東京国際映画祭、特別招待作品「セイジ-陸の魚-」を観ました。
ストーリーは、
いまから20年前、大学最後の夏休みに自転車で一人旅をしていた“僕”は、いまはもう寂れてしまった国道沿いにある一軒のドライブイン「HOUSE475」で、不器用だが、ただ純粋に生きる男・セイジに出会った。「生きるって何だ」、「人生っていったい何だ」。そんなことを考えながらも気の置けない仲間たちと楽しく過ごしていたある日、町で凄惨な事件が起きる…。
というお話です。
すごく深い内容の映画で、一言では表現出来ないです。ネタバレも出来ないから、この感想、上手く伝えられるかな。私は、原作を読んでいないので、原作との比較は出来ませんが、とにかく、心にググッと刺さってくる作品でした。
不思議な男、セイジは、裕木さん演じる店のオーナーに、”陸の魚”と言われるような、現実とはかけ離れたような男。彼の過去には、壮絶な人生があるのですが、それは映画を観てくださいね。その店に流れ着くまで、どれほど苦しんできたのか解りませんが、その店に落ち着いたときには、顔には微笑みが浮かばず、ただ生きて、時間を過ごしているだけというような状態に見えました。
それにしても、”陸の魚”って、人間の事だよね。古代、魚に足が生えて陸に上がって、人間まで進化したんだからさ。エラが消えてよかったねぇ。じゃないと、首のとこに、ビラビラしてて、キモイもんねぇ。(笑)
その「HOUSE475」という店があるのは、田舎町。その町の若者の集う、唯一の飲み屋みたいで、誰もが、そこでうだうだしているんです。雰囲気がとても良くて、まるでみんなで一緒に、穴の中で冬眠をしているみたいなんだけど、でも、誰もが、そのままではいけないって思っているんです。大人にならないとと思っているんです。そんな若者を遠目で見ているセイジ。彼の考えは、映画が進むにつれ、段々少しづつ解ってきます。
彼は、苦しんでいるものを見過ごせないんです。森の動物たち、自然、そして人間、すべてに対して内包する悲しみを抱いているんです。野生動物が交通事故に合うのは人間が開発したから、自然が枯れていくのは人間が公害を出すから、地球にとって、人間はウィルスと同じで、人間が増殖して地球を壊している。でも、自分が何をしても地球を救うことは出来ない。どうしようもない悲しみを抱いたまま、生きているセイジ。
そして、自分の周りにいる人間が、ある事件で傷つけられた時、彼は、その身を持って、助けようとします。セイジにとっては、助けられるのなら、自分など、どうでも良いんです。全力で助けたい!そういう叫びが聞えてきました。
私も、このセイジの気持ち、結構、解る方だと思います。動物でも植物でも、無機質な建物でも、なんとなく、その身になって考えてみると、それぞれに思うところがあり、主張があるんですよね。こちらが正しければあちらが間違っていて、あちらが正しければこちらが間違っている。どうしようもない、矛盾だらけの世界で、セイジは、生きるのがとても辛いのだと思いました。そんな辛さが観ている方にも伝わってきました。
伊勢谷監督なので、映像が美しいです。山の緑と埃にまみれた人間社会、煙る山と橋、美しい海、たくさんのコントラストと、明と暗。シンメトリーと黄金比など、映像の色々な所に、面白いバランスが施してあって、面白いと思いました。やっぱり、芸術家肌の方は違いますね。面白いです。
私、こういう人間の悲しみというか、生きていることの悲しみを感じながらも、生きる事を大切に思う映画って、好きなんです。命は大切だけど、人間の命だけではなく、周りにもたくさんの命があるのだと、いつも感じていたいです。この映画、私は、とってもお奨めしたい映画です。アクションやサスペンスのような、ガチャガチャする映画も楽しいですが、静かに色々な事を考える作品も素晴らしいです。心がろ過されて、少し、澄んだ心に近づけたような気がしました。来年の2月に公開です。公開楽しみですね。
P.S なんだか、感動して、感想も長くなってしまいました。ごめんね。
セイジ 陸の魚 - goo 映画
第24回東京国際映画祭 http://2011.tiff-jp.net/ja/