『スサノオと日本の神を巡る旅』。
昨日の『ヤマタノオロチ伝説の地』に続いて、
今日僕らが向かったのは、
ここ、島根県雲南市にある『須我神社』。
ス「何をテンション上げてんねん、キモい顔して」
あ「顔がキモいかどうかは、関係ない（真顔）
で、この須我の地。
あなたがヤマタノオロチを倒して、
この地に立ち、
『俺の気分は今、最高に清々（すがすが）しい！』と叫んだことから、
『須賀(ここの神社は須我だけど)』と名付けられたそうですね」
あ「一個いいっすか？」
ス「ん？」
あ「親父ギャグやん」
ス「失礼を言うな。八百万ギャグや」
あ「どっちでもえぇわ。ていうか、ギャグなんかい(笑)
この石碑、これですね。
あなたが愛する妻へ届けた、
日本最初の和歌を刻んだ石碑」
良い和歌ですね」
（荒川意訳）
幾層もの雲が立ち上る
この出雲の地に
妻を娶るために
幾重もの垣根を作る
大好きな 大好きな 君と過ごす
その垣根をね。
ス「まぁお前の訳も、大概良く言い過ぎやけど（笑）
こうして、この現代でも伝え続けられるのは嬉しいわ」
そうして僕らは本殿で参拝を済ませ、
（二礼二拍手一礼）
ス「じゃあ、奥行こか？」
あ「奥？」
スサノオに連れられて、
僕らが向かった先は、
須我神社から約2キロほど行った先にある、
八雲山への登山口。
この山道の先に、
須我神社の奥宮があるという。
本来俺たちは、ここにいる」
結構遠いっすね…」
ス「つべこべ言うな。
ほら、登るぞ」
スサノオに促され、
暑い季節の中、
汗だくになって山道を登る、登る、登る…。
あ「はぁ…、はぁ…。
な、何か日本の神さまって、
大変な所にいる神さま多くないっすか…？」
ス「神の元々の始まりは、自然の神秘を神に見立てたのが始まりなんやから、
そら山奥や谷底、洞窟の中、行きにくい所にあるのが当然よ。
むしろ、こうして登山道が作られてることに感謝せぃ」
あ「そ、そうなんですけど～…」
ス「ブツブツ言うな！」
途中にある心身を清めるための滝を通り、
再び山道を登る。
そうして到着した、そこには…？
スサノオさんとクシナダ姫さんが祀られているっていう…。
…すごいパワー……」
その時…？
？「あなた…」
夫婦岩の影から声が聴こえた。
そこには…？
スサノオの妻 クシナダ姫の姿があった。
ス「おぅ」
僕にとって、
初めての夫婦の対面。
なぜか僕がドキドキ…。
ス「クシナダ…」
クシナダ「はい…？」
スサノオの少し神妙な声のトーンに、
少しの疑問を持ったその瞬間…？
ス「お前は今日も可愛いな～！！
こっち来い！！こっち！！」
スサノオがいきなりそう言うと、
クシナダ姫も頬を赤らめながら、
スサノオの方に近寄り、
二神はまるで付き合い始めた、
恋人のように抱き合った。
スサノオが、
クシナダ姫の頭を撫でながら言う。
ス「いつも外に出てばっかりで、すまんなぁ。
でも、俺にはやっぱり、
こうしてお前に触れている時間が一番」
スサノオの大きな体に身を寄せながら、
クシナダ姫が言う。
クシナダ姫「そんな…。
あなたが元気でいてくれるなら、
私はそれだけで…」
そんな二神の会話が交わされる中…。
あ「………」
…。
……。
………。
…………。
あ「めっちゃラブラブやん…」
一人置いてけぼりを喰らっている僕は、
思わず呟く。
ス「おぅハゲ頭、おったんか。
存在をすっかり忘れてた」
クシナダ姫「あなた、人様にそんなことを言ってはいけません」
あ「…っ！？
そう！奥さん！！そうなんですよ！！
この失礼な男にもっと言ってやってくれ！！」
クシナダ姫「あら…でも、よく見ると…ちょっとやっぱり生え際が…」
あ「何か言うたか？(真顔)」
ス「ワッハッハッハー！！
改めて紹介するわ。
これが俺の嫁さん、クシナダ姫な」
クシナダ姫「初めまして（ペコリ）」
スサノオの紹介に、
クシナダ姫は折り目正しく、
僕に頭を下げる。
あ「あ、ど、どうも…初めまして…。
荒川祐二と申します…」
クリクリの目。
小さい顔に、か細い身体。
そして何より、
その全身から伝わってくる純粋で健気な姿。
ここに伝説の神が命をかけて、
救おうと決めた女性の姿が、そこにあった。
僕がクシナダ姫に言う。
あ「スサノオさんと…仲…良いんですね…」
クシナダ姫「いえいえ…そんな…」
あ「でも最近は、僕の方が一緒にいる時間長いと思うんですよ…。
だから、最近は僕の方がスサノオさんと仲が良いと思うんですよ…」
クシナダ姫「そんなそんな…。
距離は確かにありますが、
私と主人は、心と心で繋がってますので…」
あ「いや、でも最近は僕も寝ても覚めても一緒にいるので、
心の繋がりよりも、やっぱり現実の繋がりだと思うんですよね」
クシナダ姫「そんな…でも、主人が命をかけて守ってくれたのは私だけで……」
あ「いやいや…でも……」
ス「何をしとんねんお前らは、このドアホが」
あ「いや…仲の良さに、つい嫉妬をしてしまいまして…（笑）」
ス「お前の心は今、絶賛穢れとる」
あ「（笑）
まぁそれはそれとしてなんですけど、
奥さんに聞いてもいいですか？」
クシナダ姫「…なんでしょう？」
ス「変なこと聞くなよ」
あ「大丈夫です（笑）
俗っぽい質問で申し訳ないんですが、
スサノオさんのどこが好きなんですか？」
ス「そんな質問かい（笑）」
クシナダ姫「…主人のですか…？
…優しいところです…」
あ「そんな渋谷の街頭インタビューで聞けるような当たり前の答えじゃなくて、
もっと具体的に！」
ス「お前、何を言ってんねん（笑）」
クシナダ姫「当然、ヤマタノオロチに食べられてしまう運命から、
命をかけて私を護ってくださったのは、
もちろんなのですが…」
あ「それは、やっぱりそうですよね。
その時の愛が今も忘れられないと…」
クシナダ姫「実はそれ以上に、
『この方に一生ついていこう』と、思えた出来事があります…」
あ「何ですか、それ？
やばい、スクープの予感」
ス「やめろ、アホ(笑)お前は週刊誌の記者か」
そんな僕にクシナダ姫が言う。
クシナダ姫「ヤマタノオロチを倒した後、
ご存知の通り主人は、
この須我の地に宮殿を築きました」
あ「そうですね」
クシナダ姫「その際に主人は、
行き場を無くしていた私の両親を呼び寄せ、
その宮殿を管理する首長に任じて下さったのです」
あ「あ、聞いたことあります。
それが今の神職の起源になったって…」
クシナダ姫「私のことをこうして普段から誉めて下さり、
大切にしてくださるのももちろんですが、
それと同じぐらい、
私にとって大切な両親、家族を、
大切にしてくださること。
これ以上に嬉しいことはありますでしょうか？」
あ「…確かに…そうですね…。
気が付かなかった盲点です…」
クシナダ姫「主人はいつもそうなのです。
自分のことで恐縮ですが、私にもそう、私の両親にもそう…。
常に私たちを大切にしてくださる思いが、
誰よりも伝わってくるので、
私たちもその思いに応えて、
この方を大切にしたい。
そう思わせてくれる、
そんな大きくて温かい存在が、
私の主人、スサノオノミコトなのです」
あ「………」
クシナダ姫の、
その嘘偽りなく、
真摯にスサノオさんを愛する言葉は、
昨日のスサノオさんの言葉と同じように、
僕の心を震わせた。
ス「まぁ良い風に言ってくれてるけど、
そんなもん君ら人間で言うても、当たり前やろ。
大切な人の、大切な人を、大切にする。
そのパートナーが大切であればあるほど、尚更な」
クシナダ姫「…いつもこうして当たり前のように、常に言葉でも表してくださるんです。
それに加えて、
普段の行動で示してくださる主人だから、
ヤマタノオロチから私を護ってくださったあの時から、
今もずっと変わらず、
私は主人が大好きです」
そう言うと、
クシナダ姫は顔を紅くして、
恥ずかしそうに俯いた。
ス「お～そうか、そうか！！
俺もお前が一生大好きだぞ～！クシナダ～！！」
そう言うと、
スサノオさんはクシナダ姫の身体を、
高く抱き上げ、
そうしてもう一度、
強く、強く抱きしめた。
余りにも絵になるその姿と、
先程のクシナダ姫からの話が相まって、
僕は男として素直にスサノオさんを、
『格好いい』と思った。
クシナダ姫「まだ旅は続くと思いますので、
気を付けて行かれて下さい。
あなたも、ご無理なさらずに…」
ス「おう、ありがとうな。
お前に会えるのを楽しみに、俺はまた頑張るぞ」
クシナダ姫「そんな…（照）」
ス「お～！それにしてもやっぱりここは清々しい！！
よし、久しぶりにあの和歌詠むか！！
あの時みたいに雲は立ち上ってないけどな！！」
ス「またな、クシナダ。
一生愛してるぞ」
クシナダ姫「…ありがとうございます…」
何の嫌味も嘘も無い、
スサノオさんの愛する妻へのその言葉と、
これまでの一つ一つのやり取りに、
なぜかこの時、
これまで月読さん、
イザナギさんが僕に言ってくれた、
『スサノオの本当の正体』、
『その存在の意味』。
その言葉が甦った。
一体スサノオさんのどの言葉、
どの行動が、
今の僕の心に引っ掛かったのだろうか。
今思い付く言葉は、
『大切な人を大切に』。
この言葉に、
スサノオさんのその存在の意味、
本当の正体の答えに繋がるものが、
あるのだろうか。
愛し合う二神の姿を横目に、
旅はこれからも続いていく。
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