トヨタマ姫の去った地上界で、呆然と立ち尽くす山幸彦。
自業自得とは分かっていながらも、
トヨタマ姫への思いは募るばかりだった。
それはトヨタマ姫も同じで、
海底世界に帰ったとはいえ、
山幸彦への思いは募るばかり。
産まれた子の未来も心配だった…。
そう考えたトヨタマ姫は、
自身の妹のタマヨリ姫を、
地上界と海底世界を完全に塞いでしまう前に、
派遣することに決めた。
同時に、
夫への思いを綴った歌も託した。
赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装し 貴くありけり
訳
赤玉は連なる緒の先まで光っているように見えるけど、
白く光り輝く玉のように、
美しかった貴方の姿をずっと、ずっと忘れられません
それに対して、山幸彦が返した歌はこうだった。
沖つ鳥 鴨著く島に 我が率寝し 妹は忘れじ 世のことごとに
訳
鴨が羽を休めていたあの島で
寄り添って眠ったことがあったね。
あれは遠い昔のようだけど、
今でも鮮明に覚えてる。
あの日々を、君のことを、
僕はずっとずっと忘れない
そんな、
山幸彦とトヨタマ姫。
二神の間に生まれた神の名は、
鵜草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)。
天と山の血筋を持つ山幸彦に、
トヨタマ姫によって海の血筋が加わったこの御子は、
やがて乳母であるタマヨリ姫と結婚。
後に四柱の子を産んだ。
最初に産まれたのが、イツセノミコト。
次がイナヒノミコト。
続いて、ミケヌのミコト。
そして、最後に誕生したのが…
カムヤマトイワレビコノミコト。
この現代にまで続く系譜の始まり。
後の、初代神武天皇だった。
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