大阪あそ歩 2023秋

 まだまだ暑さが厳しいものの、そろそろ夕方には虫の声が聞こえる季節になってきました。今年は新選組結成160年ということで、京都の新選組史跡が特別公開されています。何かと話題の徳川家康関連の史跡も含めて、ご一緒にまち歩きをしましょう。参加ご希望の方は、どうぞ大阪あそ歩のホームページをご覧ください。

 

「大阪あそ歩」をクリック   お問い合わせはinfo@osaka-asobo.jp 

 

*集合時間は全て、13時です。 

 

コース名と

地区

行    程

実施日

参加費

花街文化と

新選組後半

期の事件簿

(京都市)

集合(JR 丹波口駅改札)

朱雀大路跡~角屋前~輪違屋(入場)~島原大門

~西本願寺北集会所跡・太鼓堂~天満屋事件跡~

本光寺(伊東供養碑)~油小路の変跡~

不動堂旅宿跡~京都駅

9/24(日)

1500円

(入場料800円

別途)

新選組結成

160周年 

壬生界隈

(京都市)

集合(阪急 大宮駅東改札)

光縁寺(新選組墓地拝観)~旧前川邸東蔵(入場)

~新徳寺(拝観)~壬生寺・壬生塚(土方胸像見学)

~大宮駅

9/29(金)

1500円

(拝観・入場料

2000円別途)

黄金の日々 堺

(堺市)

集合(阪堺電気軌道 妙国寺前駅東側歩道)

ザビエル公園~妙國寺(拝観・本能寺の変時、家康

旅宿)~宝珠院(堺事件 土佐藩士墓地)

~堺奉行所跡~(堺東駅)-〈バス〉

-仁徳天皇陵古墳~堺市立博物館(入館)

~JR百舌鳥駅

10/15(日)

1500円

(拝観・入場料

600円、バス代

別途)

京都の家康の

足跡と

平安京跡

(京都市)

集合(京都市営地下鉄 二条城前駅改札)

二条城前~越前藩邸・橋本左内寓居跡~京都所司代

屋敷跡~豊臣期家康屋敷跡~聚楽第跡~平安京

内裏跡~平安京太極殿跡~二条城前駅

11/23(祝)

1500円

 

 

「まちの人文庫」 小説から専門書まで

 

 前回からの続きです。最近の幕末本を読んでいないなぁと、反省。図書館での展示は終わりましたが、結構、たくさんの方が掲示場にあった本を読んでくださったとのことです。ありがたいことです。

 

 

「壬生義士伝」(浅田次郎作 文芸春秋刊)

 新選組に早くから、岩手南部藩出身の吉村貫一郎という隊士は存在していました。ただ、吉村は入隊時に25歳だったという記録があり、本作のように、子供たちや家族を養うために新選組に入ってきたとは考えにくいのです。

本作で、浅田次郎氏は吉村を通して、幕末の貧しい家族の父親像を描きました。家族に一人子供が生まれると、一人が死ななければならない貧しい下級武士の生活ですが、その家族愛と武士の矜持が心に響きます。吉村は妻や子供たちを愛し、その生活を守るために自らの命を賭けて戦いました。

テレビドラマでは、吉村を渡辺謙さんが、映画では中井貴一さんが演じられていました。宝塚歌劇でも劇化されていて、いずれも名演に泣かされました。皆様のイメージに合うのは、どの俳優さんでしょう。

 

「輪違屋糸里」(浅田次郎作 文芸春秋刊)

 本作は新選組物ですが、女性が主人公の物語です。 遊女糸里と土方歳三の恋愛話かと思いきや、実はその裏には深い情念が隠され・・・と、一筋縄ではいかない展開になっています。単純に恋愛話だと思って読んでいた私は、途中で、頭をひねる羽目になりました。読み進めていくうちに、私は主人公のしたたかな生き方を密かに応援するようになり、物語を楽しませていただきました。本作では、糸里の生きざまの中で、得るものと失うものが描かれています。

 2023年夏、本作の舞台となった京都島原の輪違屋や、壬生の旧前川邸の蔵、浪士組(後に京都に残留した者が新選組へ)の本陣となった新徳寺など、新選組ゆかりの史跡が特別公開されています。物語の舞台地を巡って、幕末期の雰囲気と場所の記憶をぜひ、味わってみてください。

 

 

「新選組始末記」(子母澤寛作 中央公論社刊)

 本作は、昭和3年(1928)に子母澤寛氏により書かれた新選組のルポルタージュです。本作が戦前に描かれた歴史書でありながら、今も読み継がれているのは、皇国史観に影響されていないからだと読んだことがあります。

 子母澤氏は幕臣の子で、新聞記者でした。明治維新から60年が経ち、幕末・維新の動乱を自分の目で見ていた人々がそろそろいなくなりそうなこの時期に、子母澤氏は京都まで出向いて、幕末期の貴重な話を聞き、書き残してくれました。ただ、創作も入っているようで、近年の研究により本作とは違った新選組の歴史が語られるようにもなりました。

 

「新選組」(松浦玲作 岩波書店刊)

 学者、松浦玲氏による新選組の研究書です。本作が出たことで、新選組が学者の研究対象になりました。私は本作の中で、幕末の研究に京都だけではなく、大坂を入れることで、空間的に舞台がより広がることを知りました。幕末期以降は蒸気船で移動できるようになり、機動力が格段に進歩し、海と港が重要になってきました。確かに、幕末期に政治の中心だった京都の外港は天保山です。坂本龍馬の書状に一番多く登場する地名は大坂です。

 私が大坂の幕末史跡を顕彰しようと思ったきっかけとなったのは、本書です。大阪には、新選組関連のみならず、尊攘派志士たちの史跡も数多くるものの、あまり一般には知られていませんでした。多くの方々に幕末史跡の場所の記憶を味わってほしいと考え、史跡の顕彰を重ねてきました。

 

 

「海舟日記」

「大久保利通日記」

「木戸孝允日記」

「坂本龍馬全書簡集」「会津藩庁記録」

「浪士文久報国記事」、「島田魁日記」

    (「新選組戦場日記」木村幸比古編集 PHP研究所刊 に収録)

「遠い崖-アーネスト・サトウ日記抄」

     (萩原 延壽作 朝日新聞社刊)

 第一次資料と呼ばれる、幕末期に生きた当事者たちの日記類や記録簿です。翻刻されて活字となり、読みやすくなりました。より詳しく、史実を学ぶには最適ですが、読み解くのは手ごわいです。

 私は文章を書いたり、石碑を建立したりする際に、随分、これらの書物のお世話になりました。やはり、当事者の声には、説得力があります。各書には、幕末・維新期の騒然とした世相を背景に、懸命に生きた人々の姿が描かれています。

 

 

まちの人文庫  幕末本

 

 2023年は新選組結成160年ということで、9月末まで、京都では島原の輪違屋や角屋、壬生の旧前川邸の蔵、新徳寺、壬生寺の本堂など、通常非公開の新選組関連史跡が公開されています。筆者の知る限り、これほど多くの施設が一度に公開されるのは初めてです。今夏、京都へ来られてみてはいかがでしょう。暑いですけどねぇ。

  

 輪違屋             太夫がもらった近藤の書

  

 旧前川邸の金蔵         刀傷

  

 新徳寺             清川が演説した大広間

 

 壬生寺の壬生塚内に、土方の胸像が建立されました。こちらは和装の土方です。できれば、近藤の胸像と並べて設置されたらと思いました。

  

 

 さて、地元の図書館から、「まちの人文庫」という住民によるお薦め本を紹介するコーナーの執筆を頼まれました。今まで、演劇関係の本や、児童書、絵本、SFなどの本が紹介されていました。もちろん、筆者は幕末本です。

 覗きに行ってみると、図書館の壁一面に幕末本が並んでいました。なかなか壮観な眺めです。幕末ファンが増えるでしょうか。以下、推薦文を掲載します。

 

「燃えよ剣」(司馬遼太郎作 文芸春秋・新潮社刊)

 ご存じ、新選組副長土方歳三を有名にした作品です。1970年に栗塚旭さん主演で、1990年には役所広司さん主演でテレビドラマ化され、覚えておられる方もいらっしゃると思います。2021年、岡田准一さん主演で再映画化され、ご覧になられた方も多いことでしょう。 

「燃えよ剣」以前は、土方歳三のイメージは怜悧だが、冷酷で残忍というものでした。本作はその土方像を大きく変えました。本作を読んだ学生時代、私は土方が亡くなった時と同じ35歳になったときに、頼もしい大人になっていられるかと、考えたものでした。

 新選組は天下国家を語る集団ではありませんが、幕末期最強の軍団を作り上げた土方の人物像は興味深いものがあります。私はこの本を読んで、幕末物にはまりました。

 

「新選組血風録」(司馬遼太郎作 角川・中央公論社刊)

 本作は、新選組隊士を各章の主役にした連作物です。「燃えよ剣」は副長土方歳三の生涯を追った長編小説でしたが、本作では様々な立ち位置の隊士たちの物語が、司馬氏の名調子で描かれています。本作で描かれる隊士たちの最期は明るいものではありませんが、幕末という騒然とした時代の雰囲気を今に伝えてくれます。

 新選組が活躍した舞台地は、我々にとっては、身近な京都と大坂(明治期以降は大阪)でした。私が幕末史跡の掘り起こしをやろうとしたきっかけになったのも、司馬氏が描くところのこの2作でした。新選組隊士たちは京都と大坂をしばしば往復していますが、その際に通った道は、主に京街道でした。京街道は、大坂城京橋口から野田、蒲生、野江、関目、千林、守口・・伏見と続く、我々にはおなじみの道です。

 

「竜馬がゆく」(司馬遼太郎作 文芸春秋刊)

 土佐の郷士の次男に生まれた坂本竜馬は、後の日本の歴史に大きな影響を与えるようになっていきます。本作は竜馬の生涯を、興味深く描いた司馬氏の幕末物の代表作です。史実では坂本「龍馬」で、本人も書状で「龍」の字を書いていますが、司馬氏は、史実は史実として「竜馬」の物語をつづられたのだと思います。司馬氏は生前、竜馬の人生を本人よりも、よく知るのは自分だと語っておられたとか。なぜなら、竜馬が亡くなった後の日本史も知っているからだと。

 友情と忠義を語りたい方は新選組物を、天下国家を語りたい方は竜馬を好むと言われます。さて、あなたはどちらでしょう。

 

「世に棲む日々」(司馬遼太郎作 文芸春秋刊)

 幕末期のある時期まで、長州藩はおとなしい藩でした。それが一転して、藩ぐるみで尊王攘夷を旗印に過激な行動に出るのは、ひとえに吉田松陰の影響でした。

松陰が主宰したのが萩城下の松下村塾でした。松陰門下で、松下村塾の龍虎と呼ばれたのが、高杉晋作と久坂玄瑞ですが、松陰亡き後、晋作ら若き長州藩士たちは、巨大な幕府勢力に立ち向かっていきました。

 司馬氏は、時代の背景や人々の生活、政治情勢を鮮やかに描き、読者はその場にいるような感覚を味わうことができます。本作は、激動の時代を生きた松陰、晋作、玄瑞らの青春の物語です。

 

 

「花神」(司馬遼太郎作 新潮社刊)

 本作の主人公、村田蔵六、後の大村益次郎は長州藩の村医者の息子に生まれました。益次郎は蘭学を学ぶため、大坂・過書町(現、北浜)にあった適塾にやってきました。適塾は緒方洪庵が主宰した蘭方医学の塾ですが、日本史上で有名なのは、医者になった塾生よりも、福沢諭吉や大鳥圭介、橋本佐内、大村益次郎など、医者にならなかった塾生たちです。

 幸いなことに、適塾の建物は空襲の被害を免れ、現存します。適塾の2階にある大黒柱には、見事な刀傷が多数つけられていて、必見です。

 本作では、村医者であった益次郎が適塾で学んだ蘭学を生かし、宇和島藩の蘭学指導者になり、幕府の翻訳方になり、長州藩や官軍の軍事参謀になっていったという波乱の人生を、幕末期の世相を背景に見事に描かれています。