ZAZEN BOYS『らんど』感想&レビュー【諸行無常な唯一無二】 | とかげ日記

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●諸行無常な唯一無二

生きるロックレジェンド「向井秀徳」率いるZAZEN BOYS(ザゼン・ボーイズ)、前作『すとーりーず』から約12年ぶり(!)のニューアルバム『らんど』のレビュー。唯一無二という言葉は使い古され、言葉の価値がインフレして減じているが(よーよーも使っているけど…)、本当に唯一無二のサウンドだと思う。

【収録曲】
01. DANBIRA
02. バラクーダ
03. 八方美人
04. チャイコフスキーでよろしく
05. ブルーサンダー
06. 杉並の少年
07. 黄泉の国
08. 公園には誰もいない
09. ブッカツ帰りのハイスクールボーイ
10. 永遠少女
11. YAKIIMO
12. 乱土
13. 胸焼けうどんの作り方

向井さんが「ZAZEN BOYS」以前にやっていたバンド「ナンバーガール」。ナンバーガールは1995年に結成され、2002年まで活動していた(その後、2019年から2022年まで一時的に再結成)。前期のナンバガは特にそうだが、刹那の激しさで魅せ、そのエネルギーに高揚していくこの感じ。録音されたボーカルの音量も抑えめで、楽器隊とボーカルが等価でぶつかり合うスリル感。カミソリのように切れ味鋭いギター、瞬発力最高なリズム隊。殺(や)り合うという表現がしっくりくる、一触即発で才気煥発なロックバンドだ。


ナンバーガール「透明少女」

特に、ライブでの演奏は語り草だ。僕がもう一度人生をやり直せるとしたら、当時のナンバーガールとブッチャーズ(bloodthirsty butchers)のライブを観ておきたい(本当はナンバーガールが再結成した時に観に行っていればよかったのだけど)。彼らの演奏が活写する勢いゆえの煌(きら)めきと刹那は万生(⇔万死)に値する。ギターロックでここまでできるの?と思うくらい、演奏のいちいちが超常的で魅力的なのだ。僕がサブスクしているアップルミュージックの再生回数の上位にもライブ音源があるので、リスナーの多くもライブが魅力だと思っているのだろう。

向井秀徳とナンバーガールのメンバーはミュージシャンズミュージシャンだ。邦楽ロックの系譜の後継者に与えた影響は偉大。たとえば、「N.G.S」(ナンバーガールシンドロームの頭文字)という名前の曲があるアジカン、「Girl meets NUMBER GIRL」という名前の曲があるきのこ帝国。バンド名が曲名の由来であるなんて、そのバンドを愛している証拠に他ならない。

また、より直接的な影響を与えたバンドとして、SuiseiNoboAz(スイセイノボアズ)がある。ボアズは2009年に向井さんのプロデュースのアルバムでデビューした。僕の最推しバンドである"うみのて"の第一期のメンバーである高野京介さんも現在はボアズでギターを弾いている。その"うみのて"を率いる笹口騒音も「笹口騒音オーケストラ」というバンドでナンバーガールの「鉄風 鋭くなって」をカバーしている。

そこから、ザゼンボーイズである。直線的な曲が多かったナンバーガールよりも表現の幅と奥行きが広くなった。トーキング・ヘッズの向井的解釈といえる「Honnoji」などの曲や、54-71のような実験性とヒリつきを同時に感じさせる音楽性の曲、People In The Boxの演奏するマスロックのような計算されつくしたリズムの曲など、振り幅と様々な武器がある。

向井さんもメンバーも、「唯一無二」のすさまじい天才ぶりを発揮している。複雑なリズムの曲でも、無機質ではなく肉感的で血の通っているサウンドに刺激を受ける。そして、「ポテトサラダ」や「はあとぶれいく」など、彼らの曲は独特のキャッチーさがあり中毒性がある。そして、僕はそこに少しばかりの愛嬌も感じるのだ。


ZAZEN BOYS「ポテトサラダ」

ナンバーガールやザゼンボーイズの音楽をどう楽しめば良いのか分からない方もいるだろうが、個性的でオンリーワンなソングライティングと活気がビンビンあふれる演奏の天才性をただ耳に浴び続ければいい。その創造性に脳みそが開発(啓発)される気分になれるから。あるいは、演奏から繰り出されるエネルギーの塊へ、何も考えずに身と心を預ければいい。きっと、彼らの音はあなたを冷凍都市のノスタルジアに連れていくだろう。

そして、本作。

本作『らんど』においても、身体は揺らせなくても脳内でダンスする熱いグルーヴと醒めた実存を感じさせるギターの曲はロックならではのダイナミズムにあふれている。だが、三周聴いてみて正直に思うことを言えば、前作でいうなら「ポテトサラダ」や「はあとぶれいく」「サイボーグのオバケ」のような面白くてキャッチーな華のある曲が好きなので、本作にもそういう曲が欲しかったと思う。

しかし、前作までと同様に歌詞と音の相乗効果と表現の密度がハンパない。たとえば、リード曲の「永遠少女」。戦時中に空襲で焼かれ死んだ少女の遺影のまなざし(永遠少女)と、現代を生きる少女のまなざしは同じだという内容の歌詞にハッとする。戦争を描きながら、安易な説教ソングになっていないところも魅力だ。


ZAZEN BOYS - 永遠少女

草間彌生が同じ水玉模様を繰り返し描くように、同じギターリフ、ベースリフ、ドラムリフを繰り返す反復性にはアートの心が宿っている。そのサウンドを共にして歌う向井秀徳の歌声は念仏のようでありながら前に進み続けるが、どこが前なのかは分からない。諸行無常は繰り返されるし、人生と歴史は円を回り続ける螺旋なのだ。坐禅するようにストイックに本作で録音芸術としてのロックの高みを目指した向井さんとザゼンボーイズメンバーの姿に喝采を送りたい。

Score 8.6/10.0

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🐼オマケ🐼
文中で触れた笹口騒音オーケストラによるナンバガカバー。猥雑な音のテクスチャーがすっごく「ロック」だなぁ。音がぶつかり合い、調和し合い、すっごく「音楽」だなぁ。


笹口騒音オーケストラ『鉄風 鋭くなって』(NUMBER GIRLカバー)