毎日の狩りに飽きた山幸彦は、
釣りをしている兄に近付き、
お願いをしてみた。
山幸彦「兄さん！お願いだ！！
一回でいい！道具を貸してくれないか！？
俺の道具も代わりに貸すからさ！！
交換、交換！！
な！？」
それに対して、
真面目な兄の海幸彦は冷たくあしらう。
海幸彦「何を言ってるんだ。ダメだ！
いくらお前が狩りに飽きたか知らないが、
お前の役目はお前の役目。
俺の役目は俺の役目だ」
さすが兄。
しかし、
ここで諦めないのが末っ子である。
山幸彦「そんなこと言わずに、さ！！
一回だけ！！
一回だけでいいから！！」
海幸彦「ダァメだ！！」
山幸彦「ダメだがダメ！！お願い！！お願い！！」
海幸彦「しつこいぞ！！」
あまりにしつこい弟に、兄は少し強めに一喝する。
山幸彦「だって…」
兄の剣幕に押されたように、
山幸彦は明らかに下を向いてショボンとしてしまった。
海幸彦「……」
こうなると何とかしてあげたくなるのが、
いつだって心の性である。
真面目と同時に、
本来優しい兄は弟にこう言葉を掛けた。
海幸彦「……わかったよ。
１回だけな。
その代わり大切に扱ってくれよ」
山幸彦「ほんとに！？
ほんとに！？
ありがとう兄さん！！
恩に着るよ！！
これ！
俺の弓矢だから使って、使って！！」
そう言って、
道具を交換した結果が悲惨だった。
山幸彦「…全っ然･･･釣れへん…」
それはそうである。
兄があれだけポンポンと釣れていたのも、
あれは兄だから。
初心者が一朝一夕で出来るものではなかった。
やがて日も暮れてきた。
もう時間切れだった。
山幸彦「最後！最後！！
最後の一回！！えいっ！！」
そうして投げた最後の一投。
これが悲劇を呼ぶ。
山幸彦「あっ…えっ…！？来た来た来た来たぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！」
初めてのヒット！！
急いで釣り上げようと竿を勢い良く持ち上げた、
その瞬間…。
ブチッ。
何と糸が切れてしまい、
釣り針が海に持っていかれてしまった…。
山幸彦「あ…あ…」
悲劇。
一瞬何が起きたか分からなかった山幸彦だったが、
糸だけになってしまった釣り竿を持ち上げた瞬間に、
背中に脂汗が流れてきた…。
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