稲荷山三つの燈火明らかに、心を磨く鍛冶の道、小狐丸と末の代に、残す其の名ぞ著るき。
其唐土に伝え聞く、竜泉太阿はいざ知らず、我日の本のかな工、天国天の座神息が、国家鎮護の剣にも、
優りはするとも劣らじと、神の力の合槌を、打つや丁々、しつていころり、余所に聞くさへ勇ましき。
打つと云ふ、夫れは夜寒の麻衣、をちの砧も音添へて、打てやうつつの宇津の山、鄙も都も秋更けて、
降るや時雨の初紅葉、焦がるる色を金床に。
火加減湯加減秘密の大事、焼刃渡しは陰陽和合、露にも濡れて薄もみぢ、染めて色増す金色は、
霜夜の月と澄みまさる、手柄の程ぞ類ひなき、清光凛々うるわしき、若手の業物切れ物と四方に其の名は響きけり。