年代 | 作曲 | 作詞 |
1832年 天保三年 |
二代目 杵屋勝五郎 |
二代目 劇神仙人 |
さてさてこの曲もお能ベースの長唄です。
本来のお能のストーリーはこんな感じです。
刀作りで有名な三条ノ小鍛冶宗近は勅命を受けて刀を打つ事になりました。
けれど、刀作りというのは一人ではできないのです。
刀を打つ時には相槌を打ってくれるもう一人が必要なのです。
しかし、宗近は優れた相槌を打ってくれる人がいなくて途方に暮れてしまいました。
そこへ、童子が現れて、宗近に日本武尊の草薙の剣の話しなどを聞かせ
神通力によって力を貸すので、ちゃんと準備をして待っていろと言って稲荷山の方に消えていきました。
宗近は神を祭り準備を整え祝詞を唱え相槌の出現を待ちました。
すると、そこへ稲荷明神の使いの狐が出現し狐が相槌となって「子狐丸」という名刀を作り上げたというお話です。
ちなみに、子狐丸は一条天皇(六十六代天皇)の宝刀と言われているそうです。
長唄はダイジェスト版みたいな感じ。
結局、後半のお稲荷様の使いのものを待ち
一緒に「子狐丸」を打つというところが
表現されています。
長唄としては短い曲ですが、「相槌の合い方」など三味線の見せ所もあるし厳かではあるんですが、大変軽快でリズミカルだし、メリハリはあるし大変まとまった曲という印象です。
以前、聞いたお話では三条ノ小鍛冶宗近は、京都の祇園祭の長刀鉾の鉾頭の長刀を打った人という説があるそうです。
ふーん、実際いらした方なんですね。
この小鍛冶に「来序」というお囃子の手が入ります。
確か「来序」は、神様とかそういったものが出てくる場面に使われると聞いた事があるようなないような。
とまああやふやなんですけれど…
この「来序」の事を「ヒーテン」とも言うみたいです。
お笛が「ヒーィ」というと太鼓が「テーン」とやって来るからだと思います。
「ヒーテン」は来序を指す言葉でもあるんですけれど、楽屋言葉としては稲荷ずしを「ヒーテン」というみたいです。
「今日もお弁当はヒーテンだ」とか使うみたいです。
つまり、来序は歌舞伎とか踊りなどでお稲荷様が登場する時に使うものなんでしょうね。
でもね、「鶴亀」という曲でも「来序」使っているんだけれど、あれはお稲荷様じゃないし何でだろう・・・と以前から疑問に思っているのですが、なかなか聞けないな(-_-;)
さて、面白い話を聞いたことがある。
「夫れは夜寒の麻衣」この後に笛が“ヒー”と来て来序になるんですがね・・・
唄はけっして笛の“ヒー”に掛ってはいけないのだそうです。お稲荷さんの登場に道を汚してはいけないから・・・なんですって。でもね、けっこうヒーにみんな掛っていますよね。本当か嘘かのお話です。
曲は能掛り(能の謡のように唄う)の唄から始まって、次に「セリの合い方」になります。
セリとは、あの舞台とか花道に穴が開いていてエレベータみたいになっていてその穴から登場人物が出てくるという演出方法があるんです。
「セリの合い方」は、そのセリから登場人物が登場してくるのに合わせたノリで演奏するんですけれど
以前、お三味線を習った時、「出てくるぞ。ほらほらほらっ!出てくるぞ」
そんな感じに弾きなさいと習った事があります。
いえね、メロディーをご紹介できないのですが、そのメロディーに合わせてこの言葉を師匠が言われたものだから思わず笑っちゃいました。
そして以来、ここの部分を聞くと頭の中で「出てくるぞ…」とか唄っちゃうのです。
本当はここは「合い方」なので唄は入っていないのですが。
楽しい思い出です。