凡そ生けるを放つこと、人皇四十四代の帝、光正天皇の御宇かとよ、養老四年の末の秋、
宇佐八幡の託宣にて、諸国に始まる放生会。
浮寝の鳥にあらねども、今も恋しき一人住み、小夜の枕に片思い、可愛い心と組みもせで、
なんじゃやら憎らしい。
その手で深みへ浜千鳥、通い馴れたる土手八丁、口八丁に乗せられて、沖の鷗の、二挺立ち、三挺立ち、
素見ぞめきは椋鳥の、群れつつ啄木鳥格子先、叩く水鶏の口まめ鳥に、
孔雀ぞめきて目白押し、見世清搔のてんてつとん、さっき押せ押せ、ええ。
馴れし廓の袖の香に、見ぬようで見るようで、客は扇の垣根より、初心可愛ゆく前渡り、
さあ来たまた来た障りじゃないか、またお障りか、お腰の物も合点か、編笠もそこに置け、
二階座敷は右か左か、奥座敷でござりやす、はや盃持ってきた、とこえ静かにおいでなさんしたかえ、
という声にぞっした、しんぞ貴様は寝ても覚めても忘られぬ、笑止気の毒またかけさんす、何な、かけるもんだえ。
そうした黄菊と白菊の、同じ勤めのその中に、ほかの客衆は捨て小舟、流れもあえぬ紅葉ばの、
目立つ芙蓉の分け隔て、ただ撫子と神かけて、いつか廓を離れて紫苑、そうした心の鬼百合と、思えば万年青、
気も石竹になるわいな、未は姫百合男郎花、その楽しみも薄紅葉、さりとはつれない胴欲と、
垣根にまとう朝顔の、離れ難なき風情なり。
一薫きくゆる仲人の、その接ぎ木こそ縁のはし、そっちのしようが憎いゆえ、
隣り座敷の三味線に、合わす悪洒落まさなごと。
女郎の誠と玉子の四角、あれば晦日に月も出る、しょんがいな、玉子のよいほい、ほい、よいほい玉子の四角、
あれば晦日に月も出る、しょんがいな、一薫きはお客かえ、
君の寝姿窓から見れば、牡丹芍薬百合の花、しょんがいな、芍薬よいほい、ほい、よいほい、ほい、
よいほい芍薬牡丹、牡丹芍薬百合の花、しょんがいな、つけ差しは、
濃茶かえ、ええ腹が立つやら、憎いやら、どうしょうこうしょう、憎む鳥鐘、暁の明星が、
西へちろり東へつろり、ちろりちろりとする時は、内の首尾は不首尾となって、親父は渋面嚊は御免、
渋面御免に睨みつけられ、去のうよ戻ろうよと、いうては小腰に取りついて、ならぬぞ、去なしゃんせぬ、
この頃のしなし振り、憎いおさんがあるわいな。
文の便りになあ、今宵ごんすとその噂、いつの紋日も主さんの、野暮な事じゃが比翼紋、
離れぬ仲じゃとしょんがえ、染まる縁しの面白や。
げに花ならば初桜、月ならば十三夜、いづれ劣らぬ粋同士の、あなたへいい抜けこなたの伊達、
いづれ丸かれ候かしく。