『亡き王女のためのパヴァーヌ』パク・ミンギュ 吉原育子訳
新しい韓国の文学12 クオン社 2015年初版
ハイジさんとのコメントのやり取りに刺激され、矢も楯もたまらず、昨日図書館へ走りました。
読みながら、私は樋口一葉の文を思い浮かべていました。
[この小説は句読点もあり、文章は短いながら、カギ括弧が無く、会話と地の文の区別がつかないうえに主語がいつの間にか変わるので、読みにくさを感じる読者もいるかもしれませんが、読み進むうちに著者のリズムと視点にのって全体が俯瞰できるようになってきます](⇦一葉さん風に文章を長くしてみました)
まず聴こえてくる「オールド・ラング・サイン(蛍の光)」にはじまり、小説ぜんたいに通奏低音のように音楽が流れています。原作の巧さ、それにもまして滑らかな日本語で読めるのは、優れた翻訳家のお陰です。近ごろ続けて読んだ中国・韓国小説の読みやすさは、文化的にもポップカルチャーをはじめ親しみを感じる背景があるとはいえ、やはり、翻訳家の力によるものでしょう。(残雪『突囲表演』を読んでいる最中の夫も、しきりと翻訳の巧さを口にしています)
目次
「ラス・メニ―ナス」
小説のタイトルとこの章のタイトルのつながりが自然に浮かび上がる。
詩を書いていたという著者独特の文体のむこうで静かに流れる曲が実に
しっくりきます。
「ムービースター」
「僕」の越しかた、母と父、ある家族の肖像。ひとり暮らしはじまる。
「僕が、初めてあなたの顔を見たとき」
小説家になりたくて数編書いてみる「僕」、アルバイト先の人間関係。
「ケンタッキーチキン」
このタイトルを見たとき、フライドが抜けてるじゃないか!と思いまし
たが・・・・。
「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」
「僕」にとってのルーシー、「彼女」との距離と敬語、クラブ結成。
ヨハンと「僕」の共通性とへだたり。
「冬、木にかかったオレンジの太陽」
映画、デート、だんだんわかってくる「彼女」の過去とくらし。
*1895年10月8日に起きた乙未(いつび)事変。
閔妃(李氏朝鮮第26代高宗の正妃、明成皇后)の暗殺現場、景福宮に
ある乾清宮が出てきます。この時はまだ日本支配の名残である旧朝鮮総督
府の建物が残され、今ほど整備されていなかったもよう。
「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」
誕生日プレゼント、特別なクリスマス、遊園地。
「彼女」の隠されていた気持ち。シューベルトの「鱒」。
1980年代のうぶで覚束ない恋の行方、昨日読んだのはここまで、続きはまた。
あれこれ聴いてみたけど、この小説を読むのにいちばんピンときたのは
務川慧悟さんの演奏でした 2022年
ラヴェルがインスパイアされた、ベラスケス描く
マルガリータ・テレサ・デ・エスパーニャ(結婚のためのポートレート集)