小山田壮平『時をかけるメロディ』感想&レビュー【柔らかな風のような"うた"】 | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
X(旧ツイッター)ID : @yoyo0616



●柔らかな風のような"うた"

元andymori、2015年からはALというバンドでも活動している小山田壮平による3年ぶりのソロ2ndアルバムのレビュー。

【収録内容】 
1. コナーラクへ
2. マジカルダンサー
3. アルティッチョの夜
4. サイン
5. 時をかけるメロディー
6. 月光荘
7. 彼女のジャズマスター
8. それは風のように
9. 恋はマーブルの海へ
10. 汽笛
11. 君に届かないメッセージ
12. スライディングギター


👆アルバムティーザー💿

最初に僕がandymoriやALに対してどのようなスタンスで接してきたのかを書こうと思う。

andymoriの活動を追っているときに僕が彼らの音楽に対して感じたのは、若さゆえに胸のうちより湧き立つ感情と衝動だ。表現への切実な意欲をかき鳴らすロックンロールとロックソングに心を揺らされてきた。

また、andymoriは音楽シーンにおいて、確実にインパクトと強い磁場があった。SUNNY CAR WASH、teto、プププランドという直接的な影響を感じさせるバンドも出てきたし、少し意外なところでは"あいみょん"も影響を公言している。

当時のandymoriの音楽的立ち位置は、今の若者を中心にして人気なバンドでいえば、ギターロックの機能性だけではなく意味性でもリスナーのハートをとらえているという点でMy Hair is Badやハルカミライといったところだろうか。ニューカマーのバンドでは、ダニーバグも近いかもしれない。

しかし、andymoriが上述したバンドから飛びぬけて魅力的なのは、唯一無二のグルーヴだろう。一触即発の瞬発力のあるグルーヴはリスナーを虜(とりこ)にした。和製リバティーンズと一部で言われていたのも納得できる。

andymoriの音楽は僕の青春のテーマソングのひとつだった。彼らの代表曲である「1984」を僕は何度聴いただろう。


惜しまれながらandymori解散後に小山田さんが結成したのはALという4人組バンド。ALの4人のうち3人がandymoriのメンバーなのでandymoriと近似する音楽性の要素もある。

しかし、andymoriと違うのは、シンガーソングライターの長澤知之をバンドに迎えていること。小山田さんと長澤さんは歌声からして波長が合っている。ガンダムでいえばニュータイプの発信&感知能力をお互いに備え、二人の織りなすイノセンスな共鳴は聴き手のこころを清らかに磨いていく。

正直、ALはandymoriほど聴いてはこなかったけれども、良い曲はいくつもあるのは分かっている。屋号を変えても旨いラーメン屋のように。


そして、ソロである。ソロでは、andymoriやALよりも親密さを個人的に感じる。そして、"うた"に振り切れており、他のバンドでいうと、荒川ケンタウロスのような歌の旨みを感じられるグッドソングを鳴らしている。

音楽全般を通して、どんなに良いメロディや演奏でもグッとこないことがある。だが、リスナーの心と直接触れあおうとするような親密さが彼の音楽にはあり、それが琴線に触れるのだ。

僕は小山田さんという個人にも(一方的にだが)親密さを感じている。(だから、彼が川に飛び込んだときは心配した。)小山田さんは僕と一歳差で同じ出身大学だし、僕の二大推しミュージシャンである、の子(神聖かまってちゃん)や笹口騒音(うみのてetc)と繋がりもある。


👆小山田壮平×笹口騒音オーケストラ「1984」

彼の音楽に触れた人がイノセンスや無垢を感じる歌声と音楽を高評価しているのをよく見かける。彼の音楽を聴いた上で感じるこのフィーリングは普遍的なものではないかと思う。

ソロ前作でものびやかな旅情を感じさせた。イノセントで澄んだ彼の歌声の凛々しさにただ耳を傾ければいい。それだけで気分が高揚してくるのだ。


そして、本作。全身全霊というよりは、さりげない所作がそのまま音楽になるような風通しの良い音とソングライティングの精妙な詩魂を本作品においても感じさせる。愛していた記憶が柔らかな風の彼方で忘却されるように哀しげな#8「それは風のように」というタイトルの曲も収録されているし、ルサンチマン(≒恨みねたみ)からはかけ離れた、しがらみのない風のような音楽だと思う。アルバム最後の曲「スライディングギター」でスライドギターによるハワイアンで清らかな音のようなお気楽さで終わるのも好きだ。そして、ただお気楽なだけではなく、含蓄を感じさせる深みがあるのも素晴らしい。

歌詞もあいかわらず面白い。曲名ですら面白い。#1「コナーラクへ」のコナーラクとはインドの都市の名前。#3「アルティッチョの夜」のアルティッチョとはイタリア語で「ほろ酔い」の意味。歌詞にもこういった意表をつく要素があり、このワールドワイドでリリカルなカタカナ語のワードセンスは小山田さんならでは。

また、『時をかけるメロディ』というアルバムタイトルのとおり、メロディの良さが際立っている。このメロディも普遍的だろう。

リードトラック#4「サイン」の珠玉のメロディに涙。ファルセットと地声のバランスが聴きやすい。キンキンしたハイトーンボイスで終始歌い続けるボーカルとは違う、実直で素朴な輝きのある"うた"を彼は歌っている。このアルバムの中でもっともオススメの曲です! 時代が違えば、ミリオンヒットでもおかしくない訴求力がある(少なくともスマッシュヒットはするだろう)。

👇のライブ動画を観てほしい。弾き語りだけど、場の支配力がすごい!


小山田壮平 -サイン(Live)

#9「恋はマーブルの海へ」も良曲。少しばかりの哀切を感じさせつつ、それを振り切りマーブル色に開ける光景。サビや間奏のバックでうにょうにょするシンセの音色が色が溶け合うマーブル色みたい。小山田さん自身もマーブル色なところあるよね。優しく鮮やかな色彩は彼自身。


小山田壮平-恋はマーブルの海へ

andymoriの「everything is my guitar」において、「物語が始まるかもしれないんだよ」と歌っていた小山田さん。本作を聴くと、物語は終わっていないし、新たな物語の始まりの予感もさせるみずみずしい音が鳴っている。ロックミュージックとは、進み続ける生命体のエネルギーの発露だ。これからも転がりながら優しく力強い音楽を鳴らしてほしい。

👇自分をディスってくる相手に「君じゃあ物語なんか始まらねぇ!」と"の子"(固定ハンドル名"2才")は売れる前に2ちゃんねるに書き込んだ。それから物語が始まり、幾星霜。まだ、小山田壮平さんも"の子"も笹口騒音さんも、ファンの想いを背負いながら物語を続けていくだろう。僕も彼らの物語の行方を見届けたい。


Score 8.1/10.0

🐼オマケ🐼


👆andymoriのロックンロールが恋しい方はダニーバグの名曲をどうぞ!

💫関連記事💫こちらの記事も読まれたい❣️
andymori『革命』 (2011年) レビュー&感想
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
👆andymoriもランクイン!