「テリィーーーー!!!」
キャンディの悲鳴が劇場に響き渡り、そのまま気を失って倒れてしまった。
舞台の上に照明器具が落ちてテリィは額から血を流して倒れていた。
緞帳がすぐに下げられた。劇場はザワザワと騒がしくなった。
「おい!テリィ!テリィ!しっかりしろ!」
ホレイショー役の俳優がテリィを抱き起こした。
団長や、共演者たちが駆けつけた。
「テリィ!テリィ!」
テリィは頭を抑えて何と立ち上がったのだった!
「テリィ!大丈夫か?!」
「頭が痛い。。でも大丈夫です。。立ち上がれます。。」
照明器具は僅かにそれて、直撃を免れたが額から血を流していた。
「すぐに手当てをしてやってくれ!」
団長はテリィを抱き起こして楽屋へと運んだ。
「おい!公演中止のアナウンスだ!」
「はい!了解しました!」
テリィは無理矢理に身体を起こした。
「団長。。僕は、僕は大丈夫です。。最後までやります。。やらせて下さい。。やらねばならないんだ!」
「テリィ。。!! 血が出ているじゃないか!それに足も怪我している、無理だ!」
「俺は大丈夫です!やめるわけにはいかない!これぐらいの事で。。包帯を!包帯をくれ!」
「テリィ。。」
団長はテリィの鬼の形相を見て何も逆らえなくなった。
「これは誰かの陰謀です。。俺には大体誰の仕業なのか察しがつく。。」
「テリィ。。それは!」
「罠です。。タチの悪い奴がいる。。!」
「わかった!後で話を聞こう。。おおい!休憩を挟んでくれ!10分で開演だ!」
「は、はい!」
劇場にアナウンスが流れた。
「お客様に申し上げます。ただいまより10分間の休憩になります。」
観客はザワザワとしだした。
「休憩って事はその後やるって事か?」
「テリュース大丈夫だったのかしら?!」
「ただ今、照明器具の落下事故がありましたが、テリュース・G・グランチェスターは軽傷の模様の為、引き続き演技を続行いたします。」
「ええっ?!あんな怪我している身で?!」
「テリュースの執念だわ。。!」
会場に拍手が起こった。
キャンディはその場にいた人達が介抱していた。
「お嬢さん!しっかり!しっかりするんだ!」
「テリィ。。テリィ。。テリィが。。」
「テリュースなら最後までやるみたいだよ、お嬢さん!」
「え。。。?!」
キャンディは揺り起こされて目覚めた。
「大丈夫かい?医務室へ行くなら連れて行きますが。。」
「テリィが。。最後までやるって。。?」
「ああ!そうらしいよ!大丈夫だったみたいだねぇ!」
「テリィ。。!テリィ!」
キャンディはフラフラになった身体を起こした。
再び幕が上がり、テリィはハムレットの最終幕を演じた。
「ホレイショー。。どうかこの惨劇を。。後世の者達に正しく伝えてほしい。。事実を。。事実を伝えてくれ。。お前だけが、お前だけがその事実を知っているのだから。。頼んだぞ。。ホレイショー。。俺は、俺の人生は。。愛するオフィーリアを失い、父王を失い、母を失った。。臣下を裏切り、殺し、また叔父までも。。」
「それはお前が悪いのじゃない!悪いのはあの弟王じゃないか!」
「歴史が真実を証明するだろう。。ホレイショー。。後を頼んだ。。この国の未来を。。我は死す。。」
そのテリィの芝居は既に芝居を超えていた。怪我の痛みを耐えているせいなのか、テリィの演技は迫真に迫っていた。客席は息を呑む事も出来ず静まり返っている。
「ハムレットーーー!!」
ホレイショーは叫んだ。
新しい国王はハムレットを讃えよ!と命令した。
「真の英雄はハムレットなり!!」
そう朗々たる声で言い放ち、幕は下りた。
観客はブラボーの嵐を投げかけた。
「テリュース!テリュース!」
早くもテリュースのカーテンコールが始まった。
テリィは痛いのを堪えて、片足を引きずりながら舞台に出た。そして両手を広げて観客の拍手に応えた。
割れんばかりの拍手が聞こえた。
「テリィ!テリィ!」
キャンディはそのまま、楽屋へと走って行った。そんな力がどこに潜んでいたのかと思うくらい走った。
「テリィ!テリィーーーー!!!」
キャンディは舞台袖にまで走ってきた。警備員に止められながらも振り払いながらテリィに逢いに来た。
「テリィ!テリィ!」
「キャンディ。。俺は大丈夫だ。。」
テリィは足を引きずりながら、キャンディに微笑んで思い切り力強く抱きしめた。そしてそのまま倒れ込んでしまった。
「テリィーーー!!」
「救急車だ!早く!」
誰かがそう叫んだ。テリィの額からは血と汗が滲み出ていた。