【演劇】「浮標(ブイ)」生命とは生きるとは死とは、人間から切り離せない宿命を描く。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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今日は、「浮標(ブイ)」をいう演劇を観てきました。


ストーリーは、

軍靴の足音が次第に高まるなか、洋画家・久我五郎は、千葉の郊外にある海辺の借家で、肺を患う重病の妻・美緒の看病に明け暮れている。美緒の回復を信じながらも、その病状は悪化の一途をたどるばかり。さらに、美緒に財産の譲渡を迫る家族、五郎を組織の政治に利用しようとする画壇、経済的不安などといった逆境にさらされ、次第に追いつめられていく五郎。戦地へ赴く親友との再会に五郎の心は一時和らぐものの、その矢先に美緒の容態は急変する――。

というお話です。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ブイ


長塚さん率いる”葛河思潮社”の第二回公演として、上演されています。この作品は、劇作家:三好十郎の作品であり、上演時間が4時間もあるので、今まで、あまり上演されていないようです。


画家の五郎は、妻の病気(結核)、友人の出兵、と、命に関わる出来事にいくつもぶつかり、その上、お金に窮しているのに、絵描きの仕事も上手く行かなくなり、八方塞りの状態なんです。それでも、妻の病気を直すために献身的に尽くして尽くして、苦しみます。


すごい感動なんですが、それをどう説明してよいのか、どう表現して良いのか解りません。でも、五郎の命の叫びは、観ているこちらの心に突き刺さりました。人間とは、死に向かって生きているのに、何故、死に抗おうとしてしまうのか、何故、死を簡単に受け入れることが出来ないのか。


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五郎は、病床の妻に、「生きることが大切なのだ、死んでも神など居ないし、どこか幸せなところなどに行けるわけが無い。」と、必死で話し、彼女が逝ってしまうのを止めようとします。でも、他の場面では、友人に対して、「妻は、生きることに貪欲で、周りの人間からすべてを奪い取り栄養としている。悪魔のようだ。」と話します。確かに、大切な人が病気になったら看病したいけど、でも疲れてしまう。病人は弱くて助けてあげたいけど、同時に元気な人間の栄養を奪っていく、この相対する二つのセリフが、とても頭に残りました。


若い夫婦でも高齢でも、看病の負担というのは、大変なものだと思います。愛する妻が病気になれば、看病をしたいし一緒についていたいけど、仕事は出来なくなりお金は無くなるし、いつも心配で眠ることも出来ない。だから、病人より看護人の方が倒れてしまうことになりかねない。病人は、休んでくれとか、寝て下さいと口では言っても、どうしても、看護人に迷惑をかけてしまう。迷惑をかけるから死んでしまう方が良いと思っても、看護をしてくれている夫は、生きろと言う。もう、堂々巡りなんですよね。


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天使のような顔で見返す妻が愛おしくて、彼女が居なくなったら自分も生きて行けないと思っている夫なんですが、そのハードな看病に疲れてしまい、心のどこかで妻を殺してしまいたいほど憎んでしまう。そんな自分に耐えられなくて苦しみながら、それでも妻を献身的に看病するという、もう、人間の極限まで行ってますよね。本当に、観ていて苦しくなりました。


思い出しながら書いていても、五郎の心の底から湧き上がる生命の咆哮が聞こえるようです。本当に、”いのち”って、何なんでしょうね。大切だって言われても、地球よりいのちの方が重いと言われても、たくさんの命が今も消えている訳でしょ。簡単にいじめで友達を追い込んで自殺させたり、自分の子供を餓死させたり、無差別に殺したり、そんな人間がたくさん出てきている現代に、五郎の咆哮を聞かせてやりたいと思いました。


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愛する人が増えれば増えるほど、いのちの別れも増えて、苦しむ量も増えていく。でも、一人では生きて行けないし、これも、堂々巡りですね。人間って、本当に面倒な生き物です。面倒臭いけど、人間って愛おしいって思えるような、そんな気持ちになる舞台でした。震災でたくさんの方が愛する人を失って、五郎と同じように、叫んだ方も多かったと思います。でも、新しい一歩を踏み出して欲しい。


浮標は、作者の三好に起きた事を描いているそうですが、この2年後に、再婚されています。彼も、自分の新しい道を見つけ、歩き出したのだと思います。辛い別れもあり、新しい出会いもある。未来には、新しい道がたくさんあるので、一歩踏み出しましょう。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ブイ


五郎役は田中哲司さん。彼の演技は、本当に深いところまでググッと入ってきますね。以前の舞台でも、上手いなぁって感動しましたが、今回も、あまりの深さに、何度か涙が出ました。泣けます・・・。妻の美緒には松雪泰子さん。はかなげで美しくて、優しい、役にピッタリでした。この二人の夫婦愛には、何度も泣かされました。小母さん役は佐藤直子さん。とても重要な役で、オバさんなのに、あまりにも美しくて、そんなきれいな人にオバさんなんて言っていいのっ?って思ってしまいました。他にも、平岳大さん、他、たくさんの素晴らしい俳優さんが出ていらっしゃいます。演出の長塚さんも、医者役で出ていますよ。そうそう、長塚さんが演技をしてらした時、”あれ?聞いたことあるな。”って変な感覚になったのですが、お父さんの長塚京三さんにセリフ回しがそっくりの場所があったの。ビックリしてしまいました。別に、それぞれ役者なんだから関係ないんだけど、なんとなく似ちゃうのかな~なんて思って、嬉しくなりました。そういうのって、ステキだって思うんですけど。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-ブイ

あまりにも、すごい舞台で、感動してしまって、長々書いてしまいました。御免なさい。

東京の後、大阪、仙台、新潟と公演するそうなので、もし、お時間があったら、ぜひ観てみて下さい。見ごたえのある、素晴らしい舞台です。”いのち”について、今一度、考えてみて下さい。カメ



「浮標(ブイ)」       http://kuzukawa-shichosha.jp/



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