ロシア軍のウクライナ侵攻弾劾、軍事ブロックNATOの拡大反対
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開戦前夜に何があったか
昨2021年11月、ロシアがウクライナとの国境近くに大軍を集結させた。米国情報機関は、17万5000人を動員した、ロシア軍によるウクライナ侵攻の可能性を指摘。これに先立つ10月末、ウクライナ軍は、同国からの独立をめざす東部のドンバスの親ロ派勢力に対し、初めてドローン攻撃を決行していた。12月8日、緊迫化した情勢をうけ、バイデン・プーチン両大統領の会談がオンラインで実施される。内容は非公開だが、サリバン大統領補佐官によると、バイデンはプーチンに、「ロシアがウクライナに侵攻した場合、アメリカは強力な経済措置を取る」「クリミア占領を阻止できなかった、2014年の制裁よりも厳しい内容になる」と、伝えたという。他方、プーチンはバイデンに対し、「ウクライナをNATOに加盟させないこと」「ウクライナにミサイルなどを配備しないこと」を要求。プーチンは、「ウクライナにNATOのミサイルが配備されれば、5分でロシアを攻撃できる」と語っている。
2022年1月10-13日、さらに米国・NATOとロシアとの協議が開催された。米国・NATOは、「NATOに加盟するかどうかは、ウクライナ自身が決めるべき問題」だという理由で、「NATO不拡大の約束」を拒絶。プーチンは、「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証を得る」という目標を達成できなかった。そして2月18日、ロシアは「ウクライナ軍の攻撃が激化して危険だ」との名目で、ドンバスから住民の避難を開始させる。欧州安全保障協力機構(OSCE)によると、1日1000~2000件の銃撃が発生。それゆえ、女性・子ども・高齢者を中心に、6万人の住民がロシア領に避難した。
続く2月21日、プーチンは、「ドネツク、ルガンスクでジェノサイドが起きている」と主張し、親ロ派勢力が支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認。同時に、「平和維持軍」の派兵を決定し、未明にはロシア正規軍が行動している。だが、ウクライナ政府と国際社会は独立を認めておらず、この時点で、「ロシア軍のウクライナ侵攻」が決行されたことになる。さらに2月24日、プーチンは「特別軍事作戦」の実施を決定し、テレビ演説で明らかにすると同時に、ウクライナの東部・南部・北部(ベラルーシ国境)の3方面から、全面侵攻が開始された。その後の戦況は割愛するが、開戦後約1カ月の死者数は、民間人約1000人(国連)、ウクライナ軍約1300人(政府)、ロシア軍7000~1.5万人(NATO)と、推定されている。
「NATOの東方拡大」をめぐって
この戦争は、ロシア側の暴挙であり、即座に停戦・撤退すべきだ。すでに2月28日から、停戦協議が繰り返されている。ウクライナ側の主な要求は、①即時停戦、②ロシア軍の撤退であり、ロシア側の要求は、①ウクライナの「中立化」「非武装化」「非ナチ化」、②クリミア半島でのロシア主権の承認、③東部2州の独立承認が柱である。このうち、ウクライナ側の要求は当然だが、ロシア側の要求については読み解く必要があるだろう。そのポイントは、「NATOの東方拡大」と、「マイダン革命」以後の情勢である。
1990年に東西ドイツが統一する際、東ドイツ駐留のソ連軍を撤退させるために、米国ベーカー国務長官がソ連のゴルバチョフ書記長に「NATOを東に拡大しない」との約束をしたが、条約化はされていない。そして1991年、ソ連邦崩壊とともに、ワルシャワ条約機構(WTO)は解体される。ただし翌年、ロシア・ベラルーシ・アルメニア・カザフ・タジク・キルギスは、集団安全保障条約(CSTO)を締結した。他方、北大西洋条約機構(NATO)は存続し、1999年以降、WTOメンバーだった東欧諸国とソ連を構成していたバルト3国が加盟していく。その後、ジョージアやウクライナもNATO加盟に意欲的となり、ロシアは警戒心を強めていった。
ところで、1994年にウクライナは、「ブダペスト覚書」を交わすが、条約化はされていない。これは当時、ウクライナ・カザフスタン・ベラルーシにおかれていた核兵器をロシアに集め、ロシア・アメリカ・イギリスは核放棄した3国の独立・領土保全・武力の不行使・核兵器の不使用を保障するといった内容である。ところがプーチンは、2004年の「オレンジ革命」による革命政権に「ブダペスト覚書」は適用されない、と2014年に表明していた。アメリカ・イギリスは今回、「ブダペスト覚書」の規定通りに、国連安保理に行動を要請しただけだ。なお、ゼレンスキーは2月19日、ミュンヘンでの国際会議で、「ウクライナは、ブダペスト覚書が機能しないなら、1994年の包括的な決定の効力は疑われると信じる権利がある」と発言した。プーチンはこの発言を根拠に、「ウクライナは核兵器を開発する可能性がある」と主張している。
「マイダン革命」とクリミア併合
2013年11月、親ロ派のウクライナ大統領ヤヌコビッチは、「欧州連合協定」の調印を棚上げにした。その直後、プーチンはウクライナに150億ドルの支援と、天然ガス価格の値下げを約束している。これに親欧米派の民衆が激怒し、キエフで大規模デモが連続的に発生。ベルクト(警察特殊部隊)など治安当局と、民族主義武装組織「右派セクター」や全ウクライナ連合「自由」などユーロ・マイダン派が衝突し、双方に死傷者を出した。2014年2月22日、身の危険を感じたヤヌコビッチは、キエフを脱出しロシアへ亡命。「革命」によって、親欧米派の新政権が誕生した。直後の暫定政権を経て、5月の大統領選ではポロシェンコ、2019年にはゼレンスキーが選出されている。
この「マイダン革命」には、ヌーランド米国務次官補などネオコンや、ジョージ・ソロス財団の関与が明らかとなっている。また、バイデンの息子ハンター・バイデンは、父親が副大統領だった当時、ウクライナのガス企業の幹部に就任している。当時の大統領オバマは、騒乱が落ち着くと、「我々の勝利」を宣言した。なお、2014年5月2日、オデッサにある親ロ派の「労働組合会館」を、「右派セクター」に扇動されたサッカーファンが襲撃し、48人を虐殺するという事件も発生している。
キエフで発生した政変に対し、ロシア系住民が多い南部のクリミア州では、ロシア軍が展開する中、3月16日の住民投票で、ロシアへの編入が決定された。クリミアのセヴァストーポリ市には、「ロシア黒海艦隊」が存在する。ロシアはヤヌコビッチ政権と、「2042年まで黒海艦隊を駐留すること」で合意していたが、親欧米派の新政権は、米軍やNATO軍を入れる意志を示していた。それゆえ、プーチンはセヴァストーポリを併合する必要があったのだ(ウクライナ政治におけるクリミアからの親ロシア票は失った)。これに対し、ウクライナ政府と国際社会は、ロシアのクリミア編入を承認せず、経済制裁を課している。
ドンバス戦争
さらに、ロシアと国境を接する東部のドネツク州・ルガンスク州では、親ロ派勢力が州庁舎などを占拠した。2014年4月、彼らは「ドネツク人民共和国(DPR)」と「ルガンスク人民共和国(LPR)」の建国を宣言。ドネツク州460万人のうち230万人がDPRの支配地域に、ルガンスク州240万人のうち150万人がLPRの支配地域に居住している。ただし当時、ロシアは積極的に動いてはいない。これは、クリミアに比べて安全保障上の価値が低く、編入した場合の財政負担と見合わないからだろう。当然、ウクライナ政府もドネツク・ルガンスクの独立を承認せず、親ロ派勢力との間で内戦が勃発した。
このドンバス戦争は、マレーシア航空機撃墜事件など、紆余曲折を経て2015年2月に、ドイツとフランスの仲介により、「ミンスク2停戦合意」が成立する。この内容の核心は、東部2州に高度な自治権を認める点にあるが、外交権も含まれるため、ウクライナのNATO加盟にとっては桎梏となる。結局これは履行されずに戦闘が続き、2022年2月21日、ロシアは独立を承認すると同時に、合意の破棄を明言した。この「破棄」自体は、ロシアにとって不利だが、数日後のウクライナ全面侵攻で、世界はプーチンの異常な決意を見せつけられることになる。
ドンバス戦争は、親ロ派武装勢力とウクライナ軍との戦いが軸だが、そこに義勇兵・傭兵・私兵らが加わっている。親ロ派側にはロシアが物的・人的な支援をしており、軍事会社ワグネルなども関わっている(最近ではチェチェンの首長カディロフの私兵も投入された)。ウクライナ側には義勇兵が加わっており、オリガルヒに支援されたアゾフ大隊などは、後に連隊として国家警備隊に昇格した。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、2014年-21年のドンバス戦争に関連する死者を、13,100-13,300人としている。その内訳は、民間人3,375人以上、ウクライナ軍兵士約4,150人、親ロ派武装集団約5,700人である。
反戦・平和運動の国際的高揚
2022年2月24日、在日クライナ人らが急遽SNSで呼びかけ合い、渋谷ハチ公前広場に結集し約100人が反戦を訴えた。それまでも、ロシア大使館への抗議行動などはあったが、予想を超えた情勢の急展開に、参加者は不安と怒りを隠せない。それでも、ウクライナ国旗や手書きのプラカードを手に、日本語や英語で、「戦争反対」「ウクライナに平和を」などと声をあげた。続いて、26日の集会は約2000人、3月5日のデモは約4000人が結集。在日ウクライナ人だけでなく、ベラルーシ人、ミャンマー人、香港人、日本人、そしてロシア人らも参加。この過程で、以前からあった「在日ウクライナ人の会」とは別に、運動体「Stand with Ukraine Japan」を立ち上げた。
日本の市民団体が主催する、反戦運動も各地で続いている。とりわけ、プーチンが核兵器使用の可能性を口にし、ロシア軍がチェルノブイリ原発やザポリージャ原発を占拠すると、「核戦争反対」「原発を攻撃するな」と激しい抗議の声があがった。労働組合の影は薄いが、それでも「ウクライナへの軍事侵攻に抗議します!」(連合)、「ロシアのウクライナへの軍事侵略に強く抗議し、直ちに撤退を求める」(全労連)、「ロシア軍のウクライナ侵攻を糾弾し、直ちに戦争停止を求める」(全労協)といった声明を出している。日本共産党も社民党も、ロシアに抗議する声明を出したが、れいわ新選組は国会決議に反対し、その理由を声明で述べている。すなわち、「大きく分けて2つの対立する勢力の、どちらかに加勢する立場を日本が取れば、ロシアと対立するもう一つの側とみなされる」というものだ。
世界に目を転じよう。国連緊急特別総会は3月2日、「ウクライナに対する侵略」を非難する決議を、賛成141・反対5・棄権35で採択した。反対したのは、ロシア・ベラルーシ・北朝鮮・エリトリア・シリアで、棄権したのは、中国・インド・イラン・キューバ・カザフスタン・南アフリカ・ベトナムなど。経済制裁には、アメリカ・EU・イギリス・カナダ・日本・韓国が参加。各国から義勇兵がウクライナでの戦闘に合流する一方、日本からは、政府が1億ドルの緊急人道支援を決定し、駐日ウクライナ大使館が約15万人計40億円の寄付を受けた。ウクライナからの避難民は1000万人を超え、日本も受け入れを開始している。
世界各地で反戦運動が高揚しているが、なかでも注目すべきはロシア国内の動向だ。まず3月17日、全ロシア世論調査センターによると、「特別軍事作戦」に関し、支持74%、不支持17%、分からない9%となっている。開戦以来、支持が漸増している一方、情報統制と厳しい弾圧の下で、反戦デモは止むことがない。ロシアの人権団体によると、3月13日時点で、デモは60都市以上で発生し、拘束者は1万4千人を超えた。ただし、ロシア独立労組連合(FNPR)は、「プーチン大統領とロシアの政治的、軍事的リーダーシップの措置を支持する」と表明し、ロシア労働連盟(KTR)は、「敵対行為の早期停止、平和的対話の再開およびロシアとウクライナの多国籍国民間の共存の必要性に信任を表明する」という曖昧な態度だ。
反戦・平和運動をめぐる論争
ユーラシア諸国出身者の在日コミュニティが、深刻な対立に陥っている。まず、「特別軍事作戦支持」のロシア人が、「戦争反対」のデモ参加者への暴行と、とくにロシア人の顔写真を連邦保安庁(FSB)に送付する行動を呼びかけた。実際、動画などで反戦を唱えていた、若いロシア人が委縮し始めている。また、「特別軍事作戦支持」のロシア人は、ウクライナ人らによるロシア大使館前抗議行動を近くで罵倒し、日本の市民団体のオンライン集会にも乱入し中断に追い込んだ。インターネット上はさらに酷く、「戦争反対」声明に対する誹謗中傷コメントや、SNSでのヘイト発言も多い。筆者のロシア語SNSでも、ウクライナ現地や避難先を含め、各地から様々な意見が出され、しばしば激論となっている。テーマは、プーチンの蛮行への非難、ファシストを容認したゼレンスキー政府への批判、双方のフェイク報道への指摘、戦争を止められない国際機関への絶望、世界の平和運動への感謝などだ。
最後に、日本の運動圏での議論を、簡単に見ておきたい。第1に、国旗の問題がある。国旗はナショナリズムの象徴なので、反戦デモに持ち込むべきではない、といった議論である。まず、世界のデモに国旗が登場することは多いが、日本では左派が日章旗を持ち込むことはない。ウクライナ国旗の場合、被抑圧民族の団結の象徴という側面もあると思うが、それでもナショナリズムに変わりはない。ちなみに、反政権派の象徴となった「白赤白旗」を掲げたベラルーシ人は、「ウクライナが羨ましい。なぜなら、民主的な選挙で選ばれた大統領が、民衆と一緒にたたかっているから」と言った。
第2に、「NATOの東方拡大」にも反対すべきか、といった議論である。反対すべきという論者は、ドンバス戦争を含め、米ロ対立が背景にあるという認識だ。それに対し、あくまでロシア軍の侵略戦争に反対すべきという論者は、国際法を重視する。ロシアによる東部2州の独立承認と集団的自衛権の行使という論理には無理があり、国連憲章違反だと批判する。米国の対イラク戦争(2003年)やNATOによるコソボ紛争でのセルビア空爆(1999年)にも問題はあるが、ロシア軍の侵略戦争とは切り離して論じるべきだという。
第3に、非暴力闘争の問題がある。まず、ゼレンスキーは市民にも戦闘を呼びかけ、成人男性の国外退避を禁じ、希望者には武器を配布している。しかし、ジュネーブ諸条約は、戦闘員と非戦闘員は区別すべきだと規定した。非戦闘員(民間人)は保護しなければならない。だが、非戦闘員と非正規戦闘員(義勇兵・傭兵・私兵)とは、実際の戦場では区別されない。国家指導者が「市民よ銃をとれ」と言ったら、敵は誰でも戦闘員として撃つ。また、「停戦合意」が成立した場合、正規の指揮命令系統に制御されにくい彼らは、「停戦合意破り」を繰り返す可能性が高い。他方、ヘルソンなどロシア軍の被占領地域では、非暴力の抗議デモや不服従の抵抗運動が報告されている。日本の運動圏では、戦争に駆り立てる「ゼレンスキー政権打倒」を提唱する者も少なくない。反戦・平和運動の在り方が問われている。