ギドク監督の新作、本当に、すごい衝撃作です。ぜひ、公開されたら、観てください。お薦めいたします。但し、結構、キツい内容なので、惨酷なものとかがダメな方には、ちょっとお薦め出来ないかな。グロでは無いんですけど、観ていて、辛くなるので、慣れている方にお薦めします。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
【東京フィルメックス】「ピエタ」 http://filmex.net/2012/ss09.html