春明 | 『花のほかには』-fuyusun'sワールド-

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fuyusunの『何じゃこりゃ!長唄ご紹介レポート』
自己満足ブログですみませんm(_ _)m

年代 作曲 作詞
明治36年 五世
杵屋勘五郎
如蓬 居士

約十三分くらいの大変短い曲ですが、三味線の手がお洒落でとても素敵な曲です。
先日、お囃子のお稽古で「春秋」をやる事になりまして、「・・・えっ?お囃子あったの?」という感じなのですが、だいたい長唄の演奏会ではお囃子が入らずに演奏される事が多いように思います。

長唄にも色々な流派がありますが、「杵屋」という名前が多いです。
同じ杵屋でも色々あるんですけれど、「杵屋」の宗家は杵屋六左衛門という名前です。宗家というのは、一番もとの家柄という事ですね。
この杵屋勘五郎。初代は杵屋の始祖と呼ばれた方なんですって。
で、その初代杵屋勘五郎の子どもが初代杵屋六左衛門となったそうで、杵屋勘五郎という名前は杵屋宗家一門の大切な名前のようです。

この五世杵屋勘五郎という人も十二世杵屋六左衛門の子で、十四世杵屋六左衛門の弟さんなんですって。

この曲は、前半が「春」後半が秋という二部構成となっています。
「桜花の巻」は風の曲、「紅葉の巻」は雨の曲となっています。
春の風・・・
「春一番」を代表して、そういえば風が強い季節ですね。
けれど、春の風は花粉を飛ばして目をカユカユにしてくれるし、家の中を砂だらけしてくれちゃったり、折角の満開の桜を散らしてくれちゃったり、あまりよいイメージがないので、情緒的には感じないのですが、こういったものを情緒としてとらえて、音楽を作っちゃうなんて凄いです。
この「桜花の巻」には一下がりという、微妙な音階の三味線の調子で弾かれるところがあります。
三味線の基本調子には「本調子」「二上がり」「三下がり」があります。
この一下がりは「本調子」の一の糸(一番太い糸)の音階が長二度低い音です。あまり西洋音階で三味線の音を表現したくありませんが、「シ・ミ・シ」なら「ラ・ミ・シ」という感じになって、心地よくないような心地よいような微妙な調子です。
この一下がりの部分は風の合い方もあって、つまり春風を表現しているところだと私は解釈しています。
お囃子の手で、川の流れとか海の怒涛とか。。。こういった流れのようなものを表現する時に「甲流し○○クサリ、乙流し○○クサリ」という感じに表現したりする事があります。
この一下がりのところにも「甲流し、乙流し」があります。
この手が入ると「水」をイメージしちゃうけれど、ここでは風の流れのイメージなんだと思います。
水と風では違うわけで、水の流れのつもりで打っちゃいけないんだなぁ。なんて、当たり前だけれど改めて思っちゃったりしました。
「桜花の巻」の最後は小鼓の打ち合せです。
御花満開の季節といえば「蝶」です。
私の幼少時代の家の近くには、大きなキャベツ畑がありました。
子どもの頃、よく友達と昆虫採集なんかしていたのですが、蝶々はこのキャベツ畑でよく採取したんですよね。
で、蝶々ヒラヒラというような場面というと、私は何故かキャベツにヒラヒラと舞う蝶のイメージがすぐに連想されちゃいます。
ついでに臭いまで想像しちゃったりして。。。。
ダメダメ、もっと綺麗な菜の花とかすみれとか、そういった御花畑に舞う美しい蝶じゃなくちゃ。
はあー。。。キャベツ臭い環境に背景はキャベツ。。。
こんなんじゃ、この曲の打ち合せは上手くできないなぁ。


秋は雨ですか・・・。
「秋の長雨」とかいうけれど。。。
確かに、秋の景色の雨は風情があるように思います。
一雨一雨、秋が深まっていって、そしてやがて寒い冬になっちゃうのですよね。
日本には様々な雨がありますね。
その降り方によっても名前が付いていますし、その季節、はたまたその日限定というのもあります。
「五月雨」というのは、梅雨期の雨。
五月なんですけれど、旧暦ですから今で言う六月頃なんですよね。
夏は「白雨」・「電雨」など
秋は「村雨」、冬は「冬雨」・「凍雨」など、初冬に降る「風花」とか色々あります。
この一つの「雨」に対しても、色々な名前を付けてくれちゃう日本人の情緒は世界一だと私は思っています。

この曲の「雨」は「時雨」です。「時雨」は晩秋から初冬に降る雨で、降ったり止んだり落ち着かない雨の事だそうです。
雨粒が糸のように細くて、サラサラと降るそんな情景が目に浮かびます。
「ザアー」という音ではなくて「サアー」というような静かな音がイメージされます。
つまり、この「紅葉の巻」の表現は時雨である事を常に念頭に演奏しなくちゃいけないのでしょうね。
けっこう綺麗な曲というのは細かい手が付いています。細かい手はついつい一生懸命に演奏しちゃうから、人の耳にはバンバンとかバシバシと荒っぽく聴こえちゃうのですよね。
手は細かいけれど、一生懸命に力んでしまわないように。。。
きっとこの曲では、そういった上級なテクニックが求められているのだと思います。