セカオワ『Nautilus』感想&レビュー【ポップの理想郷】 | とかげ日記

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●ポップの理想郷

説明などしなくても皆さんご存知セカオワ(SEKAI NO OWARI)による、通算7枚目となるニューアルバム『Nautilus』のレビュー。

ググってみると、「Nautilus(ノーチラス)はラテン語ではオウム貝や小さな船、ギリシャ語では船舶を意味しています」とのこと。(個人的には、ふしぎの海のナディアのノーチラス号を思い起こします。)本作も様々な世界観の場所を船でめぐっていくように冒険心にあふれたカラフルなアルバムです。

【収録曲】
 1.タイムマシン
《Netflix映画「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。」主題歌》
 2.最高到達点
《CX系アニメ「ONE PIECE」主題歌》
 3.デッドエンド
《富士急ハイランド「ZOKKON」テーマ・ソング》
 4.Habit
《松竹,アスミック・エース配給映画「ホリック xxxHOLiC」主題歌》
 5.深海魚
《ワーナー・ブラザース映画配給映画「怪物の木こり」主題歌》
 6.ユートピア
 7.Diary
《Netflix「未来日記」主題歌》
 8.ターコイズ
《麒麟麦酒「キリン氷結」CMソング》
 9.バタフライエフェクト
《CX系ドラマ「わたしのお嫁くん」オープニング・テーマ》
 10.Eve
 11.ROBO
《EX系ドラマ「シッコウ!!〜犬と私と執行官〜」主題歌》
 12.サラバ
《CX系ドラマ「わたしのお嫁くん」主題歌》

(まず、前提としてセカオワが音楽的に底力があることは、2016年に発表されたSpotify Sessionsの4曲で証明済み。どんなに音楽的偏差値の高い人でも、このバージョンの4曲を聴けば、彼らの才能の豊かさが分かるはず。曲の選択はできないし、CMも挟まれるけど非有料会員でも聴けるのでぜひ!)

セカオワはなんといってもメロディが良い! それは、初期の作品から今まで変わらない。作曲者のFukaseさん、Saoriさん、Nakajinさんの3人は、天賦のメロディメイカーだ。2020年代に出てきたアーティストだと、ダニーバグの杉本さんがそれに並ぶだろうか。

このアルバムの一曲目#1「タイムマシン」 からして素晴らしい! 往年のJpopの名曲のように強く魅惑的な歌メロ。タイトルに合わせたサビのチックタックという歌詞と語感が上手く取り入れられ、キャッチーに歌われている。Fukaseさんのソフトで優しい美声のイノセンスに心洗われる。ストリングスも華を添え、ウェルメイドな名曲だ。この完璧な曲だからこそ、主人公の葛藤と前向きになる過程が過不足なく伝わってくる。


 #2「最高到達点」。バイブスがグングン上がる。こんなに明るく前向きな四つ打ちは久しぶりに聴いた。


 #3「デッドエンド」。ググると、デッドエンドとは、行き詰まりや行き止まりのことを指すらしい。曲の世界観は行き詰まりと表現するには明るすぎて、EDM風味も感じるアレンジは僕にはまぶしすぎるくらいキラキラしている。「僕の人生は何もかもが素晴らしかった」という歌詞は、一日一日を懸命に生きているからこそ書ける歌詞であり、この明るさは本作の肝だろう。


そして、なんといっても2022年のレコード大賞を受賞した楽曲#4「Habit」。レコード会社による出来レース感が強い昨今で、実力も知名度もある納得の受賞だった。価値観を揺さぶるようなメッセージ性の強い楽曲であり、リスナーを挑発し発破をかける。僕は「おこがましい」と言われるのを恐れて何も変えようとしない歌よりも、何かを変えようとする勇敢な歌の方が好きだ。

「つまり それは そんな シンプルじゃない
 もっと 曖昧で 繊細で 不明瞭なナニカ」

安易な二分法をやめて自分と他人の曖昧さや複雑性を認めること。正義を自認する人の中にある悪、悪を自認する人の中にある優しさ、僕らの基本的な価値観である正義と悪にもグラデーションがある。僕らは曖昧な生き物なのだ。だからこそ、様々なグラデーションに彩られた曖昧な感情を豊かに表現できる。セカオワの音楽ってそういう音楽だよね?

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 #5「深海魚」。曲名のとおり、心の奥底に潜っていくようなディープな曲だ。セカオワの過去曲「umbrella」に通じる歌謡曲的なメロディの湿りに安心できる。


#6「ユートピア」。前曲「深海魚」からしっとりとした心の旅が続いていく。ユートピアは人の心の中にあるものだから、内省的なこの曲のテーマと親和性がある。


#7「Diary」。セカオワの過去曲「イルミネーション」のような完成度高いポップソング。曲調はFukaseさんの歌声が痛切なバラードだ。ミスチルでいったら、「くるみ」のような位置付けだろうか。Saoriさんのアーティスティックでクラシカルなピアノがまず素晴らしい。


#8「ターコイズ」。ケルト音楽っぽいホーンが陽気なバイブスを呼び集めている。人生応援歌ってこの曲のこと。


#9「バタフライエフェクト」Saoriがボーカルを担当した曲。その先の一点を見つめるようなSaoriさんの歌声には感情があまり込められていないように感じるが、それゆえの清涼感がある。


 #10「Eve」。Fukaseさんのメロウなボーカルの落ち着いてセクシーな低音が居心地良い。歌詞のシニカルな視点が鋭くて唸(うな)らされる。


#11「ROBO」はチルなシティポップ風の楽曲。オシャレな作風だし、そのオシャレな曲に「ROBO」と名づけるのもさらに可愛くてオシャレ。


アルバムラストを飾る#12「サラバ」。ルサンチマン(恨みねたみ)を噛み切ったさわやかな風が吹き抜けていく。👇のMVのメンバーの表情がとても良い。(DJ LOVEは被り物をしているけど、良い表情をしているはず!)このアルバムの終わり方、いいね! 元気になれる。


こうして一曲ずつレビューできるのは、似たり寄ったりからはかけ離れて各々の曲に個性があるからだ。

その曲の曲想を表現するために適した音楽性を魔法のように駆使してカラフル万華鏡な世界を顕現させる。セカオワの楽曲にはメンバーの知・情・意(知性・感情・意志)がフル動員され、僕らにポップのユートピアを体感させる。

「ray」や「新世界」などの大衆ポップ化したバンプオブチキンの曲はポップの包容力と包摂力がバケモノクラスにハンパないが、セカオワの名曲にはそれを超えるポップの鮮やかさと軽やかさがあると思う。

前作アルバムの『scent of memory』の収録曲にも「Utopia」というタイトルのもの(ピアノインスト)があった。セカオワの掲げる音楽はリアリズムの描写も交えるけれどもユートピア志向的で理想主義的であり、そこが僕の推せるポイントの一つだ。アジカンのゴッチじゃないけど、"どん底(世界の終わり)から未来を見ている"のだ。

初期作から比べると、作風はだいぶ成熟したが、フレッシュな感性は衰えていない。これからも彼らの作品を楽しみにしている。いつだって、セカオワの音楽はメンバーとリスナーにとっての最高到達点だ。

Score 9.2/10.0

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